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平行線の公理の破れとリーマンテンソル

時空が曲がっていることを知るためには,曲がっていない,つまり平坦な時空で成り立つ「平行線の公理」が成り立っているかどうかを調べることが手がかりとなる。

2本の近接測地線

まず,「まっすぐな線」である測地線を2本用意する。

それぞれの世界線を \(x^{\mu}(v)\), \(\tilde{x}^{\mu}(v) \) と表すと,それぞれの接ベクトル
$$\boldsymbol{u} (x)= u^{\mu}(x) \boldsymbol{e}_{\mu}(x) = \frac{dx^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}(x)$$
$$\tilde{\boldsymbol{u}} (\tilde{x}) = \tilde{u}^{\mu}(\tilde{x}) \boldsymbol{e}_{\mu}(\tilde{x}) = \frac{d\tilde{x}^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}(\tilde{x})$$
測地線方程式
\begin{equation}
\frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = \boldsymbol{0},
\quad
\frac{d\tilde{\boldsymbol{u}}}{dv} = \boldsymbol{0}
\end{equation}
である。

特にこれら2本の測地線が近接しているとして,
$$\tilde{x}^{\mu}(\lambda)=x^{\mu}(\lambda) + \epsilon\, \xi^{\mu}, \quad |\epsilon| \ll 1$$
とおき,微小量 \(\epsilon\) の1次までとると,

\begin{eqnarray}
\tilde{\boldsymbol{u}} &=&
\left( \frac{dx^{\mu}}{dv} + \epsilon \frac{d\xi^{\mu}}{dv}\right) \boldsymbol{e}_{\mu}(x + \epsilon \xi)\\
&\simeq&\left( \frac{dx^{\mu}}{dv} + \epsilon \frac{d\xi^{\mu}}{dv}\right)
\left( \boldsymbol{e}_{\mu}+ \epsilon\, \boldsymbol{e}_{\mu, \nu} \xi^{\nu}\right)\\
&\simeq& \boldsymbol{u}(x) + \epsilon\,\frac{d\xi^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}
+ \epsilon\, \frac{dx^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\color{red}{\mu, \nu}} \xi^{\nu}\\
&=& \boldsymbol{u}(x) + \epsilon\,\frac{d\xi^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}
+ \epsilon\,  \xi^{\nu}\boldsymbol{e}_{\color{red}{\nu, \mu}}\frac{dx^{\mu}}{dv}\\
&=& \boldsymbol{u}(x) + \epsilon \frac{d}{dv}\left( \xi^{\nu} \boldsymbol{e}_{\nu}\right)
\end{eqnarray}

一方,\(\tilde{\boldsymbol{u}} = \boldsymbol{u} (\tilde{x}) = \boldsymbol{u}({x} + \epsilon\, \xi)\) であるから,微小量 \(\epsilon\) の1次までとると,

$$ \tilde{\boldsymbol{u}}=\boldsymbol{u} ({x} + \epsilon\, \xi)
\simeq \boldsymbol{u}(x) + \epsilon\, \boldsymbol{u}_{ , \mu} \xi^{\mu}$$

\(\epsilon\) の1次の項を等しいとおくと

$$ \frac{d}{dv}\left( \xi^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \boldsymbol{u}_{ , \mu} \xi^{\mu}$$ が得られる。

偏差ベクトル

ここで,\( \xi^{\mu}\) を成分とするベクトル

$$\boldsymbol{\xi}\equiv \xi^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}$$
を導入する。\(\boldsymbol{\xi}\) は(2本の近接測地線の差を表すので)偏差ベクトルdeviation vector)とか(2本の近接測地線を連結させるはたらきがあるので)連結ベクトルconnecting vector)などと呼ばれている。

上で得られた結果から,
$$ \frac{d\boldsymbol{\xi}}{dv} = \boldsymbol{u}_{, \nu}\, \xi^{\nu} $$

ちなみに,別ページで述べるようにアフィンパラメータとして \(v\) のかわりに固有時間 \(\tau\) をとることができて,そのようにとると測地線の接ベクトル \(\boldsymbol{u}\) と偏差ベクトル \(\boldsymbol{\xi}\) の内積は,測地線に沿って一定にすることができる。なぜならば,

\begin{eqnarray}
\frac{d}{d\tau}\left(\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{\xi} \right) &=&
\frac{d\boldsymbol{u}}{d\tau}\cdot\boldsymbol{\xi} + \boldsymbol{u}\cdot\frac{d\boldsymbol{\xi}}{d\tau}\\
&=& \boldsymbol{0}\cdot\boldsymbol{\xi} + \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u}_{, \mu}\, \xi^{\mu}\\
&=& \frac{1}{2} (\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u})_{, \mu}\, \xi^{\mu}\\
&=& 0 \quad \because\ \ \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u} = -c^2
\end{eqnarray}

