作:新美南吉、絵:どいかや『手ぶくろを買いに』あすなろ書房

作:新美南吉、絵:どいかや『手ぶくろを買いに』あすなろ書房

 

 

はじめて雪を目にしたきつねの子は、朝目をさますと「あっ」とさけんで母さんぎつねに駆け寄ります。「かあちゃん、目になにかささった、ぬいてちょうだい、早く早く。」母さんぎつねはびっくりしますが、外の出て分かりました。夜のうちに雪がどっさり降って、その上からおひさまがキラキラしていたので、雪がまぶしく反射していたのです。

 

はじめての雪に喜ぶ子ぎつね。早速遊びに出かけます。ところが帰ってくると、手が冷たいことに気づきました。「おかあちゃん、おててがつめたい、おててがちんちんする。」母さんぎつねは、夜になったら町に行って、ぼうやに似合うような毛糸の手ぶくろを買ってやろうと思いました。

ところが、母さんぎつねは以前お百姓の家のあひるを盗もうとして、見つかって、命からがら逃げてきたことを思い出し、どうしても町の方に足を進めることができません。しかたなく、子ぎつねを1人で町まで行かせることになりました。

 

心配する母さんぎつね、町で人のやさしさに触れた子ぎつね――

 

新美南吉の『手ぶくろを買いに』が、どいかやによるあたたかな挿絵で素敵な絵本になりました。

白と黒のモノクロームを基調とした夜の雪景色に、淡くやさしい色が温かみを添えています。

いつ読んでも切なくなる冬の絵本。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

きくちちき『とらのことらこ』小学館

作・絵:きくちちき『とらのことらこ』小学館

 

 

とらの子のとらこが成長していく様子がとにかくかわいい!

はじめはおかあさんのうしろでおそるおそるまわりを見ていたとらこ。

ちょうちょをつかまえることもできなかったとらこ。

それでもあるとき、ようやく・・・!!!

でもやっぱり最後につかまえるのは——

 

きくちちきの筆が自由奔放なようでいてコントロールされています。少し薄い墨で描かれた輪郭線とみずみずしく広がる水彩絵具の色・色・色。黄色の装丁も効果的です。

とらこの姿は、かわいらしい一方で、長沢蘆雪の《虎図》をも彷彿とさせます。

 

※この投稿の図版は出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

作:安房直子、絵:降矢なな『ひめねずみとガラスのストーブ』小学館

作:安房直子、絵:降矢なな『ひめねずみとガラスのストーブ』小学館

 

 

遅ればせながら、今年は子年ということで――

 

風の子フーとひめねずみのお話です。

暗い冬の空のもと、風の子フーは「さむさむさむ・・・・・・」と震えています。なにかあたたかくなるものはないかな、と探していたところ、目にとまったのは家の窓からチラッとのぞいたオレンジ色の炎でした。ストーブです。次の日、「くまストーブ店」にやってきたフーは、たくさんのストーブの中から、ガラスでできた美しいストーブを選んで買いました。そのストーブは、もようのついたあついガラスでできていて、ともされた火が外がわからわずかに見えるようになっています。

フーはストーブをぶらさげて、暗い森の中に入ると、黄色い油をストーブに入れて、マッチをすりました。その火はストーブにぼあっとうつりました。フーはしずかに燃えるストーブにあたりながら眠ってしまいます。

 

すると、カサリ!という音がして、風の子ははっと目をさましました。ストーブの向こうにいたのは、小さくて足の短いひめねずみでした。ひめねずみも寒かったのです。「さむいんなら、少しあたっていってもいいよ」とフーはひめねずみにすすめます。二人は話し出しました。するとひめねずみは、ストーブにやかんをかければお茶がのめること、そしておなべをかければごちそうが作れることを提案します。やっと友達ができたフー。それから、フーとひめねずみはいっしょに暮らしはじめました。

 

いく日かすぎた頃、お客さんが空からやってきます。それはオーロラという名前の風の子でした。彼女は遠い日のくれない国からやってきたと言います。オーロラの話を聞きながら、「日のくれない国」に好奇心を抱いていくフー。

フーとひめねずみの暮らしに変化の時がやってきます。

 

フーは長い旅の果てにふたたび森に戻ります。すっかり大人になったフー。森のストーブとひめねずみはどのようになっていたのでしょうか。――大人になることが少し切なくなる、静かに染みていくお話です。

 

降矢ななによる挿絵が、物語の包み込むようなあたたかさと、そして一抹の寂しさとを、美しく繊細に描き出しています。はっとするような美しい色彩が、ページ毎に目の前に広がります。

