Return to 一般相対論的宇宙論

膨張宇宙の計量の導出とフリードマン方程式

アインシュタイン方程式をうずなしのダスト流体の場合について解き,膨張宇宙の解であるフリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量(以下,FLRW)を導出する。(以下,\(c = 1\) とする。)

はなから一様等方性を決め打ちで仮定するのも芸がないので,少しだけ一般的状況設定からはじめて,最終的に一様等方な3次元空間であることが導かれるような書き振りにしてみる。

 

うずなしのダスト流体

物質のエネルギー運動量テンソルとして,うずなしダスト流体を仮定し,
$$T^{\mu\nu} = \rho u^{\mu} u^{\nu}$$とする。ダスト流体とは,圧力 \(P\) がゼロ(無視できるほど小さい)であるような完全流体のことで,\(\rho\) はエネルギー密度(\(c=1\) では質量密度と言い換えても可),\(u^{\mu}\) は流体の4元速度

エネルギー運動量テンソルが満たすべき式$$T^{\mu\nu}_{\ \ \  \ ;\nu} = 0$$
は \(u^{\mu}\) に平行な成分と直交する成分に分解できて,平行な成分は
$$\rho_{;\nu} u^{\nu} + \rho u^{\nu}_{\ \ ;\nu} = 0$$
というエネルギー(質量)保存則を与え,直交する成分は
$$u^{\mu}_{\ \ ; \nu} u^{\nu} = 0, \quad\mbox{i.e.,} \quad \frac{du^{\mu}}{d\tau} + \varGamma^{\mu}_{\ \ \ \nu\lambda} u^{\nu} u^{\lambda} = 0$$という測地線方程式になる。

うずなし,とは
$$u_{\mu, \nu}  – u_{\nu, \mu} = 0$$
ということであり,これにより \(u^{\mu}\) を3次元超曲面の法線ベクトルにできる。この超曲面を \(x^0 = t = \mbox{const.}\) 超曲面とすれば,以下に述べるように,同期化された共動座標系をとることができるようになる。

同期化された共動座標系

同期化された座標系とは,\(g_{00} = -1, \ g_{0i} = 0\) である座標系のことで線素は以下のように書ける。
$$ds^2 = -dt^2 + g_{ij} dx^i dx^j$$

また,共動座標系とは4元速度の空間成分がゼロであるということで,上記の同期化された座標系では(\(g_{\mu\nu} u^{\mu} u^{\nu} = g_{00} \left(u^0\right)^2 = -1\) であるから)
$$u^{\mu} = (u^0, 0, 0, 0) = (1, 0, 0, 0)$$

ちなみに,\(u^{\mu}= (1, 0, 0, 0)\) が確かに測地線方程式を満たしていることを確認することは容易である。同期化された座標系では \(\varGamma^{\mu}_{\ \ \ 00} =0 \) であること,および \(u^{\mu}\) の全ての成分が定数であることから
$$\frac{du^{\mu}}{d\tau} + \varGamma^{\mu}_{\ \ \ \nu\lambda} u^{\nu} u^{\lambda} = \varGamma^{\mu}_{\ \ \ 00} =0$$
となり,確かに測地線方程式を満たしていることがわかるよねぇ。

ハッブル・ルメートルの法則

\(t = \mbox{const.}\) である3次元超曲面上の近接した2点間の距離 \(\ell\) は以下のように書くことができる。
$$\ell \equiv \sqrt{g_{ij} dx^i dx^j}$$

ハッブル・ルメートルの法則を2点間の距離の時間変化が距離に比例する
$$\frac{\partial \ell}{\partial t} = \dot{\ell}  \propto \ell$$
という形に書くと,この関係が3次元超曲面上のどの地点においても成り立つためには,(共動座標変位 \(dx^i\) は時間的に変化しないから)
$$\dot{g}_{ij} \propto g_{ij} $$
であることが必要であり,従って
$$g_{ij} = a^2(t, \vec{x}) \gamma_{ij}(\vec{x})$$
と書けることがわかる。ここで \(\vec{x} = (x^1, x^2, x^3)\) は空間座標のみを表し,したがって
$$\dot{\gamma}_{ij} = 0$$

