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静電場:点電荷の電荷密度とディラックのデルタ関数

原点においた点電荷がつくる静電ポテンシャルの解

すでに「ポアソン方程式の解」のページで,原点においた点電荷 \(q\) がつくる静電ポテンシャルは,(ポアソン方程式を解かなくても)
$$ \phi = \frac{q}{4\pi \varepsilon_0} \frac{1}{r}$$
であることがわかっていると書いた。

 

この解に実際にラプラス演算子 \(\nabla^2\) を作用させた計算をしてみると,
\begin{eqnarray}
\phi &=& \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{1}{r}\\
\nabla \phi &=& – \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{\boldsymbol{r}}{r^3}\\
\nabla^2 \phi &=& \nabla \cdot (\nabla\phi) \\
&=& – \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(
\frac{\partial}{\partial x} \frac{x}{r^3} + \frac{\partial}{\partial y} \frac{y}{r^3} + \frac{\partial}{\partial z} \frac{z}{r^3}
\right)
\end{eqnarray}
\(x\) に関する偏微分の項は
\begin{eqnarray}
\frac{\partial}{\partial x} \frac{x}{r^3} &=& \frac{1}{r^3} + x \frac{\partial}{\partial x} \left(x^2 + y^2 + z^2\right)^{-\frac{3}{2}} \\
&=& \frac{1}{r^3} + x\cdot\left(-\frac{3}{2}\right) \left(x^2 + y^2 + z^2\right)^{-\frac{5}{2}}\cdot 2 x\\
&=& \frac{1}{r^3} – 3 \frac{x^2}{r^5}
\end{eqnarray}
\(y, z\) に関する偏微分の項も同様に計算して
$$\nabla^2 \phi = – \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \left(3 \frac{1}{r^3} – 3 \frac{x^2 + y^2 + z^2}{r^5}\right) = 0\ \ \mbox{!!}$$
原点においた点電荷を表す電荷密度 \(\rho\) に対するポアソン方程式
$$ \nabla^2 \phi = – \frac{\rho}{\varepsilon_0}$$の解を求めたはずなのに,実際には

$$\nabla^2 \phi =0$$の解になっている!これはどういうことなのだろうか?点電荷の電荷密度 \(\rho\) とは \(\rho = 0\) のことなのだろうか?

 

原点においた点電荷を表す電荷密度とは?

以上の話をもう少し整理する。

原点においた点電荷 \(q\) がつくる静電ポテンシャルは,(ポアソン方程式を解かなくても)
$$ \phi = \frac{q}{4\pi \varepsilon_0} \frac{1}{r}$$であると書いた。実はここに(自明であるので書かなかったが重要な)ある条件が存在する。それは

「この解は \(r \neq 0\) の場合の解であること」

当たり前のことだが,\(r = 0\) では静電ポテンシャルの分母がゼロになってしまうので,\(r = 0\) の点は除外した解である。「 原点においた点電荷」とは,大きさが無視できるような,\(r = 0\) の 1点にのみ存在する電荷のことであるから,この点電荷を表す電荷密度は原点以外では \(\rho = 0\) である。

では,まさに \(r = 0\) の原点に点電荷が存在することを表す電荷密度とはどのように書けるのか。そのために,(とても普通とは思えない関数なので)「超関数」の一種である「ディラックのデルタ関数」の説明をしておく。

1次元のディラックのデルタ関数

(1変数 \(x\) のみの関数という意味で)「1次元のディラックのデルタ関数 \(\delta(x)\) は以下のように定義される。
$$ \delta(x) = 0 \quad\mbox{for} \ x \neq 0$$
$$\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \delta(x) \,dx = f(0)$$
または,一般に
$$\int_{-\infty}^{\infty} f(x – x_1) \delta(x) \,dx = f(x_1)$$
特に $$\int_{-\infty}^{\infty} \delta(x) \,dx = 1$$

\(x = 0\)「以外の」全ての点で \(\delta(x) = 0\) であり,しかも全区間で積分したら \(1\) という有限の値が出るということは,普通に考えたら \(\delta(0) \rightarrow \infty \mbox{??}\) となるような不思議な関数。

3次元のディラックのデルタ関数

(\(x, y, z\) の3変数の関数という意味で)「3次元の」ディラックのデルタ関数 \(\delta^3(x)\) は以下のように定義される。
$$\delta^3(\boldsymbol{r}) \equiv \delta(x) \delta(y) \delta(z)$$
$$\delta^3(\boldsymbol{r}) = 0 \quad\mbox{for} \ \boldsymbol{r}  \neq \boldsymbol{0}$$

\begin{eqnarray}\iiint_{-\infty}^{\infty} f(\boldsymbol{r}) \delta^3(\boldsymbol{r})\,dV &=&  f(\boldsymbol{0})
\end{eqnarray}

または,一般に

\begin{eqnarray}\iiint_{-\infty}^{\infty} \boldsymbol{f}(\boldsymbol{r}) \delta^3(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1)\,dV &=&  \boldsymbol{f}(\boldsymbol{r}_1)
\end{eqnarray}

 

点電荷の電荷密度をデルタ関数を使って表す

ディラックのデルタ関数を使うと,原点においた点電荷 \(q\) を表す電荷密度は
$$ \rho = q \delta^3(\boldsymbol{r})$$ となる。つまり,この点電荷がつくる静電ポテンシャルは
$$\nabla^2 \phi = – \frac{1}{\varepsilon_0} q \delta^3(\boldsymbol{r})$$の解であり,以下のように解けるということになる。
$$ \phi = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0} \frac{1}{r}$$