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共変微分の定義とリッチの恒等式

本稿では,共変微分を使わずに,ベクトルを微分する際には成分だけでなく基本ベクトルも微分するのだという方針で通常の偏微分のみで通したが,共変微分についてまとめておく。

測地線方程式

ある世界線 \(x^{\mu}(v)\) の接ベクトルを以下のように書く。
$$\boldsymbol{u} = u^{\mu}(x) \,\boldsymbol{e}_{\mu} \equiv \frac{dx^{\mu}}{dv} \,\boldsymbol{e}_{\mu}$$

測地線とは,この世界線にそって接ベクトルが一定,つまり
$$\frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = \boldsymbol{0}$$であるような線であり,この式を測地線方程式と呼ぶのであった。

測地線方程式の左辺の計算をもう少し続けると,

\begin{eqnarray}
\frac{d\boldsymbol{u}}{dv} &=&
\frac{d x^{\nu}}{dv} \frac{\partial}{\partial x^{\nu}} \left( u^{\mu}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) \\
&=& \left\{ \frac{\partial u^{\mu}}{\partial x^{\nu}}\,\boldsymbol{e}_{\mu} +
u^{\mu} \,\frac{\partial\boldsymbol{e}_{\mu}}{\partial x^{\nu}}\right\}  \frac{d x^{\nu}}{dv} \\
&=& \left( u^{\mu}_{\ \, ,\nu} \,\boldsymbol{e}_{\mu} +
u^{\mu} \,\boldsymbol{e}_{\mu,\nu} \right)  u^{\nu} \\
&=& \left( u^{\rho}_{\ \, ,\nu} \,\boldsymbol{e}_{\rho} +
u^{\mu} \,\varGamma^{\rho}_{\ \,  \mu\nu}\,\boldsymbol{e}_{\rho} \right)  u^{\nu} \\
&=& \left( u^{\rho}_{\ \, ,\nu}  +
\varGamma^{\rho}_{\ \,  \mu\nu} u^{\mu} \right)  u^{\nu}\,\boldsymbol{e}_{\rho}
\end{eqnarray}

(1,0)-型テンソルすなわちベクトルの成分の共変微分

上記のように,ベクトルを微分するときには,ベクトルの成分だけでなく,基本ベクトルも微分することを忘れなければ,世の中には普通の偏微分だけでことが足りる。

しかし,世の中には基本ベクトルを省略して,ベクトルの成分「だけ」でベクトルを表す人もいる。そんな(基本ベクトル省略派の)人々のために,ベクトルの成分の共変微分を以下のように定義する。

$$\nabla_{\nu} u^{\rho} \equiv u^{\rho}_{\ \, ;\nu} \equiv u^{\rho}_{\ \, ,\nu}  +
\varGamma^{\rho}_{\ \,  \mu\nu} u^{\mu} $$

このように定義された共変微分を使うと,測地線方程式は

$$\frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = u^{\rho}_{\ \, ;\nu} u^{\nu} \boldsymbol{e}_{\rho} = \boldsymbol{0}$$
したがって,測地線方程式の成分は,
$$ u^{\rho}_{\ \, ;\nu} u^{\nu} = 0$$ となる。

世の中には,普通の偏微分「以外」に,何か別のものである共変微分があるわけではない。世の中にあるのは普通の偏微分のみである。共変微分とは,基本ベクトル省略派のための便法として定義されたもの,という理解もあるかと思いますが,いかがでしょうか。

テンソルの成分の共変微分

ベクトルは,(1, 0)-型のテンソル,つまり成分が1つの上添字を持つテンソルである。これから,一般の (m,n)-型テンソルの成分の共変微分を以下のようにして定義していく。

(0, 0)-型テンソルすなわちスカラーの共変微分

スカラー \(\phi \) に対する共変微分は,通常の偏微分と同じとする。

$$ \nabla_{\nu} \phi = \phi_{;\nu} = \phi_{,\nu}$$

(0, 1)-型テンソルの成分の共変微分

\( a_{\mu} \) のような (0, 1)-型のテンソルの成分については,\( a_{\mu} \,u^{\mu} \) がスカラーとなることから,
$$\left( a_{\mu} \,u^{\mu} \right)_{;\mu} = \left( a_{\mu} \,u^{\mu} \right)_{,\mu}
= a_{\mu, \nu}\,u^{\mu} + a_{\mu} \,u^{\mu}_{\ \, ,\nu}$$
一方で,共変微分に対してもライプニッツルールが成り立つとして,

