Ecology and Evolutionに2024年2月8日掲載されました

著者 Dinh Thi Lam, Taro Kataoka, Hiroki Yamagishi, Guoping Sun, Tetsuro Udatsu, Katsunori Tanaka, Ryuji Ishikawa

雑誌名Ecology and Evolution (Wiley 出版)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.10925

2024年2月9日掲載済み

江蘇省の市場で売られるヒシ.秋の風物詩です.茹でて食べられます.

 

 

ポイント

  • ヒシは「菱形」「まきびし」など日本の文化としても強く関わっている.その栽培化過程を明らかにした.
  • ヒシの種子の大型化について,遺物種子,次世代シークエンサー,CT-スキャンなどを利用して研究をすすめた.
  • その結果,6000年の間に栽培化が進んでいまの栽培トウビシが誕生したことを明らかにした.

 

日本の全土にわたって野生種が生息しており,栽培種として中国が主に栽培されており,九州地方の佐賀県神埼市,福岡県大木町でも栽培されるヒシの起源について明らかにした.考古遺物や次世代シークエンサー情報を活用して,6000年間の間にヒトの手により種子の大粒化が進んだことを明らかにしました.日本での調査では神埼市や大木町の農家さんにお世話になりました.神埼市,大木町の職員のかたにも農家さんをご紹介いただき感謝しております.なお,秋には道の駅などで購入することができます.

 

背景と経緯

稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築-

(代表:中村慎一)の新学術領域研究(研究領域提案型)において,およそ1万年の稲作農耕文明がどのようにして構築されたかを明らかにする総合型研究が行われた.その研究課題の1つとして,河姆渡-良渚-田螺山遺跡など低湿地において文明を支えた食料資源についての解明に取り組んできた.ヒシは現在も秋に食される作物であり,多様なヒシが浙江省から江蘇省にかけてみることができる.

田螺山遺跡においては大量のヒシ遺物が出土しており,利用されていたために保存された果肉部分の炭化物もざみられる.それらの種子サイズを比較して6000年間でどのように形態が変化したかを調査した.また,DNA解析もすすめ,野生種と栽培種の比較を進めた.4種の完全長葉緑体配列を明らかにしたことにより,栽培種がオニビシと呼ばれる野生種に最も近縁であることが明らかとなった.通常,大型化する作物はゲノムが倍化することにより,サイズを変化させることがある.そのため種間でのゲノム量をフローサイトメーターでイネと比較した.その結果,小型で食用とされるヒシは4倍体であるものの,大型のヒシはオニビシと同じ2倍体であることがわかった.オニビシと栽培ヒシの果実殻とその中身の水栗といわれる胚乳をCT-Scanにより容量の比較を試みた.その結果からも,オニビシよりも栽培ヒシが大型であったこと,栽培種では殻も野生種よりも薄くなり手で向けるくらいまで利用しやすく変化したことが明らかとなった.そのことから6000年の間に種子の大型化が徐々にすすんだことが予測された.

田螺山周辺において稲作農耕が発達したことはいままでも多くの研究者により明らかにされてきた.その過程において野生種の管理栽培から,水田稲作農耕に発展してきた.このようなヒトの手による食料調達戦略により,低湿地の他の野生食料資源の利用が進んだことが示唆される.11