逆双曲線関数の表記は,
$$ \cosh^{-1} x, \quad \sinh^{-1} x, \quad \tanh^{-1} x$$
または
$$ \mbox{arcosh } x, \quad \mbox{arsinh } x, \quad \mbox{artanh } x$$微分は,
$$(\cosh^{-1} x)’ = \frac{1}{\sqrt{x^2-1}}, \ \ (\sinh^{-1} x)’ = \frac{1}{\sqrt{x^2 + 1}}, \ \ (\tanh^{-1} x)’ = \frac{1}{1-x^2}$$
逆三角関数のときには \(\arccos x\) のように \(\bf\mbox{arc}\)「アーク」だったが,逆双曲線関数は\(\bf\mbox{area}\) の略である \(\bf\mbox{ar}\) と書くべきであり,\(\mbox{arc}\)「アーク」と書くべきではない。
双曲線関数の逆関数を一般に逆双曲線関数という。逆双曲線関数はスマホアプリの「計算機」でも使えます。(以下は iPhone の例。横向きにして 2nd をクリックする。)
逆双曲線関数の定義
$\cosh^{-1} x$ または $\operatorname{arcosh} x$
\(y = \cosh^{-1} x= \mbox{arcosh } x\) を \(y = \cosh x\) の逆関数(つまり,方程式 \(x = \cosh y\) を \(y\) について解いたもの)として定義する。定義域と値域は
$$ 1 \leq x < \infty,\quad 0 \leq y < \infty$$
ちなみに,この逆双曲線関数は対数を使って表すことができる。繰り返すが,\(y = \cosh^{-1} x\) は方程式 \(x = \cosh y\) を \(y\) について解いたものだったのだから
\begin{eqnarray}
y &=& \cosh^{-1} x \\
\therefore\ \ x &=& \cosh y = \frac{e^y + e^{-y}}{2} \\
\mbox{両辺に $2 e^y$ をかけて} \quad 2 x e^y &=& \left(e^{y}\right)^2 + 1 \\ \ \\
\therefore\ \ (e^y)^2 -2 x e^y + 1 &=& 0
\end{eqnarray}
これを \(e^y\) についての2次方程式と見做して解くと,
$$ e^y = x \pm \sqrt{x^2-1}, \quad\therefore\ \ y = \log\left(x \pm \sqrt{x^2-1}\right)$$
元の \( x = \cosh y\) が \(x\) 軸について対称な偶関数であったために,その逆関数である \( y = \cosh^{-1} x\) が2価の関数になるのは仕方ないところ。以下のようにすると,
\begin{eqnarray}
\log\left(x -\sqrt{x^2-1}\right)
&=& \log\left(\frac{x^2 -(x^2-1)}{x + \sqrt{x^2-1}} \right)\\
&=& \log\left(\frac{1}{x + \sqrt{x^2-1}} \right)\\
&=& -\log\left(x + \sqrt{x^2-1}\right)
\end{eqnarray} なので,以下のようにも書くことができる。
$$ y = \cosh^{-1} x = \pm \log\left(x + \sqrt{x^2-1}\right)$$主値を \(y>0\) とすれば,\( y = \cosh^{-1} x = \log\left(x + \sqrt{x^2-1}\right)\) のみとなる。
$\sinh^{-1} x$ または $\operatorname{arsinh} x$
\(y = \sinh^{-1} x = \mbox{arsinh } x\) を \(y = \sinh x\) の逆関数(つまり,方程式 \(x = \sinh y\) を \(y\) について解いたもの)として定義する。定義域と値域は
$$-\infty < x < \infty,\quad -\infty < y < \infty$$
ちなみに,この逆双曲線関数は対数を使って表すことができる。繰り返すが,\(y = \sinh^{-1} x\) は方程式 \(x = \sinh y\) を \(y\) について解いたものだったのだから
\begin{eqnarray}
y &=& \sinh^{-1} x \\
\therefore\ \ x &=& \sin y = \frac{e^y -e^{-y}}{2} \\
\mbox{両辺に $2 e^y$ をかけて} \quad 2 x e^y &=& \left(e^{y}\right)^2 -1 \\ \ \\
\therefore\ \ (e^y)^2 -2 x e^y -1 &=& 0
\end{eqnarray}
これを \(e^y\) についての2次方程式と見做して解くと,\( e^y > 0\) であることから
$$ e^y = x + \sqrt{x^2+1}, \quad\therefore\ \ y = \sinh^{-1} x = \log\left(x + \sqrt{x^2+1}\right)$$
$\tanh^{-1} x$ または $\operatorname{artanh} x$
\(y = \tanh^{-1} x = \mbox{artanh } x\) を \(y = \tanh x\) の逆関数(つまり,方程式 \(x = \tanh y\) を \(y\) について解いたもの)として定義する。定義域と値域は
$$ -1 < x < 1,\quad -\infty < y < \infty$$
ちなみに,この逆双曲線関数は対数を使って表すことができる。繰り返すが,\(y = \tanh^{-1} x\) は方程式 \(x = \tanh y\) を \(y\) について解いたものだったのだから
\begin{eqnarray}
y &=& \tanh^{-1} x \\
\therefore\ \ x &=& \tanh y = \frac{e^y -e^{-y}}{e^y + e^{-y}} \\
\mbox{両辺に $e^y\,(e^y + e^{-y})$ をかけると} \quad && \\
x \left( \left(e^y\right)^2 + 1\right) &=& \left(e^y\right)^2 -1 \\
