再話:エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル、訳:おびかゆうこ、絵:こみねゆら『もみの木のねがい』福音館書店

再話:エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル、訳:おびかゆうこ、絵:こみねゆら『もみの木のねがい』福音館書店

 

大きな森にたつ小さなもみの木は、自分の葉っぱが針みたいにちくちく尖っていることが悲しくて大粒の涙をこぼします。そこに妖精が現れて、もみの木の願いを聞き出します。「わたしがねがいをかなえてあげるわ!」と言うと、妖精ははねをふるわせながら、「フルフル、パパンッ!」と手をたたきました。するともみの木の葉っぱはみるみるうちにやわらかくなって・・・。

 

もみの木は妖精の力で何度かその葉っぱを変えていくのですが、そのたびに、葉っぱは食べらてしまったり、摘みとられてしまったり。そうしてもみの木は、ちくちくする自分の葉っぱがどんなによいものだったかということに気づくのでした。そんなもみの木に、妖精は最後の魔法をかけて、その姿をもとに戻します。

 

クリスマスが近づくなか、ちくちくとがった固い葉っぱに覆われたもみの木は、その後――

 

こみねゆらの繊細でやさしい挿絵が、やわらかく暖かい読後感をもらします。

文:パトリシア・トート、絵:ジャーヴィス、訳:なかがわちひろ『クリスマスツリーをかざろう』BL出版

文:パトリシア・トート、絵:ジャーヴィス、訳:なかがわちひろ『クリスマスツリーをかざろう』BL出版

 

本物のもみの木をクリスマスツリーにして飾る習慣のある地域では、もみの木選びが最初の作業となります。

 

家族でもみの木市に出かけて、ツリーを選んで、親しい友人とともに飾りつけをしていく楽しさが、色鮮やかな挿絵で描かれていきます。飾りつけが終わった後のページを開いた時に、とつぜん目の前に現れるあかりの灯された大きなツリーの美しさには、目を見張る驚きが隠されています!

 

ジャーヴィスの筆によるイルミネーションきらめく明るい街の雪景色がクリスマスシーズンの明るい気分を盛り立てます。

作:tupera tupera『さんかくサンタ』絵本館

作:tupera tupera『さんかくサンタ』絵本館

 

いろいろな紙をシンプルな形に切って、並べて、組み合わせてみると――

「さんかくサンタ」のクリスマスプレゼントに、キラキラと飾られた素敵なクリスマスツリー

 

クリスマス前のワクワクしてくる高揚感が、明るい色彩とシンプルな形のうちに満ち満ちています。絵具やクレヨンで色づけられた紙の表情も楽しい。

単純な形のもつ多様な造形表現の可能性に改めて気づかされる、おしゃれな絵本です。

作・絵:菊地清『サンタのおまじない』冨山房

作・絵:菊地清『サンタのおまじない』冨山房

 

 

クリスマスイブにけんちゃんがもらったのは、なんと箱に詰められた野菜でした!

「ぼくのきらいなやさいばっかりだ」とがっかりするけんちゃんでしたが、箱の中に入った手紙をみつけます。そこには、ひとつずつ手にとって、「いち にい サンタ!」のおまじないを言ってと書いてありました。

 

「おもしろそう」と思ったけんちゃんが、苦手なピーマンを手にとって「いち にい サンタ!」のおもじないをとなえると・・・ピーマンがクリスマスツリーに大変身!!!

 

クリスマスの楽しい気分が素直に伝わってきます。

切り絵の真髄を伝える絵本です。

文:石井睦美、絵:せなけいこ、原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン『もみの木』株式会社KADOKAWA

文:石井睦美、絵:せなけいこ、原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン『もみの木』株式会社KADOKAWA

 

 

はやく大きくなりたかった「もみの木」は、次々ときりたおされては持って行かれる仲間のもみの木たちがうらやましくてたまりません。もう大分大きくなった頃、「もみの木」は仲間たちの行方をすずめに尋ねます。するとすずめは、部屋の中で金のリンゴやおもちゃやろうそくで飾られているもみの木の様子を教えてくれました。それを聞いた「もみの木」は、広い森のなかにいる幸せを説いて聞かせるおひさまの言うことも耳に入らず、自分にもそんなことが起きないかなぁ、とうらやましがります。

 

その年の冬、「もみの木」はついに切られることになりました。

そうして、りっぱなクリスマスツリーになった「もみの木」ですが・・・。

 

「もみの木」の立場からとらえた本当の幸せとは何か――クリスマスの賑わいをよそに、他者の存在について問いかける、重厚な物語です。

 

