ニュートン宇宙論

宇宙論とは,銀河を最小構成単位とするようなスケールで,物質や銀河の入れ物としての宇宙の現在・過去・未来を探る学問分野である。

ここではまず,ニュートン力学の運動方程式万有引力の法則から,(一般相対論を使わずに)宇宙の膨張を記述するフリードマン方程式を導く。導かれた方程式は一般相対論的宇宙論においても,そのままの形で成り立つ。なので,アインシュタイン方程式とは何ぞやという問題に深く関わらずに膨張宇宙の姿を理解することができることを期待している。

ここでは4元ベクトルの出番はなく,すべて3次元ベクトル。なので,太字でベクトルを表し,
$$\boldsymbol{v} = (v_x, v_y, v_z)$$などと書くことにする。

万有引力の法則と運動方程式

宇宙空間のどこかに原点を設定し,そこからの位置ベクトル \(\boldsymbol{r}\) の地点にある質量 \(m\) のテスト粒子に対する運動方程式は
$$m \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{F} = m \boldsymbol{g}$$

ここで \(\boldsymbol{g}\) は重力加速度ベクトルであり,以下の方程式から決まる。

\begin{eqnarray}
\nabla\cdot\boldsymbol{g} &=& -4 \pi G \rho \\
\boldsymbol{g} &\equiv& – \nabla\phi \\
\therefore\ \ \nabla^2 \phi &=& 4\pi G \rho
\end{eqnarray}
ここで \(\rho\) は質量密度分布である。(補足を参照。)

ハッブル=ルメートルの法則と「宇宙原理」の仮定

ハッブル=ルメートルの法則とは,遠方の(おおむね 10メガパーセク以上離れた)銀河の後退速度が距離に比例する,という観測値の間の関係式である。

銀河までの距離を \(R\) とすると,この法則は
$$\frac{dR}{dt} \propto R$$と書ける。

この法則に,「大きなスケールでみれば,宇宙は一様(場所によらない)かつ等方(方向によらない)である」という「宇宙原理」の仮定を加えると,以下のようになる。

まず,ハッブル=ルメートルの法則等方であるとすると,空間3方向について,(3方向別々ではなく)共通の比例項(比例「定数」ではない)\(H\) を使って
$$\frac{d\boldsymbol{r}}{dt} = H(t, \boldsymbol{r}) \boldsymbol{r}$$

と書けるだろう。さらにこの法則は一様であるとすると,\( H(t, \boldsymbol{r})\) は場所によらないとすべきであり,
$$H(t, \boldsymbol{r}) \Rightarrow H(t)$$となる。せいぜい依存してもよいのは \(t\) だけであり,空間依存性はない,とするのが一様性の仮定である。

あらためて \(\displaystyle H(t) \equiv \frac{\dot{a}}{a}\) とおくとハッブル=ルメートルの法則
$$ \dot{\boldsymbol{r}} = \frac{\dot{a}}{a} \boldsymbol{r}$$となり,これは以下のように解くことができる。

$$\boldsymbol{r} = a(t) \boldsymbol{x}, \quad \frac{d\boldsymbol{x}}{dt} = \boldsymbol{0}$$

まとめると,ハッブル=ルメートルの法則という観測量の間の関係式に,(作業仮説としての)「宇宙原理」を仮定することによって,宇宙空間の銀河の位置を表す位置ベクトル \(\boldsymbol{r}\) はスケール因子 \(a(t)\) と時間的に変化しない座標 \(\boldsymbol{x}\) を使って,
$$\boldsymbol{r} = a(t) \boldsymbol{x}$$
と書けることになる。(流体力学的に言えば \(\boldsymbol{r}\) がオイラー座標,\(\boldsymbol{x}\) がラグランジュ座標。また,宇宙論では \(\boldsymbol{x}\) を特に共動座標という。)

質量保存則と「宇宙原理」の仮定

半径 \(r\) 内の全質量 \(M_r\) は時間的に変化しない,というのが質量保存則である。一様性の仮定をすると,物質密度分布 \(\rho\) は空間依存性をもたないことになり,
\begin{eqnarray}
\frac{d M_r}{dt} &=& \frac{d}{dt} \iiint_V \rho(t) dV \\
&=& \frac{d}{dt} \left(\frac{4\pi}{3} r^3 \rho(t) \right) \\
&=& \frac{d}{dt} \left(\frac{4\pi}{3} a^3 |\boldsymbol{x}|^3  \rho(t) \right) = 0
\end{eqnarray}
$$\therefore \ \ \frac{d}{dt} (\rho a^3) = 0, \quad\mbox{or}\quad
\dot{\rho} + 3 \frac{\dot{a}}{a} \rho = 0 \tag{1}$$

