素朴な疑問
$$\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\, dx = \sin^{-1} x $$
なら
$$-\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\, dx = \cos^{-1} x$$
じゃあなくて
$$-\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\, dx = -\sin^{-1} x $$
なんじゃあないの? それとも $\cos^{-1} x$ と $ -\sin^{-1} x$ は同じなの?
解答例
1. まず,上記の積分は不定積分なので,積分定数も省略せずに書くと
\begin{eqnarray}
\int \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\, dx &=& \cos^{-1} x + C_1 \\
&=& -\sin^{-1} x + C_2
\end{eqnarray}
ということ。
2. $\cos^{-1} x$ と $ -\sin^{-1} x$ は等しいわけではないが,以下のように定数分だけ異なる。
$$ \sin^{-1} x + \cos^{-1} x = \frac{\pi}{2}$$
先に上記の関係を証明しておこう。
$$x = \cos y = \sin \left( \frac{\pi}{2} -y\right)$$
から,$x = \cos y$ を $y$ について解くと
$$y = \cos^{-1} x$$
一方,$\displaystyle x =\sin \left( \frac{\pi}{2} -y\right)$ を $y$ について解くと
$$ \frac{\pi}{2} -y = \sin^{-1} x$$
$$\therefore\ \ \sin^{-1} x + y = \sin^{-1} x + \cos^{-1} x = \frac{\pi}{2}$$
1. と 2. から,$\cos^{-1} x$ と $ -\sin^{-1} x$ の違いは積分定数に吸収されることがわかる。あからさまに書くと,$\displaystyle C_2 = \frac{\pi}{2} + C_1$ とおけば,
$$-\sin^{-1} x + C_2 = -\sin^{-1} x + \frac{\pi}{2} + C_1 = \cos^{-1} x+ C_1$$
となる。
応用例:微分方程式
逆三角関数が出てくる例として,以下のような微分方程式を考える。(1年生では微分方程式はまだ習わないけど,参考までに。)
$$\left( \frac{dy}{dx}\right)^2 = 1 -y^2$$
これは,以下のように変数分離ができて
$$dx = \pm \frac{dy}{\sqrt{1 -y^2}}$$
復号部分が $+$ のときは以下のように積分できて
$$x = + \int \frac{dy}{\sqrt{1 -y^2}} = \sin^{-1} y$$
復号部分が $-$ のときは
$$x = -\int \frac{dy}{\sqrt{1 -y^2}} = \cos^{-1} y$$
さて,どっちを答えに書けばいいだろう?と悩むあなた,積分定数を(左辺に)つけて
$$x + C = + \int \frac{dy}{\sqrt{1 -y^2} }= \sin^{-1} y$$
しておけば,復号部分 $\pm$ どちらも含んだ答えになります。$y$ について解けば
$$ y = \sin( x + C)$$