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マクスウェル方程式に現れる諸量の解説

マクスウェル方程式:電磁気学の基礎方程式

電磁気学の基礎方程式であるマクスウェル方程式は以下のような4組の方程式である。

\begin{eqnarray}
\nabla\cdot \boldsymbol{D} &=& \rho  \tag{1}\\
\nabla\cdot\boldsymbol{B} &=& 0  \tag{2}\\
\nabla\times\boldsymbol{E} + \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} &=& \boldsymbol{0}  \tag{3}\\
\nabla\times\boldsymbol{H} – \frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t} &=& \boldsymbol{J} \tag{4}
\end{eqnarray}

書き方としては等号の左辺には場の量,右辺には物質に付随する電荷や電流を表す量をおくことにする。こうしておけば,電荷の保存則をあらわす連続の式

$$\frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla\cdot \boldsymbol{J} = 0$$

も容易に導ける。

電磁気学諸量の説明

電場に関する量の定義

  • 電気力線: 電場の様子を視覚的に表現するために導入された仮想的な線。(実際に目に見えるわけではない。)
    以下の定義から,電気力線は正の電荷から湧き出て,負の電荷に吸い込まれる。正電荷から負電荷への向きを持った線であるとイメージする。


  • 電荷: \(q\) や \(Q\) などと書く。単位は \(\mbox{C}\)(クーロン)
    電気力線の湧き出し口(マイナスの場合は吸い込み口)。
    \(\mbox{C}\)(クーロン)は湧き出す(マイナスの場合は吸い込まれる)電気力線の本数を表す単位。もちろん \(1 \mbox{C}\) の電荷から電気力線が \(1\) 本 だけ湧き出るというよりは\(1\)単位の電気力線が湧き出る,\(2 \mbox{C}\)の電荷からは\(1 \mbox{C}\) の \( 2 \) 倍の本数の電気力線が湧き出る,という相対的な本数の多い少ないを表すと考える。

  • 電荷密度: \( \rho \)(ギリシア文字のロー)と書く。単位は \(\mbox{C}/\mbox{m}^3 \)
    単位体積あたりの電荷。
    (ここでの「密度」とは体積密度の意味。)

  • 電流: \(I \) などと書く。単位は \(\mbox{C}/\mbox{s} = \mbox{A} \)(アンペア)
    ある点または面を単位時間に通過する電荷の量のこと。

  • 電流密度: \( \boldsymbol{J} \)(ベクトル)と書く。単位は \(\mbox{C}/(\mbox{s}\cdot\mbox{m}^2) = \mbox{A}/\mbox{m}^2\)
    ベクトル \( \boldsymbol{J} \) の向きが電流の流れる向きを表し,その大きさ \( J = |\boldsymbol{J}| \) が \( \boldsymbol{J} \) に垂直な単位面積を通過する電流(単位時間あたりの電荷の流れ)を表す。
    (ここでの「密度」とは面密度の意味。)小文字 \(\boldsymbol{j}\) は $y$ 軸方向の基本ベクトルと混同するので大文字 \( \boldsymbol{J} \) で表すことにする。

  • 電束密度: \( \boldsymbol{D} \) (ベクトル)と書く。単位は \( \mbox{C}/\mbox{m}^2 \)
    電束とは電気力線の束(たば)。ベクトル \( \boldsymbol{D} \) の向きが電気力線の向きを表し,その大きさ \( D = |\boldsymbol{D}| \) が \( \boldsymbol{D} \) に垂直な単位面積を貫く電気力線の本数を表す。
    (ここでの「密度」とは面密度の意味。)

磁場に関する量の定義

磁場に関する量についても同様に定義していく…
  • 磁力線: 磁場の様子を視覚的に表現するために導入された仮想的な線。(実際に目に見えるわけではない。)
    以下の定義から,磁気力線はN(正)極から湧き出て,S(負)極に吸い込まれる。N(正)極からS(負)極への向きを持った線であるとイメージする。


  • 磁荷: 単位は\(\mbox{Wb}\)(ウェーバ)
    人名は「ウェーバー」と伸ばすが,単位は「ウェーバ」と伸ばさない,らしい。
    磁力線の湧き出し口(または吸い込み口)。
    \(\mbox{Wb}\)(ウェーバ)は湧き出す(または吸い込まれる)磁力線の本数を表す単位。
    もちろん \(1 \mbox{Wb}\) の磁荷から磁力線が \(1\) 本 だけ湧き出るというよりは\(1\)単位の磁力線が湧き出る,\(2 \mbox{Wb}\)の磁荷からは\(1 \mbox{Wb}\) の \( 2 \) 倍の本数の磁力線が湧き出る,という相対的な本数の多い少ないを表すと考える。
    どうしても書きたいときは \( q_{\rm m} \) などと書く場合もあるが,以下を読めばわかるようにほとんど直(ジカ)に磁荷(ジカ)を表記することはない


  • 磁束密度: \( \boldsymbol{B} \) (ベクトル)と書く。単位は \( \mbox{Wb}/\mbox{m}^2 \equiv \mbox{T}\)(テスラ)
    磁束とは磁力線の束(たば)。ベクトル \( \boldsymbol{B} \) の向きが磁力線の向きを表し,その大きさ \( B = |\boldsymbol{B}| \) が \( \boldsymbol{B} \) に垂直な単位面積を貫く磁力線の本数を表す。
    (ここでの「密度」とは面密度の意味。)

