区間 \(-\pi \le x \le \pi\) で定義された関数 \(f(x)\) は,それがどんな関数であっても(区間外では,周期 \( 2\pi \) の周期関数とみなして),三角関数 \( \cos, \ \sin \) の重ね合わせで表すことができる。
フーリエ係数とフーリエ級数展開
- 区間 \(-\pi \le x \le \pi\) で定義された関数 \(f(x)\) は,それがどんな関数であっても…
- (区間外では,周期 \( 2\pi \) の周期関数とみなして)
- 三角関数 \(\cos, \ \sin\) の重ね合わせて表すことができる!
つまり,以下のように書けるということ。
$$ f(x) = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} \bigl( a_n \cos n x + b_n \sin nx \bigr) $$
ここで,\(a_0, a_1, \cdots, b_1, b_2, \cdots\) をフーリエ係数と呼び,このような表示を関数 \(f(x)\) のフーリエ級数展開という。
ある関数 \(f(x)\) のフーリエ級数展開を求めよ,という問題は,つまり,\(f(x)\) をうまく表すようにフーリエ係数 \(a_n, b_n\) を求めよ,ということになる。先に答えを書いておくと…
$$a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cos nx \, dx $$
$$b_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \sin nx \, dx $$
以下は,なんでこうなるかという話。まず,フーリエ係数を求めるときに使うのが「三角関数の直交性」という性質である。
基本ベクトルの直交性を例え話に
3次元ベクトルは一般に $$\boldsymbol{a} = a_x \boldsymbol{i} + a_y \boldsymbol{j} + a_z \boldsymbol{k}$$ のように,基本ベクトル \( \boldsymbol{i}, \boldsymbol{j}, \boldsymbol{k}\) と成分 \( a_x, a_y, a_z \) で書けるのであった。
この基本ベクトルは大きさが \(1\) で互いに直交している。
$$\boldsymbol{e}_1 \equiv \boldsymbol{i}, \quad \boldsymbol{e}_2 \equiv \boldsymbol{j}, \quad \boldsymbol{e}_3 \equiv \boldsymbol{k}$$ と書くと,この正規直交性は以下のように書ける。
$$ \boldsymbol{e}_i \cdot \boldsymbol{e}_j = \delta_{ij} =
\begin{cases}
1 & (i = j) \\
0 & (i \neq j)
\end{cases}
$$ ここで,\(\delta_{ij}\) はクロネッカーのデルタと呼ばれる記号で,\(i\) と \(j\) が等しいときに \(1\),そうでないときは \(0\) を与える。このことは,つまり直交していることを表しているんだと理解してください。
さらに,ベクトルの成分を $$a_1 \equiv a_x, \quad a_2 \equiv a_y, \quad a_3 \equiv a_z$$ のように書き換えると,
$$ \boldsymbol{a} = \sum_{i=1}^{3} a_i \boldsymbol{e}_i $$ であり,この両辺に \(\boldsymbol{e}_j\) を内積としてかけてやると,
$$ \boldsymbol{a} \cdot\boldsymbol{e}_j = \sum_{i=1}^{3} a_i \boldsymbol{e}_i\cdot \boldsymbol{e}_j = \sum_{i=1}^{3} a_i \delta_{ij} = a_j$$ つまり,成分 \(a_j\) が以下のような内積によって求められる。
$$ a_j = \boldsymbol{a} \cdot\boldsymbol{e}_j $$
三角関数の「直交性」
コサイン同士
\begin{eqnarray}
\int_{-\pi}^{\pi} \cos mx \, \cos nx\, dx &=& \frac{1}{2} \int_{-\pi}^{\pi}
\Bigl\{\cos(m+n)x + \cos(m-n)x
\Bigr\} \,dx \\
&=& \pi \delta_{mn} = \begin{cases}
\pi & (m = n) \\
0 & (m \neq n)
\end{cases}
\end{eqnarray} これを以下のように読む:コサインは自分自身との(内積に相当する)積分が\(\pi\),それ以外(との内積に相当する積分)はゼロ。
サインとコサイン
\begin{eqnarray}
\int_{-\pi}^{\pi} \sin mx \, \cos nx\, dx &=& \frac{1}{2} \int_{-\pi}^{\pi}
\Bigl\{\sin(m+n)x + \sin(m-n)x
\Bigr\} \,dx \\
&=& 0
\end{eqnarray}これを以下のように読む:サインとコサインとの(内積に相当する)積分はゼロ。
サイン同士
\begin{eqnarray}
\int_{-\pi}^{\pi} \sin mx \, \sin nx\, dx &=& \frac{1}{2} \int_{-\pi}^{\pi}
\Bigl\{\cos(m-n)x – \cos(m+n)x
\Bigr\} \,dx \\
&=& \pi \delta_{mn} = \begin{cases}
\pi & (m = n) \\
0 & (m \neq n)
\end{cases}
\end{eqnarray}これを以下のように読む:サインは自分自身との(内積に相当する)積分が\(\pi\),それ以外(との内積に相当する積分)はゼロ。
かたや基本ベクトルは3次元ベクトルの内積,かたや三角関数は区間 \(-\pi \le x \le \pi \) の積分ではあるが,同じもの同士の場合は値を持ち,それ以外の場合はゼロという意味で「直交性」ということが理解できる,と思いますがどうでしょう?
三角関数の直交性を利用してフーリエ係数を求める
$$ f(x) = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} \bigl( a_n \cos n x + b_n \sin nx \bigr) $$ の式の両辺に \(\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi} dx \, \cos mx \) を「かける」と…
$$ m = 0: \quad \int_{-\pi}^{\pi} \cos mx\cdot f(x) \, dx = \pi\, a_0$$
$$ m \geq 1: \quad \int_{-\pi}^{\pi} \cos mx\cdot f(x) \, dx = \sum_{n=1}^{\infty} a_n\cdot \pi \delta_{mn} = \pi\, a_m$$
同様に,
$$ m \geq 1: \quad \int_{-\pi}^{\pi} \sin mx\cdot f(x) \, dx = \sum_{n=1}^{\infty} b_n\cdot \pi \delta_{mn} = \pi\, b_m$$
フーリエ級数展開のまとめ
以上をまとめると次のようになる。以後はこれを公式として使って,フーリエ級数展開を行ってください。
$$ f(x) = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} \bigl( a_n \cos n x + b_n \sin nx \bigr) $$
$$a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cos nx \, dx $$
$$b_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \sin nx \, dx $$
以上の関係を3次元ベクトルの以下の関係と比べて類似性を味わってみるのも興味深い。
$$ \boldsymbol{a} = \sum_{i=1}^{3} a_i\, \boldsymbol{e}_i $$ $$ a_i = \boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{e}_i $$
フーリエ展開する関数 $f(x)$ がちょうど $\boldsymbol{a}$ に,フーリエ級数の \(\cos mx, \ \sin m x\) がちょうど基本ベクトル \(\boldsymbol{e}_i \) の役割を,フーリエ係数 \( a_n, \ b_n\) がベクトルの成分 \(a_i \) の役割を担っていることがわかるでしょう。