文:セシリア・ダヴィッドソン、絵:フィリッパ・ヴィードルンド、訳:オスターグレン晴子『ムーミンやしきのすがたの見えないおきゃくさま』徳間書店

文:セシリア・ダヴィッドソン、絵:フィリッパ・ヴィードルンド、訳:オスターグレン晴子『ムーミンやしきのすがたの見えないおきゃくさま』徳間書店

 

原作はトーベ・ヤンソンです。

雨のふる暗い夕方に、その女の子はトゥーティッキに連れられてムーミン邸にやってきました。名前はニンニ。けれども、その子の姿は見えません。トゥーティッキによると、ニンニは一緒に住んでいたおばさんにいじめられて、怒ったり怒鳴られたりされて毎日びくびくしながら暮らしているうちに姿が見えなくなってしまいました。そこでトゥーティッキは、もしもニンニをムーミントロールの家族のもとに連れて行って、しばらく一緒に過ごさせたならば、また姿が見えるようになるのではないかと思いついたのでした。

 ニンニは黒いリボンに通された鈴を首につけていました。ニンニが屋敷に入ってくると、姿は見えないものの、鈴が宙に浮いて見えます。そうして、ムーミントロールたちと一緒に森でとってきたばかりのキノコをきれいにする作業に取りかかりました。すると、キノコだけがスーッと宙に浮いて、鈴の方に動いたのです。みんなはニンニの姿が見えるようになるにはどうしたいいものかと考えるようになりました。

 その晩、ムーミンママはおばあさまの残した古い手帳から、「すがたがうすくなったり、見えなくなったときのくすり」の作り方のメモを探し出して、さっそくいろいろな材料を用意して混ぜ合わせると、翌朝、ニンニの飲むコーヒーにこっそり混ぜました。すると、ニンニの小さな足が見えるようになったのです。

 

 ニンニは、おおらかなムーミン一家とともに過ごすうちに、その姿を取り戻していきます。けれども、その顔だけはなかなか見えるようになりませんでした。彼女はムーミンママが大好きで、いつもその後ろをついていきます。そんな彼女の姿が見えるようになったのは、ムーミンママを助けようとしてとったある行動なのですが−。

 ムーミン一家のやさしさが心地良いお話です。リンゴ畑を背にしたムーミントロールたちの様子を描いた挿絵のページが、どことなく弘前のリンゴ畑を思い出させたりします。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

文:セシリア・ダヴィッドソン、絵:セシリア・ヘイッキラ、訳:オスターグレン晴子『ムーミントロールと小さな竜』徳間書店

作:セシリア・ダヴィッドソン、絵:セシリア・ヘイッキラ、訳:オスターグレン晴子『ムーミントロールと小さな竜』徳間書店

 

原作はトーベ・ヤンソンです。

 おなじみのムーミンのお話です。8月のある木曜日の朝早く、ムーミントロールは庭の池で偶然にも小さな竜をつかまえました。池の底にいる生き物が後ろ向きに泳ぐかどうかを確かめたくて水に潜らせたガラスの瓶に入っていたのがその竜でした。

 

 金魚のヒレのような綺麗な形をした竜のつばさは、朝日をあびてキラキラと輝いていました。その小さな頭はきれいな緑色で、目は檸檬色をしています。ムーミントロールはこの素敵な生き物をすっかり気に入って、途中で同居人のミイに見つかりながらも、大事に部屋に持ち帰ります。そしてまずはじめにこの竜を見せるのはやっぱり友人のスナフキンだな、と思い巡らせるのでした。

 ところが竜はムーミントロールに腹を立てて、口から小さな炎をはいては寄せつけようとしません。そしてすごい勢いでハエに近づいては飲み込んで食べています。そんな竜にもムーミントロールは、「きみって、すごいなあ!」と言って感心してしまうのでした。

 

 ごはんの後、ムーミントロールはさっそくスナフキンを訪ねて、本物の小さな竜を見つけたことを告げます。スナフキンはにっこりして、「そいつはぜひ、見せてもらわなくちゃ」と、ムーミントロールの部屋に向かいました。部屋に入ると、ムーミントロールはカーテンのかげに潜んでいた竜をつかまえようとしますが、竜はそれから逃れて飛びまわります。そしてやさしく成り行きを見守っていたスナフキンのことをすっかり気に入って、彼の肩に止まるとそこから離れようとしなくなってしまいました。ムーミントロールはすっかり気落ちしてしまいますが、口に出して訴えることはしません。-さて、このあとの展開はどうなっていくのでしょうか。スナフキンのやさしさが切ないお話です。