  • 磁荷密度は「ゼロ」
    マクスウェル方程式の (1) 式の対応で (2) 式をみると,電荷密度 \( \rho \) にあたる「磁荷密度」の項がゼロになっていることに気づく。このことを以下のように表現する。
    “磁荷” は単独では存在しない。あるいは,磁気単極子は存在しない。磁石のN(正)極,S(負)極は単独で現れることはなく,必ず対になって現れる。
    棒磁石をどんなに小さく分割していっても,N極だけ・S極だけになることはない。かならずN極S極が対になって現れる。
    磁荷が単独では存在しないことから,磁荷密度は(正負あるいは NS がちょうど打ち消しあって)ゼロであるし,電流や電流密度に対応する「磁流」や「磁流密度」も定義されない。

電磁場の粗密・濃淡を表すベクトルから電磁場の強弱を表すベクトルへ

電束密度 \( \boldsymbol{D} \) や磁束密度 \( \boldsymbol{B} \) ベクトルは,電磁場の粗密・濃淡,いわば幾何学的性質を表すベクトルである。
電気力線・磁力線が密であるところ,濃いところは当然電磁場も強いであろうということから,\( \boldsymbol{D} \) や \( \boldsymbol{B} \) に比例するものとして以下のようにして場の強弱,いわば力学的性質を表すベクトルをつくる。
  • \( \boldsymbol{E} \): 電場ベクトル。単位は \( \mbox{N}/\mbox{C} \)(ニュートン / クーロン)
    単位電荷にはたらく力として定義され,真空の誘電率 \(\varepsilon_0 \) を用いて以下のように書く。
    $$ \boldsymbol{E} \equiv \frac{1}{\varepsilon_0} \boldsymbol{D}$$
  • \( \boldsymbol{H} \): 磁場ベクトル。単位は \( \mbox{N}/\mbox{Wb} \)(ニュートン / ウェーバ)
    単位磁荷にはたらく力として定義され,真空の透磁率 \(\mu_0 \) を用いて以下のように書く。
    $$ \boldsymbol{H} \equiv \frac{1}{\mu_0} \boldsymbol{B}$$

 

電磁場を表す4つのベクトルについて

電磁場を表すのに,\( \boldsymbol{D}, \boldsymbol{B}, \boldsymbol{E},\boldsymbol{H} \) の4本のベクトルが全部必要なのか?どうせ \( \boldsymbol{E} \propto \boldsymbol{D}, \boldsymbol{H} \propto \boldsymbol{B} \) なら,どれか2本で十分なのでは?

電磁場の粗密・濃淡を表すベクトルと電磁場の強弱を表すベクトル

電束密度 \( \boldsymbol{D} \) や磁束密度 \( \boldsymbol{B} \) ベクトルは,電磁場の粗密・濃淡,いわば幾何学的性質を表すベクトルであった。
電気力線・磁力線が密であるところ,濃いところは当然電磁場も強いであろうということから,\( \boldsymbol{D} \) や \( \boldsymbol{B} \) に比例するものとして場の強弱,いわば力学的性質を表すベクトルをつくったのであった。

電場を記述する \( \boldsymbol{D}\) と \( \boldsymbol{E}\) は比例する \( \displaystyle \boldsymbol{E} \equiv \frac{1}{\varepsilon_0} \boldsymbol{D}\) し,磁場を記述する \( \boldsymbol{B}\) と \( \boldsymbol{H}\) だって比例する \(\displaystyle \boldsymbol{H} \equiv \frac{1}{\mu_0} \boldsymbol{B} \)。どうせ比例するのであれば,電磁場を表すのにわざわざ4つのベクトルを使わずとも,2つで十分なのではないか? という質問に対しては…

模範解答につながるヒントとして,米を体積(1カップとか1升とか)で測るか,質量(100グラムとか 1 kg とか)で測るか,という例を出して,どうせ質量は体積に比例するんだから,体積だけを使えばいいんじゃぁない?と思うかもしれないが,米1升と大豆1升を加えても,粒の大きさが違うから体積としては2升ちょうどにはならないよね?だけど,米 1kg と大豆 1kg を足したらちょうど 2kg になるよね?だから,比例するからといってどっちかのみせず,両方必要なんだよ,という話で学生さんに納得してもらおうと思ったが,さっそく「1升」とは何かとかそういうレベルで混乱を招きそうで,なかなか手強い。

 

なので模範解答としては4本全部必要なのですよ,ということになるが,後述する理由により,電場については \( \boldsymbol{D}\) と \( \boldsymbol{E}\) のうちから \( \boldsymbol{E}\) を使い,磁場については \( \boldsymbol{B}\) と \( \boldsymbol{H}\) のうちから \( \boldsymbol{B}\) を使い,電磁場を \( \boldsymbol{E}\) と \( \boldsymbol{B}\) を使って表すことにする。いわゆる $\boldsymbol{E}-\boldsymbol{B}$ 対応ですな。

 

学生時代に読んで強く影響を受けた「ファインマン物理学 III 電磁気学」では最初から徹頭徹尾この $\boldsymbol{E}-\boldsymbol{B}$ 対応だったので,私もはじめは電束密度 \( \boldsymbol{D}\) とか磁場 \( \boldsymbol{H}\) にあんまり馴染みがなかったが,ともかく4本のベクトルを使って書くとマクスウェル方程式は余計な比例定数なく綺麗に書けるわけだから,授業の途中までは4本使って説明するようにしている。