逆三角関数と逆双曲線関数の書き方読み方

逆三角関数は

$$\sin^{-1} x = \arcsin x, \quad \cos^{-1} x = \arccos x, \quad \tan^{-1}x = \arctan x$$

arc と書いて「アーク」と読むのに,逆双曲線関数は

$$\sinh^{-1} x = \mbox{arsinh}\  x, \quad \cosh^{-1} x = \mbox{arcosh}\  x, \quad \tanh^{-1}x = \mbox{artanh}\  x$$

のように,area の略の ar であり,arc と書くべきではないし,「アーク」と読むべきでもない理由について。「逆」関数だから「arc」をつける,というのではない。そもそも「arc」に「逆」の意味はない。


逆双曲線関数の微分」のページで既に書いているのだが,宇宙年齢のページなどでも逆双曲線関数を多用しているので,念のため。

弧度法(ラジアン)

そもそも角度を弧度法の単位であるラジアンであらわすということは,上の図のように,角度 \(\theta\) が見込む半径 \(1\) の円上のアーク(孤)\(AP\) の長さで表すということである。

例えば \(\theta = 360^{\circ}\) であれば,単位円の全周を表すから,半径 \(r = 1\) の円の円周は \(2\pi r = 2\pi \) だから \(\theta = 2 \pi \ \mbox{(rad)}\) であるし, \(\displaystyle\theta = \frac{360}{6} = 60^{\circ}\) であれば,アーク(孤)\(AP\) の長さは円周の \(1/6\) になるから,\(\displaystyle\theta = \frac{2\pi}{6} = \frac{\pi}{3} \mbox{(rad)}\) となる。

弧度法と三角関数

角度 \(\theta\) を弧度法(ラジアン)であらわすと,$$\cos \theta = x$$とはつまり,単位円上のアーク(孤)\(AP\) の長さが \(\theta\) となるような点 \(P(x, y(x))\) (ここで \(y\) は \(y^2 = 1 – x^2\) を満たす)の \(x\) 座標を与える関数が \(\cos \theta\) である,という意味になる。

同様にして,$$\sin \theta = y$$とはつまり,単位円上のアーク(孤)\(AP\) の長さが \(\theta\) となるような点 \(P(x(y), y)\) (ここで \(x\) は \(x^2 = 1 – y^2\) を満たす)の \(y\) 座標を与える関数が \(\sin \theta\) である,という意味になる。

弧度法と逆三角関数

$\cos \theta = x$ の逆関数が $$\cos^{-1} x = \theta$$である。これはつまり,単位円上の点 \(A (1, 0)\) から \(P (x, y(x))\) (ここで \(y\) は \(y^2 = 1 – x^2\) を満たす)までのアーク(孤)\(AP\) の長さ \(\theta\) を与える関数が \(\cos^{-1} x\) である,という意味になる。

同様にして,$\sin \theta = y$ の逆関数が $$\sin^{-1} y = \theta$$はつまり,単位円上の点 \(A (1, 0)\) から \(P (x(y), y)\) (ここで \(x\) は \(x^2 = 1 – y^2\) を満たす)までのアーク(孤)\(AP\) の長さ \(\theta\) を与える関数が \(\sin^{-1} y\) である,という意味になる。

逆三角関数 \(\cos^{-1} x, \ \sin^{-1} y\) がアーク(孤)\(AP\) の長さを与える関数であることがわかったので,これらを「アーク長(弧の長さ)を与える関数」であるとして arc をつけて

$$\cos^{-1} x = {\color{red}{\mbox{arc}}}\!\cos  x, \quad \sin^{-1} y = {\color{red}{\mbox{arc}}}\!\sin y$$

などと書くのは自然なことであろう。

 

双曲線が張る面積

\(x^2 – y^2 = 1\) である(右辺が \(1\)  という意味で)「単位」双曲線上の点 \(A (1, 0)\) と \(P(x, y)\) を考えて,直線 \(OA\),\(OP\) および単位双曲線の一部 \(AP\) で囲まれた図形 \(OAP\) の面積を \(S\) とすると,\(S\) は底辺が \(x\),高さが \(y = \sqrt{x^2 – 1}\) の直角三角形の面積から,\(y = \sqrt{x^2-1}, \ y = 0, \ x = 1, \ x = x\) で囲まれた部分の面積を引いたものであるから,

\begin{eqnarray}
S &=& \frac{1}{2} x y \ – \int_1^x \sqrt{t^2 – 1} \,dt \\
&=& \frac{1}{2} x \sqrt{x^2 – 1} \ – \int_1^x \sqrt{t^2 – 1} \,dt
\end{eqnarray}

部分積分して続けてもいいが,いったん $x$ で微分し,あらためて積分すると…

\begin{eqnarray}
\frac{dS}{dx} &=& \frac{1}{2} \left( \sqrt{x^2 – 1} + \frac{x^2}{\sqrt{x^2 – 1}}\right) – \sqrt{x^2 – 1} \\
&=& \frac{1}{2} \left(\frac{x^2}{\sqrt{x^2 – 1}} –  \sqrt{x^2 – 1}\right) \\
&=& \frac{1}{2} \frac{1}{\sqrt{x^2 – 1}}\\ \ \\
\therefore\ \ S &=& \int_1^x \frac{dS}{dt}\, dt \\
&=& \frac{1}{2} \int_1^x \frac{1}{\sqrt{t^2 – 1}}\, dt \\
&=& \frac{1}{2} \cosh^{-1} x
\end{eqnarray}