アインシュタイン方程式の \(3 + 1\) 分解

\(g_{ij}\) およびその逆行列である \(g^{ij}\) から以下の量を定義する。

$$K_{ij} \equiv  \frac{1}{2} \dot{g}_{ij},
\quad K^i_{\ \ j} = g^{ik} K_{kj}$$

ハッブル・ルメートルの法則の結果を使うと
$$K^i_{\ \ j} = \frac{\dot{a}(t,\vec{x})}{a(t,\vec{x})} \delta^i_{\ \ j} \equiv H(t,\vec{x}) \delta^i_{\ \ j} $$

また,\(g_{ij}\) から計算される3次元空間のクリストッフェル記号を \({}^{(3)}\! \varGamma^{i}_{\ \  jk}\) と書くと,アインシュタイン方程式の \(0i\) 成分 \(G_{0i} = 8\pi G T_{0i}\) は
$$K^{j}_{\ \ i, j} + {}^{(3)}\! \varGamma^{j}_{\ \  ki} K^k_{\ \ j} – {}^{(3)}\! \varGamma^{j}_{\ \  kj} K^k_{\ \ i} – K^{j}_{\ \ j,i} = 0$$

と書ける。ハッブル・ルメートルの法則の結果 \(K^i_{\ \ j} = H \delta^i_{\ \ j}\) を使うと
$$H_{, i} = 0 \quad\Rightarrow\quad H = H(t), \ \ \therefore\ \ a= a(t)$$

ということで,同期化された計量は,時間 \(t\) のみに依存するスケール因子 \(a(t)\) と空間座標のみに依存する \(\gamma_{ij}\) を使って
$$ds^2 = -dt^2 + a^2(t) \,\gamma_{ij} dx^i dx^j$$
と書かれるところまできた。

\(\gamma_{ij}\)を3次元空間の計量として計算される3次元リッチテンソルを \({}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j}\) と書くと,アインシュタイン方程式の \(00\) 成分 \(G_{00} = 8\pi G T_{00}\) は

$$\frac{1}{2} \left\{\left(K^i_{\ \ i}\right)^2 –  K^i_{\ \ j}K^j_{\ \ i} + \frac{1}{a^2} {}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  i}\right\} = 8\pi G \rho$$
ハッブル・ルメートルの法則からの帰結である \(\displaystyle K^i_{\ \ j} = \frac{\dot{a}}{a} \delta^i_{\ \ j}\) を使うと
$$\therefore\ \ \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{1}{6a^2} {}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  i} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{1}$$

また trace-reversed なアインシュタイン方程式の \(ij\) 成分 \(\displaystyle R^i_{\ \ j} = 8\pi G\left(T^i_{\ \ j} – \frac{1}{2} \delta^i_{\ \ j} T^{\mu}_{\ \ \mu}\right)\) は
$$\dot{K}^i_{\ \ j} + K^k_{\ \ k} K^i_{\ \ j} +\frac{1}{a^2}  {}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j} = 4\pi G \rho \delta^i_{\ \ j}$$

ハッブル・ルメートルの法則からの帰結である \(\displaystyle K^i_{\ \ j} = \frac{\dot{a}}{a} \delta^i_{\ \ j}\) を使うと

$$\frac{\ddot{a}}{a}\delta^i_{\  j} + 2 \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2\delta^i_{\  j} +\frac{1}{a^2}  {}^{(3)}\! R^{i}_{\   j} = 4\pi G \rho \delta^i_{\  j} \tag{2}$$

あと少し。

\((1)\) 式と \((2)\) 式のトレースを使って \({}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  i}\)  を消去すると,物質密度 \(\rho\) は時間だけの関数 \(a(t)\) だけで書かれるから, \(\rho\) もまた時間だけの関数であるがわかる。
$$\rho = \rho(t)$$

