\begin{eqnarray}
\nabla\cdot \boldsymbol{D} &=& \rho \quad \tag{1}\\
\nabla\cdot\boldsymbol{B} &=& 0 \quad \tag{2}\\
\nabla\times\boldsymbol{E} + \color{red}{\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} }&=& \boldsymbol{0} \quad \tag{3}\\
\nabla\times\boldsymbol{H} – \color{red}{\frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t} }&=& \boldsymbol{J} \quad \tag{4}\end{eqnarray}
電磁場が時間的に変化しない場合は,時間に関する偏微分がゼロになるので,
\begin{eqnarray}\nabla\cdot \boldsymbol{D} &=& \rho \quad \tag{1}\\
\nabla\cdot\boldsymbol{B} &=& 0 \quad \tag{2}\\
\nabla\times\boldsymbol{E} &=& \boldsymbol{0} \quad \tag{$3^{\prime}$}\\
\nabla\times\boldsymbol{H}&=& \boldsymbol{J} \quad \tag{$4^{\prime}$}\end{eqnarray}
静電場の基本方程式
電場は電場だけで(磁場がどうなっているかを考えることなく)解くことができる。
$$\nabla\cdot \boldsymbol{D} = \rho, \quad \nabla\times\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0}, \quad \boldsymbol{E} = \frac{1}{\varepsilon_0} \boldsymbol{D} $$
または,\( \boldsymbol{E} \) だけの式にして
$$\nabla\cdot \boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}, \quad \nabla\times\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} $$
静電ポテンシャルの導入とポアソン方程式
ここで,ベクトル場の2階微分の恒等式を思い出して,何かベクトルがあって,そのベクトルの回転がゼロ・ベクトルになるのであれば,そのベクトルは必ず,あるスカラー場の勾配として書けるから
$$\nabla\times\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} \ \ \Rightarrow\ \ \boldsymbol{E} \equiv – \nabla \phi$$
としてスカラー関数 \(\phi(\boldsymbol{r})\) を導入し,これを「静電ポテンシャル」と呼ぶ。右辺にマイナス符号をつけるのは,静電ポテンシャルがポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)としての物理的意味を理解しやすくするためである。
(静電ポテンシャルはまた「電位」とも呼ばれる。2点間の電位の差「電位差」のことを(電気工学では)特に「電圧」と呼ぶ。この電圧の単位は \(\mbox{V}\) (ボルト)である。)
静電ポテンシャルを導入すると,静電気学の基本方程式の1番目は \( \nabla\cdot\nabla \equiv \nabla^2 \) というラプラス演算子を使って以下のように書ける。
$$\nabla\cdot \boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}\quad\Rightarrow\quad \nabla^2 \phi = – \frac{\rho}{\varepsilon_0} $$
この形の2階偏微分方程式(左辺が,あるスカラー関数にラプラス演算子が作用したもの,右辺が一般にスカラー関数という形の式)を「ポアソン方程式」と呼んでいる。
静電ポテンシャルを使った静電場の基本方程式
$$ \nabla^2 \phi = – \frac{\rho}{\varepsilon_0}, \quad \boldsymbol{E} = – \nabla \phi $$
まず,電荷密度 \(\rho(\boldsymbol{r})\) によってつくられる静電ポテンシャル \(\phi \) をポアソン方程式を解くことによって求め,求めた静電ポテンシャル \(\phi \) の勾配をとってマイナスをつけると,電場 \( \boldsymbol{E}\) が求まる。
静磁場の基本方程式
同様に,磁場は磁場だけで(電場がどうなっているかを考えることなく)解くことができる。
$$\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0, \quad \nabla\times\boldsymbol{H}= \boldsymbol{J}, \quad \boldsymbol{H} = \frac{1}{\mu_0} \boldsymbol{B}$$
または,\( \boldsymbol{B} \) だけの式にして
$$\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0, \quad \nabla\times\boldsymbol{B}= \mu_0\,\boldsymbol{J} = \frac{\boldsymbol{J} }{\varepsilon_0 c^2}$$
