Return to 時間変動しない電磁場に対するマクスウェル方程式

参考:仕事とポテンシャルエネルギー,静電ポテンシャルの意味

静電ポテンシャルがポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)であることの説明。

1次元バネのポテンシャルエネルギー

まずは簡単な力学の例でポテンシャルエネルギーを説明する。

1次元のバネが平衡の位置から \(x\) だけ変位すると,変位に比例した復元力がはたらく。フックの法則と呼ばれるこの性質は以下のように書ける。
$$F = – k x $$
ここで \(k\) はバネ定数と呼ばれる比例定数。

このバネの復元力に逆らって,\(x = 0\) から \(x\) まで伸ばすのに必要な仕事(エネルギー)\(W\) は
$$ W = \int_0^x (-F) \,dx = \int_0^x k x \,dx = \frac{1}{2} k x^2$$
これだけの仕事をした,つまりエネルギーを与えたのであるから,変位 \(x\) だけ伸びたバネは \( \frac{1}{2} k x^2 \) の位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)を持つことになる。

静電場の場合のポテンシャルエネルギー

静電場の場合も同様。

静電場中に電荷 \(q\) を置くと,\( \boldsymbol{F} = q \boldsymbol{E}\) の力がはたらく。この力に逆らって,点電荷を \(\boldsymbol{r}_1\) から \(\boldsymbol{r}_2 \) まで動かすのに必要な仕事(エネルギー)\(W\) は
$$W = \int_{\boldsymbol{r}_1}^{\boldsymbol{r}_2} (- \boldsymbol{F})\cdot d\boldsymbol{r} = q \int_{\boldsymbol{r}_1}^{\boldsymbol{r}_2} \nabla\phi \cdot d\boldsymbol{r} = q \left( \phi(\boldsymbol{r}_2) – \phi(\boldsymbol{r}_1) \right)$$
(勾配の線積分については「ベクトル場の積分」のページを参照。)

これだけの仕事をした,つまりエネルギーを与えたのであるから,電荷はそれだけの位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)が増えたことになる。つまり,\(\boldsymbol{r} = \boldsymbol{r}_1\) で \(U_1 = q \phi(\boldsymbol{r}_1) \) の位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)だったのが,\(\boldsymbol{r} = \boldsymbol{r}_2\) では \(U_2 = U_1 + W =  q \phi(\boldsymbol{r}_2) \) になるということ。

従って,静電ポテンシャル \(\phi\) は,静電場中の単位電荷あたりのポテンシャルエネルギーを表すことになる。

この静電ポテンシャル \(\phi\) の単位が \(\mbox{V}\)(ボルト)である。静電ポテンシャルはまた「電位」とも呼ばれる。したがって,2点間の電位の差は「電位差」と呼び,業界によっては電位差のことを「電圧」と呼ぶ。

ようやく日常生活でよく使われる電気の単位である「電流」の \(\mbox{A}\)(アンペア)と「電圧」の\(\mbox{V}\)(ボルト)が出そろった。

ボルト・アンペア・ワット

もう少し単位の話を続けると,静電ポテンシャルは単位電荷あたりのポテンシャルエネルギーであるから,静電ポテンシャル(ボルト)に電荷(クーロン)をかけると,エネルギーの単位 \(\mbox{J}\)(ジュール)になる。

$$\mbox{J} = \mbox{C} \cdot \mbox{V}$$

電流 \(\mbox{A}\)(アンペア)は単位時間あたりの電荷の流れであったから,

$$\mbox{A} = \frac{\mbox{C}}{\mbox{s}}, \quad\therefore\ \ \mbox{C} = \mbox{A}\cdot\mbox{s}$$

したがって,

$$\mbox{J} = \mbox{C} \cdot \mbox{V} = \mbox{A}\cdot\mbox{s}\cdot \mbox{V}$$

両辺を \(\mbox{s}\) で割って,

$$\frac{\mbox{J}}{s} = \mbox{A}\cdot\mbox{V}$$

単位時間あたりの仕事つまりエネルギーの使用率を仕事率といい,単位は \(\mbox{W}\)(ワット)であったから,最終的に

$$\frac{\mbox{J}}{s} = \mbox{W} = \mbox{V}\cdot\mbox{A}$$

電圧 \(\mbox{V}\)(ボルト)かける電流 \(\mbox{A}\)(アンペア)が \(\mbox{W}\)(ワット)になる。

皆さんはここで電磁気学の単位が力学の単位と関係づけられる瞬間!を目撃したことになる。