\begin{eqnarray}
\left( a_{\mu} \,u^{\mu} \right)_{;\mu} &=& a_{\mu; \nu}\,u^{\mu} + a_{\mu} \,u^{\mu}_{\ \, ; \nu} \\
&=& a_{\mu; \nu}\,u^{\mu} + a_{\mu} \left( u^{\mu}_{\ \, ,\nu} + \varGamma^{\mu}_{\ \, \rho\nu} u^{\rho}\right) \\
&=& a_{\mu; \nu}\,u^{\mu} + a_{\mu}\,u^{\mu}_{\ \, ,\nu} + a_{\rho}\, \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\nu}\, u^{\mu}
\end{eqnarray}

2つの表示を比較して,以下が得られる。

$$a_{\mu; \nu} = a_{\mu, \nu} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\nu}\, a_{\rho}$$

(0, 2)-型テンソルの成分の共変微分

\(b_{\mu\nu}\) のような (0, 2)-型テンソルについては,\(b_{\mu\nu}\, u^{\nu}= a_{\mu} \) として (0, 1)-型の共変微分の規則を適用して

\begin{eqnarray}
\left( b_{\mu\nu}\, u^{\nu}\right)_{; \sigma} &=& \left( b_{\mu\nu}\, u^{\nu}\right)_{, \sigma} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\sigma} \, b_{\rho\nu}\, u^{\nu} \\
&=& b_{\mu\nu, \sigma}\, u^{\nu} + b_{\mu\nu}\, u^{\nu}_{\ \, ,\sigma} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\sigma} \, b_{\rho\nu}\, u^{\nu}
\end{eqnarray}
一方で,共変微分のライプニッツルールから,

\begin{eqnarray}
\left( b_{\mu\nu}\, u^{\nu}\right)_{; \sigma} &=&
b_{\mu\nu; \sigma}\, u^{\nu} + b_{\mu\nu}\, u^{\nu}_{\ \,; \sigma} \\
&=& b_{\mu\nu; \sigma}\, u^{\nu} +
b_{\mu\nu}\left(u^{\nu}_{\ \, ,\sigma} + \varGamma^{\nu}_{\ \, \rho\sigma} \,u^{\rho} \right) \\
&=& b_{\mu\nu; \sigma}\, u^{\nu} +
b_{\mu\nu}\,u^{\nu}_{\ \, ,\sigma} + b_{\mu\rho} \varGamma^{\rho}_{\ \, \nu\sigma} \,u^{\nu}
\end{eqnarray} 2つの表示を比較して,以下が得られる。

$$ b_{\mu\nu; \sigma} = b_{\mu\nu, \sigma} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\sigma} \, b_{\rho\nu} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \nu\sigma} \, b_{\mu\rho}$$

(1, 1)-型テンソルの成分の共変微分

\(c^{\mu}_{\ \, \nu}\) のような (1, 1)-型テンソルの成分の共変微分も,たとえば \(c^{\mu}_{\ \, \nu} \,u^{\nu} \) がベクトルの成分と同等であることを使うと以下のようになることがわかる。

$$c^{\mu}_{\ \, \nu; \sigma} = c^{\mu}_{\ \, \nu, \sigma} + \varGamma^{\mu}_{\ \,\rho\sigma}\,c^{\rho}_{\ \, \nu} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \nu\sigma}\,c^{\mu}_{\ \,\rho}$$

 

計量テンソルの成分の共変微分はゼロ

計量テンソル \(g_{\mu\nu} \) も (0, 2)-型テンソルであるので,上式の共変微分を適用するとゼロであることがわかる。

$$g_{\mu\nu; \sigma} = g_{\mu\nu, \sigma} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \mu\sigma} \, g_{\rho\nu} – \varGamma^{\rho}_{\ \, \nu\sigma} \, g_{\mu\rho} = 0$$

上記の結果は,計量テンソルの成分のそもそもの定義からきているのであった。

計量テンソル \(g_{\mu\nu} \equiv
\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}\) を \(x^{\sigma}\) で偏微分すると,
\begin{eqnarray}
g_{\mu\nu, \sigma} &=&
\boldsymbol{e}_{\mu, \sigma}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}
+ \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu,\sigma} \nonumber \\
&=& \varGamma^{\rho}_{\ \ \mu\sigma}\boldsymbol{e}_{\rho}
\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}
+ \varGamma^{\rho}_{\
\nu\sigma}\boldsymbol{e}_{\rho}\cdot\boldsymbol{e}_{\mu}\nonumber\\
&=& g_{\rho\nu} \varGamma^{\rho}_{\ \ \mu\sigma} + g_{\rho\mu} \varGamma^{\rho}_{\ \ \nu\sigma}
\end{eqnarray}

