Return to 平行線の公理の破れとリーマンテンソル

補足:リーマンテンソルの独立な成分について

リーマンテンソルの成分は以下のように定義されていた。

$$R^{\lambda}_{\ \, \nu\alpha\beta} \boldsymbol{e}_{\lambda} \equiv \boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta}$$

リーマンテンソルの成分の添字の対称性

リーマンテンソルの成分は4つの添字をもつため,4次元時空では \(4^4 = 256 \) 個の成分があることになるが,以下で示すような添字の対称性のために,真に独立な成分の個数は最終的に 20 個になる。

まず,リーマンテンソルの成分の定義式に \(\boldsymbol{e}_{\mu} \) をかけて内積をとると,
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot \left( R^{\lambda}_{\ \, \nu\alpha\beta} \boldsymbol{e}_{\lambda}\right) &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\lambda} R^{\lambda}_{\ \, \nu\alpha\beta}  \\
&=& g_{\mu\lambda} R^{\lambda}_{\ \, \nu\alpha\beta} \\
&\equiv& R_{\mu\nu\alpha\beta} = \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left( \boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta}\right)
\end{eqnarray} すなわち
$$R_{\mu\nu\alpha\beta} \equiv \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left( \boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta}\right)$$
4つが全て下添字であるリーマンテンソルの成分 \( R_{\mu\nu\alpha\beta} \) について,添字の対称性を以下で調べる。

(1) \(\displaystyle  R_{\mu\nu\alpha\beta} = – R_{\mu\nu\beta\alpha}\)

これは定義より明らかだが,念のため

\begin{eqnarray}
R_{\mu\nu\alpha\beta} + R_{\mu\nu\beta\alpha} &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta} \\
&& + \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta} – \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} \\
&=& 0
\end{eqnarray}

 

(2) \(\displaystyle R_{\mu\nu\alpha\beta} = – R_{\nu\mu\alpha\beta}\)

 

\begin{eqnarray}
R_{\mu\nu\alpha\beta} + R_{\nu\mu\alpha\beta} &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta} \\
&& + \boldsymbol{e}_{\nu}\cdot\boldsymbol{e}_{\mu, \beta\alpha} – \boldsymbol{e}_{\nu}\cdot\boldsymbol{e}_{\mu, \alpha\beta} \\
&=& \left( \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}\right)_{,\beta\alpha} –  \left( \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}\right)_{,\alpha\beta} \\
&=& g_{\mu\nu, \beta\alpha} – g_{\mu\nu, \alpha\beta} = 0
\end{eqnarray}

計量テンソルの成分 \(g_{\mu\nu}\) は普通の関数であるから偏微分は交換可能である。

 

(3) \(\displaystyle  R_{\mu\nu\alpha\beta} + R_{\mu\alpha\beta\nu}+ R_{\mu\beta\nu\alpha} = 0\)

\begin{eqnarray}
R_{\mu\nu\alpha\beta} &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left(\color{red}{\boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha}} \color{blue}{- \boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta}}\right) \\
R_{\mu\alpha\beta\nu} &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left(\boldsymbol{e}_{\alpha, \nu\beta} – \boldsymbol{e}_{\alpha, \beta\nu}\right)
=\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left(\color{blue}{\boldsymbol{e}_{\nu, \alpha\beta}} \color{green}{- \boldsymbol{e}_{\alpha, \beta\nu}}\right) \\
R_{\mu\beta\nu\alpha} &=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left(\boldsymbol{e}_{\beta, \alpha\nu} – \boldsymbol{e}_{\beta, \nu\alpha}\right)
= \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\left(\color{green}{\boldsymbol{e}_{\alpha, \beta\nu} }\color{red}{- \boldsymbol{e}_{\nu, \beta\alpha}}\right)
\end{eqnarray}

3本の式を足し合わせると同じ色同士がキャンセルしてゼロになることがわかる。

リーマンテンソルの独立な成分の個数(自由度)

