一般相対論的時空の表し方

重力の理論である一般相対性理論では,重力は個々の物体に働く「力」というよりも,入れ物としての時空そのものの曲がり具合として記述される。

時空の曲がり具合を記述するのが微分幾何学であり,そこには曲率テンソルをはじめとした多くの数学的道具立てが現れる。曰く,平行移動共変微分,そこで使われる接続係数(3つも添字を持ちながらテンソルではない)や,はたまた計量テンソルリーマンの曲率テンソルリッチテンソルアインシュタインテンソル等々.

ここでは,曲率テンソルの物理的イメージを感じていただけるように,力学の運動方程式に相当する測地線方程式の話からはじめて,「平行移動と共変微分は使わずに」,それでいて式の説明は割愛せず,曲率テンソルの導入まで説明してみる。

表記について

  • 4元ベクトルは太字で \(\boldsymbol{u}, \boldsymbol{k}\) などと書く。
  • 4元ベクトルの成分は \(u^{\mu} = (u^0, u^1, u^2, u^3)\) などのように書く。
  • ギリシャ文字の添字  \(\lambda, \mu, \nu, \dots\) は \(0\) から \(3\)。
  • アインシュタインの規約により,上添字と下添字に同じギリシア文字があったら,たとえ \(\displaystyle \sum\) がなくても自動的に \(0\) から \(3\) までの和を取る。
  • 4元ベクトル \(\boldsymbol{u}\)  はその成分 \(u^{\mu}\) と4次元時空の基本ベクトル \(\boldsymbol{e}_{\mu}\) を使って以下のように書く。
    $$\boldsymbol{u} = \sum_{\mu=0}^3 u^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu} \equiv u^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}$$
  • 2つの4元ベクトルの内積は \(\cdot\) 記号であらわす。特に基本ベクトル同士の内積は計量テンソルの成分 \(g_{\mu\nu}\) を与える。
    $$\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} = g_{\mu\nu}$$
    $$ \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{k} = (u^{\mu}\boldsymbol{e}_{\mu})\cdot(k^{\nu}\boldsymbol{e}_{\nu}) = g_{\mu\nu} u^{\mu} k^{\nu} = k_{\mu} u^{\mu}$$
  • しばしば光速 \(c\) について \(c = 1\) とする。

このページは「数理科学 2015年7月号」の記事に加筆したものです。

このセクションの構成

3次元ベクトルの微分

アインシュタインの規約とベクトルの内積

4次元時空のベクトル・線素・計量テンソル

測地線と接続係数・クリストッフェル記号

平行線の公理の破れとリーマンテンソル

アインシュタイン方程式と人生最大の過ち?

共変微分の定義とリッチの恒等式

一般相対論におけるニュートン近似

一般相対論において

  • 重力場は静的である(定常かつ時間反転に対して対称)
  • 重力場は弱い
  • 重力を受けて運動する粒子の速さは光速に比べて小さい
  • という状況がなりたつ場合,メトリックはニュートンの重力ポテンシャル $\phi$ を使って

    $$ds^2  \simeq -\left(1 + \frac{2}{c^2} \phi\right) c^2 dt^2 + \left(1 -\frac{2}{c^2} \phi\right)\,\delta_{ij} dx^i dx^j$$

    と書けることを示す。このような近似をニュートン近似と呼んでいる。

    EinsteinPy や ctensor でアインシュタイン方程式を計算する

    Python の EinsteinPy や Maxima の ctensor などのコンピュータ代数システムを使って,アインシュタイン方程式の解を求める例。