また,計量テンソル逆行列 \( g^{\mu\nu} \) の共変微分もゼロとなる。
$$g^{\mu\nu}_{\ \ \   ;\sigma} = 0$$
これは逆行列の定義
$$g^{\mu\nu}\,g_{\nu\lambda} = \delta^{\mu}_{\ \,\lambda}$$ の両辺の共変微分から導くことができる。ここで \(\displaystyle \delta^{\mu}_{\ \,\lambda}\) はクロネッカーのデルタであり,\(\mu=\lambda\) のとき \(1\),それ以外は \(0\) を与えるのであった。

テンソルの添字の上げ下げと共変微分は可換

一般に (m, n)-型テンソルの添字の上げ下げは \(g^{\mu\nu}\) と \(g_{\mu\nu}\) を使って行うので,\(g^{\mu\nu}_{\ \ \  ;\sigma} = 0, \ \ g_{\mu\nu;\sigma} = 0\) から,添字の上げ下げと共変微分とは可換であることがわかる。

つまり,先にテンソルの成分の添字を上げ下げしてあとからその成分を共変微分しようが,先にテンソルの成分を共変微分してからあとでその成分の添字を上げ下げしようが,答えは同じということである。

共変微分の非可換性とリッチの恒等式

偏微分は可換(交換可能,微分の順序を入れ替えても同じ結果になるということ)であるが,上記のように定義した共変微分は可換ではない

ベクトル(後で使うので,ここでは (0,1)-型テンソルとする)の2階共変微分の非可換性を表す反対称部分は,リーマンテンソルを使って以下のように書ける。

$$k_{\alpha; \mu\nu} – k_{\alpha; \nu\mu} = R_{\beta\alpha\mu\nu} k^{\beta}$$

これを(リーマンテンソルが現れるのにもかかわらず)リッチの恒等式といったりするが,これを示しておく。

まず,

\begin{eqnarray}
k_{\alpha; \mu} &=& k_{\alpha, \mu} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\mu} k_{\beta}\\
k_{\alpha; \mu\nu} &=& \left(k_{\alpha, \mu} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\mu} k_{\beta} \right)_{, \nu} \\
&&\qquad – \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \alpha\nu} \left(k_{\lambda, \mu} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \lambda\mu} k_{\beta} \right)
– \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \mu\nu} \left(k_{\alpha, \lambda} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\lambda} k_{\beta} \right) \\
&=& k_{\alpha, {\color{red}{\mu\nu}}} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\mu, \nu} k_{\beta}
– \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha{\color{red}{\mu}}} k_{\beta, {\color{red}{\nu}}}
– \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \alpha{\color{red}{\nu}}} k_{\lambda, {\color{red}{\mu}}} \\
&&\qquad + \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \alpha\nu} \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \lambda\mu} k_{\beta}
– \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ {\color{red}{\mu\nu}}} \left(k_{\alpha, \lambda} – \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\lambda} k_{\beta} \right) \\
\end{eqnarray}

赤色の部分は ${\color{red}{\mu \nu}}$ について対称な部分であることに注意。

\begin{eqnarray}
\therefore\ \ k_{\alpha; \mu\nu}  – k_{\alpha; \nu\mu}&=&
\left(\varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\nu, \mu}
– \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \alpha\mu, \nu}
+ \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \lambda\mu}\varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \alpha\nu}
– \varGamma^{\beta}_{\ \ \ \lambda\nu} \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \alpha\mu} \right) k_{\beta}\\
&=& R^{\beta}_{\ \ \ \alpha\mu\nu} k_{\beta} \\
&=& R_{\beta\alpha\mu\nu} k^{\beta}
\end{eqnarray}

リッチの恒等式はまた,以下のように書く方がポピュラーかもしれない。(本稿では,共変微分を定義せずに測地線偏差の式からリーマンテンソルを定義したが,共変微分の定義から始まるテキストでは,この式をリーマンテンソルの定義とする場合も多いかと。)

$$k^{\alpha}_{\ \ ;\mu\nu} – k^{\alpha}_{\ \ ;\nu\mu} = R^{\alpha}_{\ \ \ \beta \nu\mu} k^{\beta}$$