このことを使うと,偏差ベクトル \(\boldsymbol{\xi}\) は,常に測地線の接ベクトル \(\boldsymbol{u}\) に直交するように設定できることも明らかですね。(初期条件として \(\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{\xi}=0\) とすれば,ずーっと\(\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{\xi}=0\) ということです。)

測地線偏差方程式とリーマンテンソル

さらにもう一階微分すると,以下の式が得られる。(計算の詳細は補足で。)
\begin{equation}
\frac{d^2\boldsymbol{\xi}}{dv^2} =
\left(\boldsymbol{e}_{\mu,\rho\nu} – \boldsymbol{e}_{\mu,\nu\rho}\right)
u^{\mu}u^{\nu}\xi^{\rho}.
\end{equation}
この式の左辺はベクトルであり,すべからくベクトルは基本ベクトルの線形結合で書かれるのであるから,右辺の基本ベクトルの2階微分である \((\boldsymbol{e}_{\mu,\rho\nu} – \boldsymbol{e}_{\mu,\nu\rho})\) もまた,基本ベクトルの線形結合で書かれるはずだ。

そこで,
\begin{equation}\label{eq:rie1}
\boldsymbol{e}_{\mu,\rho\nu} – \boldsymbol{e}_{\mu,\nu\rho}
\equiv R^{\sigma}_{\ \ \mu\nu\rho} \boldsymbol{e}_{\sigma}
\end{equation}
と書く。\(R^{\sigma}_{\ \ \mu\nu\rho}\)はリーマンテンソルの成分と呼ばれる。このリーマンテンソルの成分を使って書き直すと,
\begin{equation}
\frac{d^2\boldsymbol{\xi}}{dv^2} =
R^{\sigma}_{\ \mu\nu\rho}\,u^{\mu}u^{\nu}\xi^{\rho}\,\boldsymbol{e}_{\sigma}
\end{equation}
となる。この式は2本の測地線間の間隔がどのように変化するかを決める大切な方程式であり,測地線偏差方程式(または単に測地線偏差の式など)と呼ばれている。

 

リーマンテンソルの役割

もしリーマンテンソルの全ての成分がゼロだとすると,その時空では測地線偏差の式は以下のようになる。
\begin{equation}\label{eq:flat}
R^{\sigma}_{\ \mu\nu\rho} = 0 \ \Rightarrow\
\frac{d^2\boldsymbol{\xi}}{dv^2} =\boldsymbol{0}
\end{equation}
すると,例えば \(v = v_0\) で
\begin{equation}
\frac{d\boldsymbol{\xi}}{dv}\biggr|_{v_0} =\boldsymbol{0}
\end{equation}
つまり,初期設定として間隔を一定にした2本の近接測地線を準備してやると,測地線偏差の式により,任意の \(v\) について
\begin{equation}
\frac{d\boldsymbol{\xi}}{dv} =\boldsymbol{0}
\end{equation}
となることがわかる。つまり,\(R^{\sigma}_{\ \mu\nu\rho} = 0\) である時空では,最初,平行においた2本の「まっすぐな線」はどこまで伸ばしていっても間隔が一定であり決して交わらない。

リーマンテンソルの全ての成分がゼロである時空とは,平行線がどこまでいっても文字通り「平行線をたどるような」時空,つまり平行線の公理が成り立つ平坦な(曲がっていない)時空なのである。

逆に,リーマンテンソルの成分がゼロでない時空では,たとえ最初に平行な2本の測地線を設定したとしても,2本の間隔は一定ではなくなる。どんどん伸ばしていけば,やがてその間隔が変化し,ある場合には交わってしまったり,またある場合には離れていってしまうだろう。

リーマンテンソルは,その時空における平行線の公理の破れ具合,
つまりその時空の曲がり具合を表す量なのである。

次に進む前に,リーマンテンソルクリストッフェル記号(とその1階微分)を使って表すことができることを示しておこう。

基本ベクトルの1階微分はクリストッフェル記号で書かれる。これを代入すれば,以下が得られる。(詳細は補足で。)
\begin{eqnarray}
R^{\sigma}_{\ \ \mu\nu\rho} &=& \varGamma^{\sigma}_{\ \ \mu\rho,\nu} –
\varGamma^{\sigma}_{\ \ \mu\nu,\rho} \nonumber + \varGamma^{\sigma}_{\ \ \lambda\nu}\varGamma^{\lambda}_{\ \ \mu\rho}
– \varGamma^{\sigma}_{\ \ \lambda\rho}\varGamma^{\lambda}_{\ \ \mu\nu}.
\end{eqnarray}
クリストッフェル記号計量テンソルの成分の1階偏微分で表されることを思い出せば,リーマンテンソルの成分は,最終的には計量テンソルの成分の2階偏微分までを含むことになる。