「宇宙原理」による万有引力の法則と運動方程式

一様な質量密度分布の場合は(球対称分布の場合の式がそのまま使えて)運動方程式は

$$m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}  = \boldsymbol{F}$$

左辺は

$$m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} = m \boldsymbol{x} \frac{d^2 a}{dt^2}$$

右辺は(連続的な質量分布の場合の \(\boldsymbol{F}\) については補足を参照)

\begin{eqnarray}
\boldsymbol{F} &=& – \frac{GM_r m }{r^3} \boldsymbol{r}\\
&=& – m \frac{4\pi G \rho a^3 |\boldsymbol{x}|^3}{3} \frac{a \boldsymbol{x}}{a^3 |\boldsymbol{x}|^3} \\
&=& -m \boldsymbol{x}\frac{4\pi G \rho a}{3}
\end{eqnarray}

最終的に
$$\ddot{a} = – \frac{4\pi G}{3} \rho a, \quad \mbox{or}\quad \frac{\ddot{a}}{a} = – \frac{4\pi G}{3} \rho \tag{2}$$

さらに \((2)\) 式の両辺に \(2 \dot{a}\) をかけると,
\begin{eqnarray}
2 \dot{a} \ddot{a} = \frac{d}{dt}\left(\dot{a}^2\right) &=& – \frac{8\pi G}{3} \rho a \dot{a} \\
&=& – \frac{8\pi G}{3} (\rho a^3) \frac{\dot{a}}{a^2}\\
&=& \frac{8\pi G}{3} (\rho a^3) \frac{d}{dt}\left(\frac{1}{a}\right)\\
&=& \frac{d}{dt}\left(\frac{8\pi G}{3} (\rho a^3) \frac{1}{a}\right) \\
&=& \frac{d}{dt}\left(\frac{8\pi G}{3} \rho a^2\right)
\end{eqnarray}

ここで \( \displaystyle \frac{d}{dt} (\rho a^3) = 0\) を使った。
\begin{eqnarray}
\therefore\ \ \frac{d}{dt} \left( \dot{a}^2 – \frac{8\pi G}{3} \rho a^2\right) &=& 0 \\
\therefore\ \ \dot{a}^2 – \frac{8\pi G}{3} \rho a^2 &=& \mbox{const.} \equiv -k
\end{eqnarray}

両辺を \(a^2\) で割って,適宜移項してやると
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{3}$$

これがスケール因子 \(a(t)\),ひいては膨張宇宙の現在・過去・未来を決める方程式であり,一般相対論的宇宙論においてはフリードマン方程式という名前がつけられている。

ここまでのまとめ

ニュートン宇宙論において得られた式を式番号同じのまま,ここにまとめておく。

$$\dot{\rho} + 3 \frac{\dot{a}}{a} \rho = 0 \tag{1}$$
$$\quad \frac{\ddot{a}}{a} = – \frac{4\pi G}{3} \rho \tag{2}$$
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{3}$$

ここで,\(\rho(t)\) は物質密度分布であり,「宇宙原理」の仮定により一様で空間依存性をもたない。 \(a(t)\) はスケール因子であり,時間的に一定な共動座標 \(\boldsymbol{x}\) に因子としてかけられ,空間座標 \(\boldsymbol{r}\) を表す:\(\boldsymbol{r} = a(t) \boldsymbol{x}\)。

これらの式は,一般相対論的宇宙論においても,ダスト物質の場合はそのままの形で成り立つ。(ただし,ニュートン宇宙論においては単なる積分定数だった \(k\) が一般相対論的宇宙論においては3次元空間の曲率定数という解釈となるなど,解釈に微妙な違いがでてくるかもしれないが。)

ここまでくると,解くべき方程式は一般相対論的宇宙論におけるフリードマン方程式と全く同じであるから,ニュートン宇宙論のセクションはこれくらいにして,あとは一般相対論的宇宙論のほうで話を続けよう。

補足:連続的な質量分布の場合の万有引力の法則

(離散的な)質点間にはたらく万有引力の法則が,連続的な質量密度分布の場合にはどうなるか,特に,質量密度分布が球対称な場合はどうなるか,という話。