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静磁場:電流密度から直接静磁場を求める

アンペールの法則などを使わずに,ビオ-サバールの法則を使って電流密度から直接静磁場を求める。

ベクトルポテンシャルを使った静磁場の基本方程式

クーロンゲージ条件を課したベクトルポテンシャル A を使うと,静磁場の基本方程式は

2A=Jε0c2,B=×A
のように書けるのであった。特に,

2A=Jε0c2は「ポアソン方程式」。「方程式の形が同じなら解の形も同じ」という原則により,ただちに解を以下のように求めることができる。(「静電場:ポアソン方程式の解」を参照。)

A(r)=14πε0c2J(r)|rr|dV

ビオ – サバールの法則

電流密度 J から直接磁束密度 B を求める式。

B(r)=×A(r)=14πε0c2J(r)×(rr)|rr|3dV

これが,ビオ・サバールの法則である。ここでは念のため,

×J(r)|rr|=J(r)×(rr)|rr|3

となることを示しておく。

x 成分を計算すると

(×J(r)|rr|)x=yJz(r)|rr|zJy(r)|rr|=Jz(r)y1|rr|Jy(r)z1|rr|=Jz(r)(yy) |rr|3Jy(r)(zz) |rr|3=Jy(r)(zz)|rr|3Jz(r)(yy)|rr|3=(J(r)×(rr)|rr|3)x

y,z 成分も同様。

以下では,ビオ・サバールの法則を使って,いくつかの簡単な場合について電流密度から直接静磁場を計算してみる。

直線電流による磁場

z 軸上の電流 I=(0,0,I) を表す電流密度 J はディラックのデルタ関数を使って以下のように書ける。

J=(0,0,Jz)=Iδ(x)δ(y)=(0,0,Iδ(x)δ(y))

ビオ – サバールの法則の x 成分は

Bx=14πε0c2Jy(r)(zz)Jz(r)(yy)|rr|3dV=14πε0c2Iδ(x)δ(y)(yy){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dxdydz=Iy4πε0c21{x2+y2+(zz)2}32dz=Iy4πε0c22x2+y2=12πε0c2(I×ϱ)xϱ2
ここで,I=(0,0,I), ϱ=(x,y,0), ϱ2=ϱϱ とした。(ρ は電荷密度で使うため。)また,ベクトルの外積 I×ϱ

I×ϱ=(IyϱzIzϱy,IzϱxIxϱz,IxϱyIyϱx)=(Iy,Ix,0)

また,デルタ関数を含む積分では
f(x,y,z)δ(x)δ(y)dxdy=f(0,0,z)
となることを利用している。また,以下の積分結果も使った。

1{x2+y2+(zz)2}32dz=2x2+y2

y 成分は

By=14πε0c2Jz(r)(xx)Jx(r)(zz)|rr|3dV=14πε0c2Iδ(x)δ(y)(xx){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dxdydz=Ix4πε0c21{x2+y2+(zz)2}32dz=Ix4πε0c22x2+y2=12πε0c2(I×ϱ)yϱ2

 

z 成分は

Bz=14πε0c2Jx(r)(yy)Jy(r)(xx)|rr|3dV=14πε0c20(yy)0(xx)|rr|3dV=0

ちなみに,(I×ϱ)z=0  だから

Bz=12πε0c2(I×ϱ)zϱ2

としてよい。まとめると,

B=12πε0c2I×ϱϱ2

ここで,I=(0,0,I), ϱ=(x,y,0) であった。

平行2直線電流がつくる磁場

重ね合わせの原理から,

B=12πε0c2I1×(ϱr1)|ϱr1|2+12πε0c2I2×(ϱr2)|ϱr2|2

電流密度 J が2つの電流密度 J1,J2 の重ね合わせ(足し算)で

J=J1+J2=I1δ(xx1)δ(yy1)+I2δ(xx2)δ(yy2)