 

 フィンランドの広大な森の中で繰り広げられるムーミントロールの物語では、ムーミンという架空のキャラクターがスナフキンやミイといった登場人物と自然に共存しており、そしてそこにはどこかほっとする温かい雰囲気が満ち満ちています。丸くやわらかな輪郭線でとらえられたムーミントロールのかわいくもユーモラスな独特の風貌は、一度見たら忘れられません。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

作:ヘレン・ダンモア、絵:レベッカ・コッブ、訳:三辺律子『ふたりだけのとっておきのいちにち』文溪堂

作:ヘレン・ダンモア、絵:レベッカ・コッブ、訳:三辺律子『ふたりだけのとっておきのいちにち』文溪堂

毎年夏になると、リンの住む海辺の町にロビーがやってきます。二人は仲良しです。
 今年もロビーがやってきました。二人は砂浜でひみつの島を作ることにしました。ダムをつくり、小屋を建てて、その奥には海藻のジャングルを作って…だんだんと島は出来上がっていきます。

6日後、ロビーの出発の前日になってしまいました。まだ一緒にいたい二人は、いいことを思いついてー

夏の日がずっと続いたらいいのに、と思ってしまうキュートな絵本です。色鮮やかな海辺の様子や、細やかな輪郭線で描かれたモチーフと二人のキャラクターが目に楽しい一冊。

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作:マリア・テルリコフスカ、絵:ボフダン・ブテンコ、訳:うちだ りさこ『しずくのぼうけん』福音館書店

作:マリア・テルリコフスカ、絵:ボフダン・ブテンコ、訳:うちだ りさこ、『しずくのぼうけん』福音館書店

 

おばさんのバケツから、ぴしゃんと飛び出したひとしずく。しずくが落ちたのはホコリだらけの裏庭でした。きれいになりたいしずくは、クリーニング屋さんに向かいます。ところがー

ひょんなことからはじまったしずくのぼうけん。おひさまの熱で水蒸気になったり、雨になったり、冬の寒さで氷になったり。いろいろな旅を経て、春になるのを待つことに。お話を楽しみながら、いつの間にか、水の性質や水道の仕組みまで学んでいる・・・とても秀逸な一冊です!

単純なしずく💧に、かわいらしい目、鼻、口が加わって、一度見たら忘れられないキャラクターです。
本当に楽しいポーランドの絵本。

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作:アネット=チゾンとタラス=テイラー、訳:やましたはるお『おばけのバーバパパ』偕成社

作:アネット=チゾンとタラス=テイラー、訳:
やましたはるお『おばけのバーバパパ』偕成社

 

フランソワの家の庭で生まれたバーバパパ。フランソワはすぐに仲良しになったけれど、バーバパパは大きすぎて家には置いておけないと言われてしまいます。そうして、動物園に連れて行かれたバーバパパは、檻の中に入れられてしまいます。バーバパパは、ちっとも楽しくありません。

でもその時、バーバパパは気付くのです。自分の姿をいろいろな形に変化させることができることに。檻を出て、動物園を抜けて、町に出たバーバパパ。

 

この後の展開は?ー

おなじみのバーバパパシリーズの一作目。いつ読んでも最後まで楽しい一冊です。

 

 

実在しないバーバパパというキャラクター。いろいろな形に変幻自在に変化することができるという発想に脱帽です!

