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三角関数の微分

弧度法(ラジアン単位)で \(x\) を表すと,
$$(\sin x)’ = \cos x, \quad (\cos x)’ = -\sin x, \quad (\tan x)’ = \frac{1}{\cos^2 x}$$

となることを示す。


三角関数の定義

図のような半径 \(r\) の円上の点 \(P({\color{blue}{x}}, {\color{red}{y}})\) を考え,\(x\) 軸からの(反時計回りを正の向きとし,ラジアンで表した)角度を \({\color{green}{\theta}}\) とすると,三角関数は以下のように定義されるのであった。

$$
\cos{\color{green}{\theta}} = \frac{\color{blue}{x}}{r}, \quad
\sin{\color{green}{\theta}} = \frac{\color{red}{y}}{r}, \quad
\tan{\color{green}{\theta}} = \frac{\color{red}{y}}{\color{blue}{x}} = \frac{\sin{\color{green}{\theta}}}{\cos{\color{green}{\theta}}}
$$

三角関数の基本公式

$$\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$$

念のため,\(\cos^2\theta = \left( \cos\theta\right)^2, \ \sin^2\theta = \left( \sin\theta\right)^2\) のことです。

これは直角三角形に対するピタゴラスの定理(三平方の定理)

$$ x^2 + y^2 = r^2$$

の両辺を \(r^2\) で割って三角関数で書きなおしたものに他ならない。

また,三角関数の加法定理に頼るまでもなく,以下のことは上図の直角三角形を「横倒し」にして眺めてみればわかるだろう。

$$\cos\left( {\color{purple}{\frac{\pi}{2}  -\theta}}\right) = \frac{\color{red}{y}}{r} = \sin {\color{green}{\theta}}, \quad \sin\left( {\color{purple}{\frac{\pi}{2}  -\theta}}\right)  = \frac{\color{blue}{x}}{r} = \cos {\color{green}{\theta}}$$

微分を示すために必要な公式

三角関数の微分を示すために必要なのは,次の4つ。これらを簡単に説明。

まず,三角関数の極限公式

1.  \(\quad\displaystyle \lim_{x \rightarrow 0} \frac{\sin x}{x} = 1 \)

2.  \(\quad\displaystyle \lim_{x \rightarrow 0} \frac{1-\cos x}{x} = 0 \)

証明は,1. を使って,
$$ \lim_{x \rightarrow 0}\frac{\sin^2 x}{x} = \lim_{x\rightarrow 0} \sin x\cdot \lim_{x\rightarrow 0} \frac{\sin x}{x} = 0\cdot 1 = 0$$

一方,
\begin{eqnarray}
\lim_{x \rightarrow 0}\frac{\sin^2 x}{x} &=&
\lim_{x \rightarrow 0}\frac{(1+\cos x)(1-\cos x)}{x} \\
&=& \lim_{x \rightarrow 0}(1+\cos x)\cdot \lim_{x \rightarrow 0}\frac{1-\cos x}{x}\\
&=& 2 \lim_{x \rightarrow 0}\frac{1-\cos x}{x}
\end{eqnarray}
したがって
$$\lim_{x \rightarrow 0}\frac{1-\cos x}{x} = 0$$

そして,三角関数の加法定理:

3.  \(\displaystyle \quad \sin (x + h) = \sin x \cos h + \cos x \sin h \)

4.  \(\displaystyle \quad \cos(x+h) = \cos x \cos h -\sin x \sin h \)

定義から導く三角関数の微分

導関数の定義から \( (\sin x)’\) は,

\begin{eqnarray}
(\sin x)’ &=& \lim_{h \rightarrow 0} \frac{\sin(x + h) -\sin x}{h} \\
&=& \lim_{h \rightarrow 0} \frac{(\sin x \cos h + \cos x \sin h) -\sin x}{h}\\
&=& \sin x\cdot\lim_{h \rightarrow 0}\frac{(\cos h -1)}{h} + \cos x\cdot\lim_{h \rightarrow 0}\frac{\sin h}{h}\\
&=& \sin x \cdot 0 + \cos x \cdot 1\\
&=& \cos x
\end{eqnarray}

