和紙の原料の解析:DNAから何が分かるのか
和紙は,トロロアオイや繊維材料としてのコウゾやカジノキの樹皮をもとに製紙される。
カジノキ
在来種には色の違いなどがあります.
楮(カジノキの一種)から作られる和紙(茨城のさんにて)
紙すきの機械
その植物自体についての研究は,カジノキについていくつか興味深いものが報告されている。Blattnerらは保存性の高い領域であるリボソーマルRNA遺伝子群の遺伝子間領域を開発し,Seelenfreund(1)ら1(2011)によりアジアでは多様性があるものの、ポリネシアに伝播されたものには多型がないことを報告された。Wangら(2)(2012)はDNAマーカーを開発する中で雌雄に関連する領域の特定し,Peñaililloら(3)(2016)により太平洋には雄木が優先して持ち込まれたことが明らかされた。多様性判別が容易であるSSRについても開発が進み,Peñaililloら(3)(2017)によりカジノキ、クワ、イチジクなど比較的近縁種との間で多型を示すSSRが開発された。これら核マーカーと比較して、葉緑体多型は植物において母系の判定に応用可能である。Changら(2015)(4)は母系の多型をndhF–rpl32の配列のハプロタイプを比較することにより、アジアからポリネシアにかけての伝播の詳細な道筋を明らかにした。これらは生きている植物の多様性であるが、植物標本として残されている標本からの情報もDNAで解析が行われつつあり、Payacanら(2017)(5)は古い植物標本(1882〜2006年)のHerbarium collectionからのDNA抽出と遺伝子型の判定についてITS配列と雌雄判別マーカー、葉緑体DNA、9種のSSRの組合わせにおいて中国にある特定のタイプが導入されたことを報告した(4)。これらは20タイプに分類可能であり、大きく分けることで3タイプにまとめられることが報告されている。
葉緑体のゲノムは有用性が高く、遺伝資源の解析では特に多用される。それは核ゲノムに比較して保存性型高いため長いスパンでの母系の追跡が可能だからである。カジノキの完全長葉緑体は近年のDNA配列解読技術の進展によりあらゆる種類の植物種での解析が進みつつある。カジノキ類についても既に2つの配列、KX828844(6)ならびにNC_037021(7)がデータベース上に登録されている。この配列に基づき配列比較を行うことで多型検出のマーカー開発が可能である。和紙の材料の判定には繊維やデンプン粒形状解析が進められている。それらに加えて今後の解析技術にDNAを含めることができよう。これらの基礎技術には次世代DNAシークエンスの普及と低コスト化があげられる。微量DNAの増幅はデンプン顆粒の内部に保持される葉緑体DNAが最も可能性が高い。しかし、微量DNAの残存程度が最も高い障壁であることには変わらない。
そのため,当研究室ではカジノキの在来種の比較を行っています.食べられませんが、在来種遺伝資源の解析として重要な課題です。