と書けるときに,J によってつくられる磁場 B は,J1,J2 がそれぞれ独立につくる磁場 B1,B2 の重ね合わせ(足し算)で

B=B1+B2

と書けることは明らかであろう。静電場における重ね合わせの原理の説明のところを参照。

円電流による磁場

xy 平面上の原点を中心とした半径 a の円上に電流 I が流れている。これを表す電流密度 J はディラックのデルタ関数を使って以下のように書ける。

J=(Jx,Jy,0)=(Iyϱδ(ϱa)δ(z),Ixϱδ(ϱa)δ(z),0)=(Isinϕδ(ϱa)δ(z),Icosϕδ(ϱa)δ(z),0) ϱ=x2+y2x=ϱcosϕy=ϱsinϕ

念のため,補足説明。

xy 平面上の円電流を表すベクトル I

I=(Ix,Iy,0)

と書ける。このベクトルの大きさが電流 I であり,また,円電流ベクトルは原点からの位置ベクトル ϱ=(ϱcosϕ,ϱsinϕ,0) と直交するから

(1)I2=II=Ix2+Iy2Iϱ=Ixϱcosϕ+Iyϱsinϕ=0(2)  Ix=sinϕcosϕIy(3)  I2=Iy2{sin2ϕcos2ϕ+1}=Iy2cos2ϕ

円電流が「反時計回り」に流れるとすると,ϕ=0Iy>0 であるから,(3) 式より

Iy=Icosϕ,  Ix=Isinϕ

電流ベクトルを使って電流密度ベクトルを表すと

J=(Jx,Jy,0)=(Ixδ(ϱa)δ(z),Iyδ(ϱa)δ(z),0)=(Isinϕδ(ϱa)δ(z),Icosϕδ(ϱa)δ(z),0)

となる。

これをビオ・サバールの法則に代入すれば磁場が求まる。成分ごとに書くと,x 成分 Bx

Bx(r)=14πε0c2Jy(r)(zz)Jz(r)(yy){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=14πε0c2Ixϱδ(ϱa)δ(z)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dxdydz=14πε0c2Ixϱδ(ϱa)z{(xx)2+(yy)2+z2}32dxdy

y 成分 By

By(r)=14πε0c2Jz(r)(xx)Jx(r)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=14πε0c2Iyϱδ(ϱa)δ(z)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dxdydz=14πε0c2Iyϱδ(ϱa)z{(xx)2+(yy)2+z2}32dxdy

z 成分 Bz

Bz(r)=14πε0c2Jx(r)(yy)Jy(r)(xx){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=I4πε0c2{yϱ(yy)+xϱ(xx)}δ(ϱa)δ(z){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dxdydz=I4πε0c2{yϱ(yy)+xϱ(xx)}δ(ϱa){(xx)2+(yy)2+z2}32dxdy

y=0 (xz 平面) での磁場

この円電流は z のまわりに任意の回転を行っても変わらない。つまり,この系は z 軸について軸対称な磁場をつくる。したがって,一般性を失うことなく,y=0xz 平面上で計算してよい。このとき,

Bx(x,0,z)=I4πε0c2xϱδ(ϱa)z{(xx)2+(y)2+z2}32dxdy=I4πε0c2zcosϕδ(ϱa){(xϱcosϕ)2+(ϱsinϕ)2+z2}32ϱdϱdϕ=I4πε0c2azcosϕ{x2+z2+a22axcosϕ}32dϕ

By(x,0,z)=I4πε0c2yϱδ(ϱa)z{(xx)2+(y)2+z2}32dxdy=I4πε0c2zsinϕδ(ϱa){(xϱcosϕ)2+(ϱsinϕ)2+z2}32ϱdϱdϕ=I4πε0c2azsinϕ{x2+z2+a22axcosϕ}32dϕ=I4πε0c2[1axx2+z2+a22axcosϕ]02π=0