バーバパパの様々な形、やさしく、ときにかわいらしい表情ー線が生み出す単純でいながら計算された形と構図は、何度見ても飽きることがありません。独特の木や葉、水の表現は、クレーによる実験的な造形表現を彷彿とさせますが、明るくポップな一枚一枚のページでは、チゾンとテイラーによる独特の世界観があますところなく展開していきます。

細くてもくっきりと印象的な黒い輪郭線がモチーフの形を際立たせています。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

作:ヨンナ・ビョルンシェーナ、訳:ヘレンハルメ美穂『おばけイカにきをつけろ おとうとうさぎ!』クレヨンハウス

作:ヨンナ・ビョルンシェーナ、訳:ヘレンハルメ美穂『おばけイカにきをつけろ おとうとうさぎ!』クレヨンハウス

 

「おとうとうさぎ」シリーズの一冊。スウェーデンの絵本です。

 

水遊びが苦手なおとうとうさぎ。それでも、にいさんとねえさんと一緒に「不思議の海」にやってきました。二人は魚とりに夢中です。おとうとうさぎにも「ねえ、いっしょにやらない?」と声をかけますが、「うーん、やめとく。みずにはいるの、すきじゃないから」とおとうとうさぎは断ります。すると、にいさんうさぎは、「こわいんだろ?よわむしだな!」とからかいました。怒ったおとうとうさぎは、わざと海に飛び込んで、怖がりではないことを見せようとしました。これをみたにいさんうさぎは、「おばけイカに、きをつけろ!」とからかって、おとうとうさぎを怖がらせては大笑い。

ところが、このあと、にいさんうさぎとねえさんうさぎは本物の「おばけイカ」に連れ去られてしますのです。こうして、水が怖いおとうとうさぎの、海の中の冒険がはじまります。そこにはこわい魚がいっぱい!おとうとうさぎは、おばけイカから無事ににいさんとねえさんを助けることができるのでしょうか?―

 

まるでマンガの構割りを見ているかのようなページ、絵本特有の大きな大画面を活かした構図のページ・・・と、ページをめくるたびにさまざまな楽しい画面が飛び出してきます。デフォルメされたうさぎや魚たち、そしておばけイカの表情や動きが、いきいきとしていて、コミカルで、テンポよくわくわくしながら読み進められます!ペン描きのはっきりとした黒い輪郭線が、特有のアクセントなっていて、ポップな印象を強めています。とにかく楽しい絵本!

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文:エドアルド・ペチシカ、絵:ズデネック・ミレル、訳:うちだりさこ『もぐらとずぼん』福音館書店

文:エドアルド・ペチシカ、絵:ズデネック・ミレル、訳:うちだりさこ『もぐらとずぼん』福音館書店

 

もっこりもりあがった小さな土の山から、「やあ、こんにちは」ともぐらがでてきました。

土の中で見つけた宝物(釘とまり、それに鏡)を持ちだして得意そうにあたりを見回した時、青いずぼんが目に入りました。何でも入ってしまいそうな大きなポケット付きのズボンです!もぐらはずぼんがほしくてほしくてたまらなくなってしまいました。

 

「ぽけっとのついたずぼん、どこへいったらみつかるかしりませんか?」

 

もぐらは聞いてまわります。

すると、川の中からエビガニが出てきました。

「わたしのところへきれをもっておいで。ずぼんのかたちに、きってあげるよ。」

でも、誰が縫ってくれるのでしょう?もぐらは考えます。

 

「そうだ!よしきりならすをぬえるんだから、ずぼんだってぬえるはずだ。」

もぐらはさっそくヨシキリ(鳥)に頼みました。「もちろんぬってあげるとも。」ヨシキリは答えました。

 

では、きれはどこにあるのでしょう?途方に暮れたもぐらは、土の山に座って泣き出しました。

 

すると、そばに咲いていた花がもぐらに話しかけました。「・・・わたしは、あまっていうはななの。・・・」あまは、自分の言うことを聞いてくれたらきれを作る方法を教えてあげると言いました。それからもぐらくんは、あまの花にたくさんの水をやって、あまが十分に大きくなるお手伝いをしました。そしてとうとう、あまは自らの茎から糸をとる方法と、その糸を染めてきれにしていく方法を教えてくれたのです!

