巨大胚(GABA含有量などの増加が期待)変異体が得られました!固定系統を得て,来年2000個体以上の増殖を行うことで食品機能などの検証を行う予定です.胚が大きいのでCT-Scanなどを利用した容積の評価も進めています.
変異体の全ゲノムデータを利用して候補遺伝子の構造異常を検証しました.その結果,1箇所のSNPがアミノ酸の非同義置換をおこしていることがわかりました.原罪,その検証をCAPSマーカー化したため3年生が行う予定です.劣性形質の選抜マーカーとして活用できることでしょう.
3個体(1個体はなぜか表現型が巨大胚でも正常ホモ型として固定)からの自殖後代ではすべて巨大胚であったため,その種子を増殖することで来年は2000個体以上の栽培を行うことで,機能性などの材料を得ることにしています.
多収系統として胴割れ耐性品種を改良しています.その系統に新規形質を付加するために変異原処理をしています.化学変異原では有望系統の形質を大きく変えずに新たな変異(新奇変異)を生み出すことができます.これまで1系統の低アミロース,高騰が続くコムギ粉の代わりになる米粉用の多数の粉質変異,弘大ライケット1号の兄弟系統にはモチ系統を誘発しました.選抜は学生実験でもすすめます.先行して昨年秋から選抜をすすめていたところ,3月16日に巨大胚変異体を選抜できました.今年は,この後代において安定した遺伝を確認します.既知の変異体は九州大学(佐藤・大村1981)で得られたのち,EM40を親にして日本において育種に活用されつつあります.韓国でも同様に独立な変異体をもとに育種がすすんでいます.その後,日本でも道総研の育種においては,ガンマ線利用による巨大胚を作出,九州大学でもさらなる変異体を異なる系統で作出して育種に利用しています.
胚が大きいため胚に蓄積される油脂含量などが多く,美容成分として利用される油脂(γオリゼノールら),さらにビタミンE,そしてGABAが多くなることが期待されます.通常,発芽玄米では通常の10倍のGABAが測定され,GABA利用のおコメとして流通しています.今後,GABA測定等化学分析が期待できます.
トリアシルグリセロールも期待される成分の1つです.グリセリンに脂肪酸が結合した油脂のうち,3つのアルコール(グリセリン)に3つの脂肪酸が結合したものです.脂肪酸には不飽和脂肪酸であるオレイン酸などからリノール酸が含まれます.オレイン酸は油の安定性が良く酸化されにくいとされます.リノール酸は血栓予防効果も期待されます.いずれも過剰摂取は危険ですが,その構成比率が1:1程度がよいそうです(日本こめ油工業共同組合).これら油が多く含まれるのが胚芽であることから,巨大胚の活用が期待されます.
また,糠におおく含まれるリン酸を含むグロボイドボディは,フィチン酸で形成されます.食品のpH調整に利用されます.γ-オリザノールは医薬品として認められています.心身症(更年期障害),心身症候(不安,緊張,うつ)抑制に効果を有しているそうです.高脂血症の抑制にも効能を有します(1日300mg).紫外線吸収作用もあることから化粧品にも利用されます.いいとこずくめのようです(谷口ら,日本食品科学工学会誌 第59巻 第7号 2012年7月).
巨大胚の原因遺伝子:原因遺伝子は第7染色体のチトクロームP450遺伝子の1つであるOs07g0603700の対立遺伝子として確認されています(Sakata et al. 2016).その後,SakataらによりMGE8, MGE14が第3染色体短腕の他の遺伝子があることを報告しています.韓国のグループ(Lee et al. 2019 Rice 12:22)がは第3染色体の長腕末端にのC3HC4-type RING finger領域を有する Os03g0706900をle変異体原因遺伝子を報告しています.さて,当研究室で新たにられた変異体がどちらかの対立遺伝子が,あるいは新たな遺伝子であるかについては連鎖分析とともに全ゲノム情報を得ることで調査できます.2023年にはこのDNA抽出後にNGSに送付して決めてみます.3年生にお願いすることになるでしょうか.
遺伝的背景が大粒,香り米,多収,温暖化耐性である胴割れ耐性系統です.この系統の育種母本として活用することで北日本で耐冷性を有しながら,適切な出穂が可能である品種を効率的に育種することができるでしょう.
Sakataらも5,645個体のM1選抜から4変異体を得て,2つがEM40と同座,2つが第3染色体の短腕側にあることを報告しています.およそ3000系統で1つの遺伝子にヒットという確率です.さきにSatoh先生らが報告した0.1%でのモチの検出と同程度ということでしょう.
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巨大胚の品種は佐藤・大村(1981)らがMNU処理で作出したEM40巨大胚系統を利用していることが多いようです.北海道では独自の変異処理により品種育成をしています.
北海道
東北向け品種
北陸向け品種
四国地方向け品種
Reference
CYP78A13 (Cytochrome P450), Size control between embryo and endosperm (GE1, ge1, ge, CYP78A13, OsCYP78A13, GE, BG2)
Satoh,H. and T.Omura (1981) New endosperm mutations induced by chemical mutagens in rice, Oryza sativa L. Jpn. J. Breed. 31: 316– 326.
Maeda, H.et al. (2001) A newrice variety with giant embryos, ‘Haiminori’. Breed. Sci. 51: 211–213.
Takahashi S et al. (2009) Development of CoQ10-enriched
rice from giant embryo lines. Breed Sci 59(3):321–326
Hong H-Cet al. (2012) A Medium-Maturing, Giant-embryo, and
Germination Brown Rice Cultivar ‘Keunnun’. Korean J Breed Sci 44(2):160–164
Han SJ, et al. (2012) A new rice variety ‘Keunnunjami’, with
high concentrations of Cyanidin 3-glucoside and Giant embryo. Korean J
Breed Sci 44(2):185–189
Sakata et al. (2016) Development and evaluation of rice giant embryo mutants for high oil content originated from a high-yielding cultivar ‘Mizuhochikara’ Breeding Science 66: 425–433