Bz(x,0,z)=I4πε0c2{yϱ(y)+xϱ(xx)}δ(ϱa){(xx)2+(y)2+z2}32dxdy=I4πε0c2{sinϕ(ϱsinϕ)+cosϕ(xϱcosϕ)}δ(ϱa){(xϱcosϕ)2+(ϱsinϕ)2+z2}32ϱdϱdϕ=I4πε0c2a2axcosϕ{x2+z2+a22axcosϕ}32dϕ

z 軸上での磁場

特に簡単に計算できる z 軸上 r=(0,0,z) の磁場を求めてみると,Bx

Bx(0,0,z)=I4πε0c2azcosϕ{z2+a2}32dϕ=0 By(0,0,z)=0 Bz(0,0,z)=I4πε0c2a2{z2+a2}32dϕ=I4πε0c2a2{z2+a2}32×2π=Ia22ε0c2{z2+a2}32

 

z 軸上では Bx=0,By=0 であり,Bz 成分のみが存在することをビオ・サバールの法則から直接計算することができた。

微小な円電流による磁場:磁気双極子

微小な円電流の場合は,円電流の半径 a が非常に小さいとして
a2r2=x2+y2+z2
を仮定し,以下のような近似を行う。(δ(ϱa) がかかっているので,ϱ=a としてよいから,実際には (ϱ)2r2 としていることになる。)

1{(xx)2+(yy)2+z2}32={r22xx2yy+(ϱ)2}32{r22xx2yy}32={r2(12xϱcosϕ+ϱsinϕr2)}32=(r2)32(12xϱcosϕ+ϱsinϕr2)321r3(1+3xϱcosϕ+yϱsinϕr2)=1r3+3xϱcosϕ+yϱsinϕr5

この近似を使うと,円電流がつくる磁場は

Bx(r)=14πε0c2Ixϱδ(ϱa)z{(xx)2+(yy)2+z2}32dxdyIz4πε0c2cosϕδ(ϱa){1r3+3xϱcosϕ+yϱsinϕr5}ϱdϱdϕ=Iz4πε0c202πcosϕ{1r3+3xacosϕ+yasinϕr5}adϕ=Iz4πε0c202π3xa2cos2ϕr5dϕ=Iπa24πε0c23zxr5

By(r)=14πε0c2Iyϱδ(ϱa)z{(xx)2+(yy)2+z2}32dxdyIz4πε0c2sinϕδ(ϱa){1r3+3xϱcosϕ+yϱsinϕr5}ϱdϱdϕ=Iz4πε0c202πsinϕ{1r3+3xacosϕ+yasinϕr5}adϕ=Iz4πε0c202π3ya2sin2ϕr5dϕ=Iπa24πε0c23zyr5

Bz(r)=I4πε0c2{yϱ(yy)+xϱ(xx)}δ(ϱa){(xx)2+(yy)2+z2}32dxdyIa4πε0c202πdϕ(axcosϕysinϕ){1r3+3xϱcosϕ+yϱsinϕr5}=Ia24πε0c202πdϕ{1r33x2r5cos2ϕ3y2r5sin2ϕ}=Iπa24πε0c2{2r33x2r53y2r5}=Iπa24πε0c22(x2+y2+z2)3x23y2r5=Iπa24πε0c23z2(x2+y2+z2)r5=Iπa24πε0c2{3z2r51r3}

結果をまとめると

Bx=Iπa24πε0c23r5zxBy=Iπa24πε0c23r5zyBz=Iπa24πε0c2{3z2r51r3}

どっかで見たことがある形ですね。そうです,電気双極子がつくる遠方の電場

E=14πε0{3rpr5rpr3} Ex=p4πε03r5zxEy=p4πε03r5zyEz=p4πε0{3r5z21r3}

とそっくりです!

