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補足:アインシュタインの静止宇宙モデルと「人生最大の過ち」

宇宙膨張を決める式

ニュートン宇宙論において得られた式

$$\dot{\rho} + 3 \frac{\dot{a}}{a} \rho = 0 \tag{1}$$
$$\quad \frac{\ddot{a}}{a} = – \frac{4\pi G}{3} \rho \tag{2}$$
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{3}$$

これらの式は一般相対論的宇宙論においてもそのままの形で成り立つのであった。

アインシュタインの静止宇宙モデル

ニュートン同様,(ハッブルの発見以前は)宇宙は永久不変であるべし,と考えていたアインシュタインは,彼自身の提唱した方程式(アインシュタイン方程式)から得られた \((2)\) 式をみて,ちと困った(そうだ)。

物質密度は \(\rho > 0\) だから加速度がゼロにならない \(\ddot{a} \neq 0\) ,宇宙はじっとしていられない!

全能の神がつくりたもうた(はずの)永久不変の宇宙が得られない…

そこでアインシュタインが(しぶしぶ?)導入したのが,宇宙定数 \({\color{red}{\Lambda}}\) であった。運動方程式の右辺に以下のように導入し,
$$\quad \frac{\ddot{a}}{a} = – \frac{4\pi G}{3} \rho  {\color{red}\, +\, \frac{\Lambda}{3}}$$

初期条件として \(\displaystyle \frac{\ddot{a}}{a} = 0\) となるように \({\color{red}{\Lambda}}\) の値を調節すれば,加速度をゼロにできる。

宇宙定数の導入によって \((3)\) 式も以下のようにかわるので
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{{\color{blue}{k}}}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho {\color{red}{ \,+ \,\frac{\Lambda}{3}}}$$

さらに積分定数 \({\color{blue}{k}} \) の大きさをうまく調節すれば,\(\dot{a} = 0\) つまり,初速度もゼロにでき,永久不変な(\(a\) が一定でありつづける)静止宇宙モデルが得られる。

めでたし,めでたし… ?

ハッブルの発見と宇宙定数の撤回

その後,ハッブルの発見(\(\dot{a}  > 0\))を聞いたアインシュタインは,静止宇宙モデル(\(\dot{a}  = 0\))のため(だけ)に宇宙定数を導入したことを「人生最大の過ち」とし,宇宙定数を撤回してしまいます。これが20世紀前半の状況でした。

現代宇宙論の「ダークサイド」

しかし,宇宙定数の導入は,はたして本当に「人生最大の過ち」だったのかというと,どうもそうとも言い切れない。

20世紀後半,1980年代にはいり,宇宙のごく初期に指数関数的な加速膨張(\(\ddot{a}>0\))の時期(これを宇宙のインフレーションという)があったとする考えが提唱された。普通の物質は \(\rho > 0\) であるから,このような加速膨張を引き起こす物質は,普通の物質ではありえず,あたかも(アインシュタインが撤回したはずの)宇宙定数のような性質を持つ必要があり,特に「真空のエネルギー」などと呼ばれている。

また,世紀がかわる西暦 2000年前後に,主に2つの独立した観測グループによって,宇宙膨張が加速している(\(\ddot{a}>0\))という結果が公表された。これも普通の物質ではありえず,現在の宇宙のこのような加速膨張を引き起こす物質は,「ダークエネルギー」などと呼ばれている。

このようにして,アインシュタインが撤回したはずの宇宙定数は,21世紀における現代宇宙論においても「真空のエネルギー」や「ダークエネルギー」などと名前を変えて暗躍?大活躍?しているということになります。