\( (\cos x)’\) も同様に
\begin{eqnarray}
(\cos x)’ &=& \lim_{h \rightarrow 0} \frac{\cos(x + h) -\cos x}{h} \\
&=& \lim_{h \rightarrow 0} \frac{(\cos x \cos h -\sin x \sin h)-\cos x}{h}\\
&=& \cos x\cdot\lim_{h \rightarrow 0}\frac{(\cos h -1)}{h} -\sin x\cdot\lim_{h \rightarrow 0}\frac{\sin h}{h}\\
&=& \cos x \cdot 0 -\sin x \cdot 1\\
&=& -\sin x
\end{eqnarray}

\( (\sin x)’ \) の微分だけ覚えておけば,他はすべて導けるんだという立場を好む人ならば,\( \displaystyle\cos x = \sin\left(\frac{\pi}{2} -x\right) \) を使い,\(u \equiv \displaystyle \frac{\pi}{2} -x\) とおいて合成関数の微分を使って証明しましょう。
\begin{eqnarray}
(\cos x)’ &=& \frac{d}{dx} \sin\left(\frac{\pi}{2} -x\right) \\
&=& \frac{d\sin u}{du} \frac{du}{dx} \\
&=& \cos \left(\frac{\pi}{2} -x\right) \cdot (-1) \\
&=& -\sin x
\end{eqnarray}

\( (\tan x)’ \) については,微分法の公式 5. より
$$ (\tan x)’ = \left\{ \frac{\sin x}{\cos x} \right\}’  = \frac{(\sin x)’ \cos x -\sin x (\cos x)’}{\cos^2 x} = \cdots$$
として,\( \cos^2 x + \sin^2 x = 1\) を使うのであった。

三角関数のグラフ

3つまとめてグラフにすると…

参考:三角関数の微分のもう一つの導出法

参考:gnuplot で sin x と x のグラフを描く

gnuplot で $y = \sin x $ と $y = x$ のグラフを描く。

$ |x| \ll 1 $ では2つのグラフはほとんど重なっていて $ \sin x \simeq x $ すなわち $\displaystyle \frac{\sin x}{x} \simeq 1$ であることを見て確かめる。

参考:Maxima で sin x と x のグラフを描く

参考:gnuplot で sin x と x のグラフを描く の Maxima 版。Maxima で $y = \sin x $ と $y = x$ のグラフを描く。

$ |x| \ll 1 $ では2つのグラフはほとんど重なっていて $ \sin x \simeq x $ すなわち $\displaystyle \frac{\sin x}{x} \simeq 1$ であることを見て確かめる。

Maxima では plot2d() (いわゆる plot 系)と draw2d() (いわゆる draw 系)がある。最近は個人的には授業等では draw 系を使うようになってきているが,参考までに両方の使用例を書いておく。

参考:Python の Matplotlib で sin x と x のグラフを描く

参考:gnuplot で sin x と x のグラフを描く の Python 版。Python の Matplotlib で $y = \sin x $ と $y = x$ のグラフを描く。

$ |x| \ll 1 $ では2つのグラフはほとんど重なっていて $ \sin x \simeq x $ すなわち $\displaystyle \frac{\sin x}{x} \simeq 1$ であることを見て確かめる。

参考:SymPy Plotting Backends で sin x と x のグラフを描く

参考:gnuplot で sin x と x のグラフを描く の SymPy Plotting Backends (SPB) 版。SPB の plot() で $y = \sin x $ と $y = x$ のグラフを描く。

$ |x| \ll 1 $ では2つのグラフはほとんど重なっていて $ \sin x \simeq x $ すなわち $\displaystyle \frac{\sin x}{x} \simeq 1$ であることを見て確かめる。

参考:三角関数の極限公式の証明

\(\displaystyle \lim_{x \rightarrow 0} \frac{\sin x}{x} = 1\) の証明。これを使って三角関数の微分を導くのであるから,三角関数の微分を前提としたロピタルの定理などを使っては証明になりませんよ。

参考:三角関数の加法定理の証明

2次元ベクトルの内積から,三角関数の加法定理 $$\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha \cos\beta -\sin\alpha\sin\beta$$ を証明する。他の加法定理 \(\sin(\alpha + \beta)\) や \(\tan (\alpha + \beta)\) は,これを使って示せる。