電気双極子モーメントにならって,磁気双極子モーメント μ

μ(0,0,μ)(0,0,Iπa2)

と定義すれば,微小な円電流(面積 S=πa2 の円周上を流れる電流 I)がつくる遠方の磁場は,磁気双極子モーメント μ, μ=|μ|=IS がつくる双極子磁場

B=14πε0c2{3rμr5rμr3}
である!ということになる。

地球磁場も,大局的に見れば北極を S 極,南極を N 極とする双極子磁場であるが,地球内部に何か棒磁石があるのだと考えるよりは,地球内部に円電流が流れていて,それによって磁場がつくられているのだと理解する。

ソレノイドを流れる電流による磁場

ソレノイドは1本の電線を螺旋状に密に巻いたものである。

z 軸を中心とし,半径 a で単位長さあたり n 回巻きの「十分に長い」ソレノイドを流れる電流 I による磁場を求める。繰り返すがソレノイドは1本の電線を螺旋状に密に巻いたものであるのだが,簡単のために以下では円電流回路の重ね合わせとして扱う。

まず,1回巻きの円電流をあらわす電流密度 J

J=(Jx,Jy,0)=(Iδ(z)sinϕδ(ϱa),Iδ(z)cosϕδ(ϱa),0)

であったから,単位長さあたり n 回巻きの十分に長いソレノイドの場合は,上記の表式で

Iδ(z)    nI

と置き換えればよく,ソレノイドを流れる電流密度 J

J=(Jx,Jy,0)=(nIsinϕδ(ϱa),nIcosϕδ(ϱa),0)

となる。これをビオ・サバールの法則に代入して,各成分ごとに磁束密度を計算する。

Bx=14πε0c2Jy(r)(zz)Jz(r)(yy){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=nI4πε0c2dxdydzcosϕδ(ϱa)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32=nI4πε0c2dxdycosϕδ(ϱa)(zz)dz{(xx)2+(yy)2+(zz)2}32=0

同様にして

By=14πε0c2Jz(r)(xx)Jx(r)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=nI4πε0c2dxdydzsinϕδ(ϱa)(zz){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32=nI4πε0c2dxdysinϕδ(ϱa)(zz)dz{(xx)2+(yy)2+(zz)2}32=0

ソレノイドの内部・外部によらず,Bx=0, By=0 であることがビオ・サバールの法則から直接計算できた。

最後に,Bz

Bz=14πε0c2Jx(r)(yy)Jy(r)(xx){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32dV=nI4πε0c2dxdydz{yϱ(yy)+xϱ(xx)}δ(ϱa){(xx)2+(yy)2+(zz)2}32=nI2πε0c2dxdy{yϱ(yy)+xϱ(xx)}δ(ϱa)(xx)2+(yy)2=nI2πε0c2ϱdϱdϕ{ϱysinϕxcosϕ}δ(ϱa)(xϱcosϕ)2+(yϱsinϕ)2=nI2πε0c2dϕa2aysinϕaxcosϕ(xacosϕ)2+(yasinϕ)2=nI2πε0c202πdϕa2aysinϕaxcosϕx2+y2+a22axcosϕ2aysinϕ ={nIε0c2(x2+y2<a) 0(x2+y2>a)

ここで,以下の積分結果を使った。

02πdϕa2aysinϕaxcosϕx2+y2+a22axcosϕ2aysinϕ={2π(x2+y2<a) 0(a<x2+y2>a)

つまり,z 軸からの距離 x2+y2 がソレノイドの半径 a よりも小さいソレノイドの内部 (x2+y2<a) では Bz=nIε0c2 という一定の磁場が,z 軸からの距離 x2+y2 がソレノイドの半径 a よりも大きいソレノイドの外部 (x2+y2>a) では Bz=0 となることが,ビオ・サバールの法則から直接得ることができた。

参考:アンペールの法則を使って磁場を求める

平行直線電流にはたらく力とアンペアの定義(再定義の話も)

参考:静磁場を求める際に使った積分を Maxima-Jupyter で確認する

参考:静磁場を求める際に使った積分を人力で求めてみる

静磁場を求める際に使った積分は Maxima を数学公式集として使うことで確認できているが,Maxima で解析的に積分できることがわかれば,人力でも解いてみたくなるもの。でもほとんどは「静電場を求める際に使った積分を人力で求めてみる」シリーズですでにやっている。