また,逆双曲線関数の対数関数表示を使うと,双曲線 \(x^2 – y^2 = 1\) 上の点 \(P(x, y)\) に対して $y(x) = \sqrt{x^2 – 1}$ を代入すると…

\begin{eqnarray}
\sinh^{-1} y &=& \log \left(y + \sqrt{y^2 + 1} \right) \\
\therefore\ \ \sinh^{-1} \sqrt{x^2 – 1} &=& \log \left(\sqrt{x^2 – 1} + \sqrt{(x^2 – 1) + 1} \right) \\
&=& \log\left( x + \sqrt{x^2 – 1} \right) \\
&=& \cosh^{-1} x \\ \ \\
\therefore\ \ S &=& \frac{1}{2}\sinh^{-1} y
\end{eqnarray}

つまり,

$$\cosh^{-1} x = \sinh^{-1} y = 2 S$$

逆双曲線関数 $\cosh^{-1} x, \ \sinh^{-1} y$ が図形 $OAP$ の面積 $S$ の2倍を与えることがわかったので,これらを「エリア(面積)(の2倍)を与える関数」であるとして,area の省略形である ar をつけて

$$\cosh^{-1} x = {\color{blue}{\mbox{ar}}}\!\cosh x, \quad \sinh^{-1} y = {\color{blue}{\mbox{ar}}}\!\sinh y$$

などと書くのは自然なことであろう。

逆双曲線関数 $\cosh^{-1} x, \ \sinh^{-1} y$ は曲線 $AP$(双曲線の一部)の長さを与えるわけではないので,「アーク長(弧長)を与える関数」とは言えないし arc などと書くべきではない。

双曲線 $x^2 – y^2 = 1$ は双曲線関数を使って $x = \cosh t, \ y = \sinh t$ のように媒介変数表示できる。混同してしまいそうだが,双曲線関数 $y = \cosh x$ にそった曲線の長さは積分できて $\sinh x$ を使って書けるが,双曲線そのものの長さ $L$ は以下のように書けるが

$$ L = \int_A^P \sqrt{\left( \frac{dx}{dt}\right)^2 + \left( \frac{dy}{dt}\right)^2} \, dt$$

この積分結果を初等関数で書くことはできない(ようだ)。

まとめ:逆三角関数と逆双曲線関数の書き方読み方

読み方についてはこちらにも書いた。

逆三角関数はアーク長を与えるので arc

逆三角関数 \(\cos^{-1} x, \ \sin^{-1} y\) がアーク(孤)\(AP\) の長さを与える関数であることがわかったので,これらを「アーク長(弧の長さ)を与える関数」であるとして arc をつけて

$$\cos^{-1} x ={\color{red}{\mbox{arc}}}\!\cos  x, \quad \sin^{-1} y = {\color{red}{\mbox{arc}}}\!\sin y$$

逆双曲線関数はエリア(面積)(の2倍)を与えるので area の省略形の ar

逆双曲線関数 $\cosh^{-1} x, \ \sinh^{-1} y$ が図形 $OAP$ の面積 $S$ の2倍を与えることがわかったので,これらを「エリア(面積)(の2倍)を与える関数」であるとして,area の省略形である ar をつけて

$$\cosh^{-1} x = {\color{blue}{\mbox{ar}}}\!\cosh x, \quad \sinh^{-1} y ={\color{blue}{\mbox{ar}}}\!\sinh y$$

参考文献

高木貞治「解析概論」の 54. 節に,面積のことが簡潔に書かれている。

補足:逆三角関数もエリア(面積)(の2倍)を与えるんだけど…

ちなみに,こんなことを書くとこんがらかるかもしれないが,扇形 \(OAP\) の面積 \(S\) は

$$S = \frac{1}{2} \theta, \quad\therefore\ \ \theta = \arccos x = \arcsin y = 2 S$$

である。したがって,逆三角関数は扇形の面積の2倍を与える関数であるという見方もできる。(だからといって,逆三角関数も arc「アーク(弧長)」ではなく area「エリア(面積)」に変えろというつもりはありません。でも,どっちも arc って間違って読み書きしてしまうよりは,どっちも ar と書いても間違いではないような気がします。)

補足:コンピュータ言語における逆双曲線関数の表記

本サイトで多用している Maxima をはじめとして多くのコンピュータ言語では,
逆双曲線関数は

$\sinh^{-1} x = $ asinh(x),$\cosh^{-1} x = $ acosh(x),$\tanh^{-1} x = $ atanh(x)

と表記している。(arc か ar かの論争をさけて a だけをつけるというのはナイスな落としどころ。)

確信犯なのは Mathematica の Wolfram 言語で,逆双曲線関数を

$\sinh^{-1} x = $ ArcSinh[x],$\cosh^{-1} x = $ ArcCosh[x],$\tanh^{-1} x = $ ArcTanh[x]

Arc をつけて 表記している。

また,Python の NumPy でも(SymPy は asinh(x), acosh(x), atanh(x) なのに)

$\sinh^{-1} x = $ numpy.arcsinh(x),$\cosh^{-1} x = $ numpy.arccosh(x),$\tanh^{-1} x = $ numpy.arctanh(x)