そうすると  \((2)\) 式から,空間座標だけの関数である \({}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j}\) がそれ以外は全て時間だけの関数と釣り合うことになるから,考えられる可能性は, \({}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j}\) が定数のみを使って書けるだろうということ。また,クロネッカーのデルタ \(\delta^i_{\ j}\) にも比例しているはず。そこで,空間曲率定数 \(k\) を使って
$${}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j} = 2 k \delta^i_{\ j} \tag{3}$$
のように書けるはずだ,というところまでわかった。

リッチテンソルがこのように書ける3次元空間は定曲率空間と呼ばれるのだが,それはともかく,この \((3)\) 式をあらためて \((1)\) 式と \((2)\) 式に代入すると,

$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{\(1’\)}$$

\begin{eqnarray}
\frac{\ddot{a}}{a} + 2 \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 +2 \frac{k}{a^2} &=& 4\pi G \rho \\
\frac{\ddot{a}}{a} + 2 \left(\frac{8\pi G}{3} \rho \right) &=& 4\pi G \rho \\
\therefore \ \ \frac{\ddot{a}}{a} &=& -\frac{4\pi G}{3} \rho \tag{\(2’\)}
\end{eqnarray}

また,\(\rho_{;\nu} u^{\nu} + \rho u^{\nu}_{\ ;\nu} = 0 \) は
$$\dot{\rho} + 3\frac{\dot{a}}{a} \rho = 0 \tag{4}$$
となる。

ここまでのまとめ

\((4)\) 式,\((2^{\prime})\) 式,\((1^{\prime})\) 式をあらためてまとめて書くと

$$\dot{\rho} + 3\frac{\dot{a}}{a} \rho = 0 \tag{A}$$
$$\frac{\ddot{a}}{a} = -\frac{4\pi G}{3} \rho \tag{B}$$
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{C}$$
最後の式がフリードマン方程式と呼ばれるのであった。

ニュートン宇宙論において得られた式と全く同じであることに刮目せよ。

圧力がある完全流体の場合

上記で仮定したダスト流体は圧力 \(P\) がゼロの完全流体であった。圧力がある完全流体の場合は,エネルギー運動量テンソル \(T^{\mu\nu}\) は以下のように書ける。

$$T^{\mu\nu} = \rho  u^{\mu} u^{\nu} {\color{red}{+ P( g^{\mu\nu} + u^{\mu} u^{\nu})}}$$

\((A)\) 式,\((B)\) 式,\((C)\) 式は以下のようになる。

$$\dot{\rho} + 3\frac{\dot{a}}{a} (\rho {\color{red}{ + P}})= 0 \tag{A’}$$
$$\frac{\ddot{a}}{a} = -\frac{4\pi G}{3} (\rho {\color{red}{ + 3P}}) \tag{B’}$$
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho \tag{C}$$

宇宙定数がある場合

ダスト流体プラス宇宙定数 \(\Lambda\) がある場合のアインシュタイン方程式は
$$G_{\mu\nu} {\color{red}{+ \Lambda g_{\mu\nu}}} = 8\pi G T_{\mu\nu}$$

$$\therefore\ \  G_{\mu\nu} = 8\pi G \left(T_{\mu\nu} {\color{red}{- \frac{\Lambda}{8\pi G} g_{\mu\nu} }}\right)$$

したがって,宇宙定数の寄与をエネルギー密度 \(\rho_{\Lambda}\),圧力 \(P_{\Lambda}\) の完全流体とみなすと
$$(\rho_{\Lambda} + P_{\Lambda}) u_{\mu} u_{\nu} + P_{\Lambda} g_{\mu\nu} = – \frac{\Lambda}{8\pi G} g_{\mu\nu}$$より
$$P_{\Lambda} = – \frac{\Lambda}{8\pi G}, \ \ \rho_{\Lambda}  = \frac{\Lambda}{8\pi G}$$