 

もぐらのずぼんはできあがるでしょうか?―

 

可愛らしいお話です。

チェコを代表するアニメーション作家としても著名なズデネック・ミレルの挿絵がほのぼのとしていて、どこかなつかしさを感じさせます。秀逸な線と巧妙なデフォルメで見事に描かれている今にも動き出しそうなキャラクターたち。リアルさをともないつつもやわらかく、やさしく描かれた野原の花々との表現の差異が際立っています。

 

※この投稿の画像は、出版社が一般に掲載を許可している範囲内のものです。無断転載はご遠慮ください。

作:村山籌子、絵:村山知義、再話:村山亜土『なくなったあかいようふく』福音館書店

作:村山籌子、絵:村山知義、再話:村山亜土『なくなったあかいようふく』福音館書店

 

ある日、にわとりの娘さんが歩いていると、洋服屋のあひるさんが一枚のビラをくれました。

「かわいい こどもの ようふく やすい、やすい、とっても やすいよ」

にわとりの娘さんがお母さんにビラを渡すと、お母さんはさっそく娘さんと一緒に洋服屋さんに向かました。そして、「ねえ、あしたの あたんじょうびに これを きたら どうかしら」と言って、袖なしの赤いワンピースを娘さんに買いました。娘さんはとても気に入って、大喜び!夜になってベッドに入る時も、ワンピースを窓のところに吊るしてじっと眺めていました。

 

ところが!朝起きるとワンピースがありません。

お父さんの一案で、犬さんにワンピース探しをおまかせすることにしました。

ここから犬さんの面白おかしいワンピース探索がはじまります―

 

戦前から前衛美術団体「MAVO」を率いて活躍していた美術家の村山知義が、1929年に描いていた「ナクナッタ アカイヨウフク」の原画をもとに、妻である村山籌子が書いていたはずのストーリーを推測しながら、ご子息の村山亜土が絵本にしたものだそうです。女の子の「なくなったあかいようふく」を軸に、ユーモラスでのびやかなお話が展開していきます。

ニワトリをはじめとする動物たちの姿、表情、動作がどれも生き生きとしています。洗練されたペン画と彩色で彩られたページは、簡潔でありながらスタイリッシュなモダンアートそのもののように感じられます。

 

※この投稿の画像は、出版社が一般に掲載を許可している範囲内のものです。無断転載はご遠慮ください。

 

作:ブリッタ・テッケントラップ、訳:三原 泉『ブルーがはばたくとき』BL出版

作:ブリッタ・テッケントラップ、訳:三原 泉『ブルーがはばたくとき』BL出版

 

森のおくの大きな木の下のほうにある枝でひっそりと時をすごしていたブルー。

空を飛ぶことも、歌をうたうことも忘れてしまっていました。

 

そこに現れたのがイエローです。

イエローが歌うと周りのものが明るく輝きだします。木々の枝も芽吹きだします。

 

ある時イエローは、森の奥の木の下のほうにひそむブルーの姿に気づきました。

一日一日と下のほうにある枝に移りながら、だんだんとブルーに近づいていくイエロー。

イエローの歌は、ブルーのまわりの世界を、そしてブルー自身を変えていきます。

・・・やがて、『ブルーがはばたくとき』が来ました!

 

 

ページをめくる毎に美しい森の情景が広がります。

黒いシルエットで描かれていた森の木々が、イエローの魔法のような歌声でだんだんと色づいていきます。イエローから広がる金色の光りがだんだんと森を照らし始めます。まるで、ブリッタ・テッケントラップの魔法にかかったかのように、森は美しく輝きだします。版画などのさまざまな技法を駆使して重層的な情景を暖かく生みだした魅力的な挿絵です。あざやかなブルーとイエローの小鳥の色が目に鮮やかな印象を残します。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

 

作:きくちちき『ぼくだよ ぼくだよ』理論社

作:きくちちき『ぼくだよ ぼくだよ』理論社

 

ライオンとひょう、二人は友達。でも―

 

「ぼくのつめのほうがするどいよ」

「ぼくのきんにくのほうがつよいよ」

 

二人は自分のほうがすぐれているところを主張しあうライバルでもあります。

 

でも―

「そしたら ぼくはおおあらし。きみなんてあっというまにふきとばしちゃうよ」

「そしたら ぼくはたいよう。あらしなんてなくなってきみはくもになっちゃうよ」

 

「そしたら そしたら きもちいいね」

 

やっぱり二人は仲良しなのです。

 

こんな友達がいたらいいな、と思える楽しい絵本です。

 

きくちちきの筆と色彩が画面いっぱいに広がって、みずみずしく、気持ちの良い作品です。

 

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