いよいよ,4次元時空のリーマンテンソルの独立な成分の個数は20個であることを示す。

(1) の結果から,リーマンテンソルの成分の後2つの添字 \((\alpha  \beta)\) の組み合わせについては \(4\times 4\) の反対称行列の自由度と同じ6個の自由度があることがわかる。

たとえば,\((\alpha \beta) = (01), (02), (03), (12), (13), (23)\)

(2) の結果から,リーマンテンソルの成分の前2つの添字 \((\mu  \nu)\) の組み合わせについても, \(4\times 4\) の反対称行列の自由度と同じ6個の自由度があることがわかる。

たとえば,\((\mu  \nu) = (01), (02), (03), (12), (13), (23)\)

つまり,(1) と (2) の性質から,リーマンテンソルの独立な成分の個数は \( 6\times 6 = 36\) まで落とすことができる。

ここからさらに (3) の条件式で,自由度が減っていく。さて (3) の条件式の独立な自由度はいくつであろうか。

\(\mu\) は4通りとれる。残りの \([\nu  \alpha  \beta]\) については,どれか2つが同じなら (1) と (2) の性質から自明に満たされる式になってしまうので,\([\nu  \alpha \beta]\) はすべて異なっている必要があり,その独立な自由度は 4 であることがわかる(0 から 3 までの4個のうちの使わない1個を選ぶのだから4通り)。

したがって,(3) の条件式は \(4\times 4 = 16\) の独立な自由度があるわけだ。

最終的には,\(6\times 6 – 4 \times 4 = 36 – 16 = 20 \) となり,リーマンテンソルの独立な成分の個数は \(20\) ということになる。

リッチテンソルの対称性へ

(4)\( \ R_{\mu\nu\alpha\beta} = R_{\alpha\beta\mu\nu} \)

最後に,(1) から (3) までの条件を使って,\(\displaystyle R_{\mu\nu\alpha\beta} = R_{\alpha\beta\mu\nu} \) であることを示すことができる。これは後で述べるように,リッチテンソルが対称テンソルであることを示す際に用いられる。

証明のために,(3) の結果を添字をずらして4本書く。

\begin{eqnarray}
R_{\mu\nu\alpha\beta} \quad \color{red}{+ \quad R_{\mu\alpha\beta\nu}} \quad \color{blue}{+ \quad  R_{\mu\beta\nu\alpha}} &=& 0 \\
\color{green}{-R_{\nu\alpha\beta\mu}} \color{cyan}{\quad – \quad R_{\nu\beta\mu\alpha}} \quad \color{black}{- \quad R_{\nu\mu\alpha\beta}} &=& 0 \\
-R_{\alpha\beta\mu\nu}\color{red}{ \quad – \quad R_{\alpha\mu\nu\beta}}\color{green}{\quad – \quad  R_{\alpha\nu\beta\mu}} &=& 0 \\
\color{blue}{R_{\beta\mu\nu\alpha} } \quad\color{cyan}{ + \quad R_{\beta\nu\alpha\mu}} \quad \color{black}{+ \quad R_{\beta\alpha\mu\nu}} &=& 0
\end{eqnarray}

(1) および (2) の性質を使うと同じ色同士がキャンセルして消え,黒字部分のみが残り,

$$2 \left(R_{\mu\nu\alpha\beta}   -R_{\alpha\beta\mu\nu}\right)  = 0$$
$$\therefore \ R_{\mu\nu\alpha\beta} = R_{\alpha\beta\mu\nu} $$

リッチテンソルの成分 \( R_{\nu\beta} \) はリーマンテンソルの成分の1番目の添字と3番目の添字を縮約で定義されるので,

$$ R_{\nu\beta} \equiv g^{\mu\alpha} R_{\mu\nu\alpha\beta} = g^{\mu\alpha}R_{\alpha\beta\mu\nu} = g^{\alpha\mu}R_{\alpha\beta\mu\nu} = R_{\beta\nu} $$

$$\therefore\ \ R_{\nu\beta} =R_{\beta\nu} $$

 

となり,リーマンテンソルの成分の添字に対する性質から,リッチテンソルの成分が2つの下添字について対称であることが導かれた。