この寄与をアインシュタイン方程式の右辺に加えればよい。したがって,

$$\frac{\ddot{a}}{a} = -\frac{4\pi G}{3} \rho {\color{red}{+ \frac{\Lambda}{3}}} \tag{B”}$$
$$\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{k}{a^2} = \frac{8\pi G}{3} \rho {\color{red}{+ \frac{\Lambda}{3}}} \tag{C’}$$

参考:コンピュータ代数システムを使ってフリードマン方程式を求める

… ということで,アインシュタイン方程式の \(3+1\) 分解を活用して人力でフリードマン方程式を求める例を段階を追って説明してきたわけだが,参考までに,コンピュータ代数システムを使って計算する例を以下のページにまとめておいた。

まとめ:FLRW の定義

FLRW の定義とは何か,どんな条件を課したら FLRW になるのか,という問題について,くどくどと説明してきたが,結局,一言でまとめると

同期化された共動座標系で
$$\dot{g}_{ij} \propto g_{ij}$$であるような時空は FLRW 時空である

ということになる。


ちなみに,この定義は以下のような(私が思うに,もっとも一般的な言い回しであると思われる)以下の定義を私なりに少し単純化し,具体的な状況を設定して説明したものになっている。(かえってわかりにくくなってたら,ごめんなさい。)

The following set of properties is a necessary and sufficient condition for a space-time to be FLRW:

      1. The metric obeys the Einstein equations with a perfect fluid source.
      2. The velocity field of the perfect fluid source has zero rotation, shear and acceleration.

(“Inhomogeneous Cosmological Models” by A. Krasinski より引用)


以下は概要説明。

FLRW とは,宇宙空間を満たす完全流体の4元速度 \(u^{\mu}\) について

\begin{eqnarray}
u_{\mu ;\nu} &\equiv& a_{\mu} u_{\nu} +   u_{(\mu ;\nu)} + u_{[\mu ;\nu]} \\
&=& a_{\mu} u_{\nu} + \frac{\theta}{3}  (g_{\mu\nu} + u_{\mu} u_{\nu}) + \sigma_{\mu\nu} + \omega_{\mu\nu}
\end{eqnarray}
としたときに,

  • acceleration \(a_{\mu} = 0\)
  • shear \(\sigma_{\mu\nu} = 0, \ \ (\sigma_{\mu\nu} = \sigma_{\nu\mu}, \ \ \sigma^{\mu}_{\ \ \mu} = 0)\)
  • vorticity \(\omega_{\mu\nu} = 0, \ \ (\omega_{\mu\nu} = – \omega_{\nu\mu})\)

であり,expansion \(\theta = u^{\mu}_{\ \  ;\mu}\) のみが存在する時空のことである。

この定義から何が言えるかというと,

  1. まず acceleration がゼロということで \(u^{\mu}\) は測地線方程式に従う。
    • 私の上記の記述では簡単のためダスト流体にしたので \(u^{\mu}\) は測地線方程式に従った。
    • 輻射流体のように圧力がある場合は,測地線になるためには圧力勾配がゼロである必要があり,ここから圧力の一様性が導かれ,状態方程式からエネルギー密度の一様性も導かれる。
  2. 次に vorticity がゼロということで \(u^{\mu}\) は3次元超曲面の法線ベクトルとすることができる。
  3. 上記2つから,同期化された共動座標系をとれる。
  4. expansion のみが存在するということから extrinsic curvature \(K^i_{\ \ j}\) も3次元リッチテンソルもクロネッカーのデルタに比例することになる。
  5. アインシュタイン方程式から \(g_{ij} = a^2(t) \gamma_{ij}\) と書けて
    $$K^i_{\ \ j} = \frac{\dot{a}}{a} \delta^i_{\ \ j}$$となる。
  6. 最終的に \(\gamma_{ij}\) で記述される3次元空間が定曲率空間になり,曲率定数 \(k\) を使って
    $${}^{(3)}\! R^{i}_{\ \  j} = 2 k \delta^i_{\ j} $$と書ける。
    このような3次元定曲率空間は,一様等方空間と言ったりまた maximally symmetric space などと言ったりする。

まぁ,だいたいこのような順番かと。