 

※この投稿の画像は、出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

文:松居直、画:赤羽末吉『ももたろう』福音館書店

文:松居直、画:赤羽末吉『ももたろう』福音館書店

 

日本の昔話と言えば『ももたろう』を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

桃から生まれた桃太郎が、元気に大きくなって、犬と猿と雉をお供に、お姫様をさらった鬼を退治しに鬼が島へーいつから知っていたのか覚えていないくらいよく知っているはずの物語。改めて読んでみてもやはり面白いと思います。

つんぶく かんぶく つんぶく かんぶく 流れてくる桃、
あっちゃむらで 米をとり、こっちゃむらで 塩をとった鬼、
言葉のひびきやリズミカルな並びも心地よく、楽しく感じます。

 

どのページにも美しい挿絵が付されています。赤羽末吉の挿絵の中でも際立って色彩が鮮やかな絵本です!キラキラとまぶしい黄色、深く赤味がかった紺色、じんわりとさしこんでくる朱赤、ページの上下にひかれた淡くやわらかい曙色や緑色。昔話絵本の色彩のイメージが覆されるようです。

 

※この投稿の画像は、出版社が一般に掲載を許可している範囲内のものです。無断転載はご遠慮ください。

 

『ちょうじゅうぎが こどもびじゅつえほん』便利堂

『ちょうじゅうぎが こどもびじゅつえほん』便利堂

 

国宝の《鳥獣戯画》が幼児向け絵本になっています。平安時代のモノクロームの墨線で描かれた動物たちはユニークで、ほんとうに生き生きしています。楽しい絵にやさしいお話がつきました。

 

『ちょうじゅうぎが こどもびじゅつえほん』便利堂

うさぎがおさるのおぼうさんに、おそなえものをしています。おそなえものにされているのは、はたして?

文字のない《鳥獣戯画》。実際にはどのような会話が想定されていたのでしょうか?
ストーリーを想像するのも絵を見る楽しみの一つ。

 

※この投稿の画像は出版社の許可を得て掲載しているものです。無断転載はご遠慮ください。

 

再話:おざわとしお、画:赤羽末吉『かちかちやま』福音館書店

再話:おざわとしお、画:赤羽末吉『かちかちやま』福音館書店

 

おなじみの「かちかちやま」。印象に残るのは機知に富んだ兎の行動で、さわやかな読後感すらあるような気がします。

表情豊かな動物の動きがユーモラスで目が離せない一方、昔日の日本の美しい風景描写にため息が出ます。鎌倉や室町時代の絵巻物にあるような遠景から捉えられた野山の描写、鳥獣戯画を連想させる動物たちーとはいえ、絵本ならではの勢いのある躍動感が魅力でもあります。ここでもまた、赤羽末吉の筆が冴えています。

 

※この投稿の画像は、出版社が一般に許可している範囲内のものです。無断転載はご遠慮ください。

 

演奏者紹介:宮本香織さん(ピアニスト)

「0歳から大人まで みんなのコンサート」出演のピアニストを紹介いたします。

宮本香織(みやもと・かおり)

青森高等学校卒業。お茶の水女子大学芸術・表現行動学科卒業、同大学大学院修了。

浅野清氏、小坂圭太氏他に師事。2007年ウィーン国立音楽大学夏季セミナー、2017年フランス・スコラカントゥルム教授ビリー・エイディ氏特別レッスンにてディプロマ取得。

これまでにピティナ・ピアノコンペティション全国大会、東北青少年音楽コンクール本選等で入賞。青森県立美術館アレコホール他でリサイタルを開催。東京・青森・弘前でジョイントコンサートに多数出演し、文化庁支援芸術体験事業にて学校訪問演奏等の活動も行う。

お茶の水女子大研究補佐を経て、現在、弘前大学教育学部非常勤講師。東北青少年音楽コンクール優秀指導者賞、グレンツェンピアノコンクール指導者賞受賞。全日本ピアノ指導者協会会員。

 

独唱や合唱とのアンサンブルピアニスト、またソリストとして活発な活動を展開。美しい音色と、とりわけフランスやイタリアの近代の作品の解釈に定評があります。
一方で音楽教室では、小さなお子さんから大人の方まで幅広い層の生徒さんを指導し、丁寧なレッスンと優しい人柄で愛される先生でもあります。
弘前大学ではソルフェージュとピアノのレッスンを担当。日本を代表する音楽家のひとり、近藤譲氏から学んだソルフェージュ指導を活かし、未来の音楽教師を鍛えています。

今回の「みんなのコンサート」のために、リスト《ラ・マルセイエーズ》を新たにレパートリーとして開拓してくれました。ベートーヴェン《「ゴッド・セイブ・ザ・キング」による変奏曲》は、かつて、試験曲として練習していたとか。クライスラー作曲ラフマニノフ編曲の《愛の哀しみ》と、ショパンのマズルカ op. 7, no. 1は、コンサートに華を添える曲として宮本さん自ら選曲。ソロ・コンサートとしてたいへん豪華なプログラムになりました。

素敵な演奏会となること請け合いです。ぜひご期待下さい!