\left(e^y\right)^2 &=& \frac{1 -x}{1 +x} \\
e^y &=& \sqrt{\frac{1+x}{1-x}} \\
\therefore\ \ y
&=& \log \sqrt{\frac{1+x}{1-x}} \\
&=& \frac{1}{2} \log\left(\frac{1+x}{1-x}\right) \\
\mbox{つまり}\quad y = \tanh^{-1} x &=& \frac{1}{2} \log\left(\frac{1+x}{1-x}\right)
\end{eqnarray}
逆双曲線関数の微分
\begin{eqnarray}
(\cosh^{-1} x)’ &=& \frac{d}{dx} \log\left(x + \sqrt{x^2-1}\right)\\
&=& \frac{1}{\sqrt{x^2-1}}\\ \ \\
(\sinh^{-1} x)’ &=& \frac{d}{dx}\log\left(x + \sqrt{x^2+1}\right) \\
&=& \frac{1}{\sqrt{x^2 + 1}}\\ \ \\
(\tanh^{-1} x)’ &=& \frac{d}{dx} \frac{1}{2} \log\left(\frac{1+x}{1-x}\right)\\
&=& \frac{1}{1-x^2}
\end{eqnarray}
証明は,対数関数表記を直接微分してもいいし,また逆関数の微分法を使ってもよい。
例として,\((\cosh^{-1} x)’\) について逆関数の微分法を使って証明してみる。\(\cosh^2 y -\sinh^2 y = 1\) も使います。まず,\( y = \cosh^{-1} x \) は \( x = \cosh y\) の逆関数であったので,この両辺を \(y\) で微分して,
$$ \frac{dx}{dy} = \frac{d}{dy} \cosh y = \sinh y = \sqrt{\cosh^2 y -1} = \sqrt{x^2-1}$$
$$ \therefore \ \ \frac{d}{dx} \cosh^{-1} x = \frac{dy}{dx} = \frac{1}{\frac{dx}{dy}} = \frac{1}{\sqrt{x^2-1}}$$
対数関数表記を直接微分する場合は,
\begin{eqnarray}
\frac{d}{dx} \cosh^{-1} x &=& \frac{d}{dx} \log\left(x + \sqrt{x^2-1}\right) \\
&=& \frac{1 + \frac{x}{\sqrt{x^2-1}}}{x + \sqrt{x^2-1}} \\
&=& \frac{1}{\sqrt{x^2 -1}}
\end{eqnarray}
$(\sinh^{-1} x)’$ についても,上の対数関数表記を直接微分した結果で $\sqrt{x^2 -1} \rightarrow \sqrt{x^2 +1}$ の置き換えをすればいいので簡単。
$(\tanh^{-1} x)’ $ についても対数関数表記を直接微分してやってみると,
\begin{eqnarray}
\frac{d}{dx} \tanh^{-1} x &=& \frac{d}{dx} \frac{1}{2} \log\left(\frac{1+x}{1-x}\right) \\
&=& \frac{1}{2} \frac{d}{dx} \bigl\{ \log(1+x) -\log(1-x)\bigr\} \\
&=& \frac{1}{2} \left( \frac{1}{1+x} + \frac{1}{1-x}\right) \\
&=& \frac{1}{1-x^2}
\end{eqnarray}
逆双曲線関数の表記
\(\displaystyle (\cosh x)^{-1} = \frac{1}{\cosh x} \) なので,つい以下のような間違いをしてしまうこともあるかもしれない。
\(\displaystyle \cosh^{-1} x = \frac{x}{\cosh } \)(大間違い!!)とか,\(\displaystyle \cosh^{-1} x = \frac{1}{\cosh x} \)(間違い!!)とか…
誤解してしまう恐れがあるので,このようなお茶目な間違いを誘発しないように,逆双曲線関数に対して以下のような表記法を用いることもある。
$$ \cosh^{-1} x = \mbox{arcosh } x, \quad \sinh^{-1} x = \mbox{arsinh } x, \quad \tanh^{-1} x = \mbox{artanh } x$$
逆双曲線関数は \(\bf\mbox{area}\) の略である \(\bf\mbox{ar}\) と書くべきであり,\(\mbox{arc}\)「アーク」と書いたり読んだりすべきではない。なぜ逆双曲線関数が面積 \(\bf\mbox{area}\) なのかについては,以下を参照:
高木貞治「解析概論」には,
「\(\cosh, \sinh\) の逆函数を \(\bf\mbox{area cos hyp}\), \(\bf\mbox{area sin hyp}\),または略して \(\bf\mbox{ar cosh}\), \(\bf\mbox{ar sinh}\) などで表す。」と書いてある。
また,逆双曲線関数 – Wikipedia には
「arcsinh やarccosh などが本来誤表記であるにも関わらず良く使用される」との記載がある。
逆双曲線関数の読み方
逆双曲線関数の読み方については,これ!といったものが存在しないようだ。Wikipedia のように,\(\sinh^{-1} x\) を「アーク・ハイパボリック・サイン」と読んだり書いたりするな!とはあるが,ではなんと読めばいいかについては明言しているサイトや教科書が見当たらない。
「エリア・ハイパボリック・サイン」と読むべきなのだろうが聴き慣れないし,「アー・ハイパボリック・サイン」というのも,なんだかため息をついているようなので,ここでは英語表記のカタカナ直訳で「インバース・ハイパボリック・サイン」などと読んでみることとしよう。
\(\sinh^{-1} x\):「インバース・ハイパボリック・サイン・エックス」
\(\cosh^{-1} x\):「インバース・ハイパボリック・コサイン・エックス」
\(\tanh^{-1} x\):「インバース・ハイパボリック・タンジェント・エックス」
逆双曲線関数のグラフ
3つまとめてグラフにすると…