なぜ \(\displaystyle \mu_0 = \frac{1}{\varepsilon_0 c^2}\) となるのかは,いつか別の機会に。
ベクトルポテンシャルの導入と任意性
ここで,ベクトル場の2階微分の恒等式を思い出して,何かベクトルがあって,そのベクトルの発散がゼロになるのであれば,そのベクトルは必ず,あるベクトル場の回転として書けるから
$$ \nabla \cdot \boldsymbol{B} = 0 \quad\Rightarrow\quad \boldsymbol{B} \equiv \nabla\times \boldsymbol{A}$$
としてベクトル場 \(\boldsymbol{A}\) を導入し,これを「ベクトルポテンシャル」と呼ぶ。
ただし,このベクトルポテンシャルには「任意性」があることに注意。
「任意性」という言葉を説明するために,静電ポテンシャルから説明する。
静電場の場合,
$$ \nabla\times \boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} \quad\Rightarrow\quad \boldsymbol{E} \equiv – \nabla \phi$$として静電ポテンシャル \(\phi\) を導入した。この静電ポテンシャル \(\phi\) に任意定数 \(K\) を加えた別の静電ポテンシャル \(\phi’\) に対しても
$$ \phi’ = \phi + K \quad\Rightarrow\quad – \nabla \phi’ = – \nabla \phi = \boldsymbol{E}$$
つまり,1つの電場 \(\boldsymbol{E}\) を表す静電ポテンシャルは唯一無二に決まるのではなく,任意定数 \(K\) だけ任意性がある。静電ポテンシャルのこの任意性は,ポテンシャルエネルギーの原点をどうとるかという任意性である。
同様な(より込み入った)任意性はベクトルポテンシャルの場合にも存在する。
磁束密度 \(\boldsymbol{B}\) はベクトルポテンシャル \(\boldsymbol{A}\) の回転(という偏微分)からつくられるので,任意定ベクトルを加えても答えは変わらないという意味での任意性はもちろんのことだが,以下のように任意関数 \(\psi\) の勾配 \(\nabla\psi\) を加えても
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{A}’ &\equiv& \boldsymbol{A} + \nabla \psi \\
&\Downarrow& \\
\nabla\times \boldsymbol{A}’ &=& \nabla\times (\boldsymbol{A} + \nabla \psi) \\
&=& \nabla\times \boldsymbol{A} + \nabla\times (\nabla \psi) \\
&=& \nabla\times \boldsymbol{A}\\
&=& \boldsymbol{B}
\end{eqnarray}
となる。ここでベクトル解析の恒等式(勾配の回転は恒等的にゼロベクトル)を利用した。
つまり,1つの磁束密度 \(\boldsymbol{B}\) を与えるベクトルポテンシャルは唯一無二に決まるのではなく,\(\boldsymbol{A}\) も \(\boldsymbol{A}’\) も同じ \(\boldsymbol{B}\) を与える。その意味で,ベクトルポテンシャルには,任意関数 \(\psi\) の勾配 \(\nabla\psi\) を足しても答えは変わらないという任意性があるという。
ゲージ条件
さて,\(\boldsymbol{B} = \nabla\times \boldsymbol{A}\) として導入したベクトルポテンシャルを使って,静磁気学の基本方程式の2番目を書き換えると
\begin{eqnarray}
\nabla\times \boldsymbol{B} = \nabla\times (\nabla\times\boldsymbol{A}) = \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) – \nabla^2 \boldsymbol{A} = \frac{\boldsymbol{J}}{\varepsilon_0 c^2}
\end{eqnarray}
ここで,ベクトルポテンシャルの任意性を利用して,
$$\nabla \cdot \boldsymbol{A} = 0$$となるように選ぶ。この条件を「クーロンゲージ条件」という。
そうすると
$$ \nabla^2 \boldsymbol{A} = -\frac{\boldsymbol{J}}{\varepsilon_0c^2}$$となり,これは「ポアソン方程式」。
ベクトルポテンシャルを使った静磁場の基本方程式
$$ \nabla^2 \boldsymbol{A} = -\frac{\boldsymbol{J}}{\varepsilon_0 c^2}, \quad \boldsymbol{B} = \nabla\times \boldsymbol{A} $$
まず,電流密度 \(\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r})\) によってつくられるベクトルポテンシャル \(\boldsymbol{A}\) を,ポアソン方程式を解くことによって求め,求めたベクトルポテンシャルの回転をとると,磁場 \(\boldsymbol{B}\) が求まる。