 

作・絵:きくちちき『しろねこくろねこ』学研(Gakken)

 

作・絵:きくちちき『しろねこくろねこ』学研(Gakken)

 

お互いを好きなしろねことくろねこの物語。くろねこの切ない気持ちとしろねこのやさしい一言。心に残る絵本。

墨による表現の可能性があますところなく示されています。モノクロームの世界に所々配された色。そして突然に視界に入り込んでくる溢れるような色彩!

丁寧に作られた装丁までもが美しい一冊です。

 

※この投稿の画像は出版社の許可を得て掲載しているものです。

 

文:大川悦生、絵:赤羽末吉『きんいろのきつね』ポプラ社

文:大川悦生、絵:赤羽末吉『きんいろのきつね』ポプラ社

 

狐にまつわるお話にもいろいろなタイプがありますがースケールの大きな化けぎつねのお話です。
平安時代の末頃、みかどにお仕えする女たちのなかに、「たまものまえ」というきれいな姫さまがいました。とてもきれいなので、みかどにたいそう可愛がられていました。ところが、この姫さまに会うたびにみかどは体の調子が悪くなるのです。都で一番の占い師あべのやすなりが調べてみると、なんとこの姫さまの正体は、猛々しい「きんいろのきつね」でした。

この狐、はるか昔、天と地が分かれたばかりの頃に生まれた女狐で、らんらんと照り輝く目、ふっさりと長い金色の毛、九つにさけた長い尾をもち、子牛くらいの大きさで、怪しげな術を使うことができるのでした。

地上で人間の国が栄えるようになると、美しいお妃になりすましたり、お妃の一人に取り憑いたりして、なんと古代中国の殷や周の国を滅亡へと至らしめます。インドの摩掲陀国では、王子の妃になりすまして、子どもをさらっては食べてしまっていました。
そんな狐が、今度は海を渡って 日本にやってきたのです。

さて、正体が判明されてしまった「きんいろのきつね」は東国の那須野が原に逃げ延びます。そののち、そこでは農民たちが何人も姿をくらましていきました。これがあの狐の仕業であるこてがわかり・・・この後、広大な那須野が原で繰り広げられるなすの八郎率いる東国の強者たちと狐の戦いは、壮大で圧巻です。

那須野が原の殺生石にまつわるお話です。

 

数々の日本の民話に見応えある挿絵を描いてきた赤羽末吉の筆による絵画。

繊細な墨線が迷いなく引かれた輪郭線。大胆で美しい色彩。広大な構図。ページをめくるごとに完成された絵画が現れます。物語と絵画のスケールが見事に調和しています。

 

※この投稿の画像は出版社から掲載の許諾を得ているものです。

 

作:安野光雅『かげぼうし』冨山房

作 安野光雅『かげほうし』冨山房

 

ひどい雪の降る寒い町に、マッチ売りの女の子が出てきました。ーおなじみの『マッチ売りの少女』のおはなしが、この絵本を通すと違った印象になっていきます。

野原のずっとずっと向こうには、ひみつのくにがありました。そこは「かげぼうし」の国でした。冬になって、太陽の出る日が少なくなると、暇になったかげぼうしたちが、世界のあちこちから帰ってきてお祭り騒ぎになります。そんな「かげぼうし」の国にたった一人、この国を自由に行き来できる人間がいました。見張り番でした。遠眼鏡で遠くを見張り、太陽が出そうになると鐘を鳴らして知らせるのが彼の仕事でした。そんな見張り番が姿を消して、「かげぼうし」の国では大騒ぎー

その頃、マッチ売りの女の子の前に、「げんきをおだし」と見知らぬ男が現れます。この男がマッチ箱を一箱買って、マッチに火をつけると、雪の上に二人のかげぼうしができました。ー

かげぼうしの国とマッチ売りの少女の雪降る町、二つの世界がつながっていきます。

 

※この投稿の写真は出版社の許可をとって掲載しています。