せなけいこのあたたかな色調の切り絵と紙のやわらかな質感が、切なくもやさしい余韻を伝えます。

 

 

文:石井睦美、絵:せなけいこ、原作:サカリアス・トペリウス『星のひとみ』株式会社KADOKAWA

文:石井睦美、絵:せなけいこ、原作:サカリアス・トペリウス『星のひとみ』株式会社KADOKAWA

 

 

遠いフィンランドのお話です。

 

クリスマスの前の晩、トナカイのひく二つのそりが雪原を走っていきます。

そりにはサーミ人の家族が乗っていました。きれいでしずかな夜でした。

 

――そんな彼らをオオカミの群れが追いかけてきました。

急いで逃げていくなか、母親の腕に抱かれていた女の子の赤ちゃんが雪の上に放り出されてしまいます。オオカミたちが赤ちゃんを囲みます。ところが、赤ちゃんに見つめられたオオカミたちは、何もしようとはせず、ふたたびトナカイのひくそりを追いかけていくのでした。

 

その後赤ちゃんは通りかかったフィンランド人の農夫に拾われます。農夫の家族が赤ちゃんを教会に連れて行くと、ぼくしさんはこの子に「星のひとみ」という名前をつけました。

実際、この子のひとみには不思議な力があったのです。――

 

「おばけシリーズ」や「めがねうさぎシリーズ」で人気のせなけいこによる切り絵が繊細な絵本。

静かな雪原、暖かく賑やかな家族の様子、見る者を惹きつけてやまない「星のひとみ」の印象的なまなざし。切り絵という手法がこんなにも表情豊かであることに驚きます。時に冷たく、残酷にも見える彼女の視線は、この物語の底流に垣間見える人間の愚かさや非情さ、そして非力さをうったえる力を持っています。

文:ケイト・メスナー、絵:クリストファー・サイラス・ニール、訳:小梨直『ゆきのうえゆきのした』福音館書店

文:ケイト・メスナー、絵:クリストファー・サイラス・ニール、訳:小梨直『ゆきのうえゆきのした』福音館書店

 

 

雪が積もった森をスキーで進んで行くとき、雪の下では動物たちがそれぞれの冬を過ごしいる――

お父さんが女の子に教えます。

 

「ゆきのうえ」の森の景色と「ゆきのした」の動物たちの世界が、単純ながらも洗練されたフォルムでいきいきと描き出されています。

 

冬が楽しみになる一冊。

作:マリオン・デーン・バウアー、絵:リチャード・ジョーンズ、訳:横山和江『キツネのはじめてのふゆ』すずき出版

作:マリオン・デーン・バウアー作、絵:リチャード・ジョーンズ、訳:横山和江 『キツネのはじめてのふゆ』すずき出版

 

 

 

雪がひとひら降ってきました。

森ではじめての冬をむかえた子ぎつねに、仲間たちはこの季節の過ごし方を教えます。

ところがどの過ごし方も子ぎつねにはあまり合っていないようです。

そうして、はらはらと落ちる雪の上に寝そべって考える子ぎつねの前に現れたのは――

 

静かに雪が積もっていく森の様子とそこに暮らす動物たちがやさしい。

そして子ぎつねの表情が愛らしく微笑ましい。ほっとする絵本です。

 

コラージュではありませんが、樹々や草葉、動物たちの描写には切り絵のヒントがたくさん詰まっています。

 

文・絵:レオ=レオニ、訳:谷川俊太郎『アレクサンダとぜんまいねずみ』好学社

文・絵:レオ=レオニ、訳:谷川俊太郎『アレクサンダとぜんまいねずみ』好学社

 

 

ある日、ねずみのアレクサンダは、人間にかわいがられて過ごすぜんまいねずみに出会います。「自分はいつも追いはらわれてばかりなのに」と落ち込むアレクサンダに、ぜんまいねずみは、庭のこみちのはしのしげみに生き物をほかの生き物に変えることのできる魔法のとかげが住んでいることを伝えます。アレクサンダはさっそくとかげに会いにでかけていきます。一方、ぜんまいねずみの運命は、新しいおもちゃのせいで大きく変わろうとしていました。・・・

 

レオ・レオニがさまざまな色、柄、素材の紙を用いて描いたページの一枚一枚は、ときに明るく活気にあふれ、ときに繊細で美しく、またときにキュビスムのパピエ・コレの手法を思わせる大胆さを併せ持っています。――コラージュ表現のさまざまな魅力が詰まった絵本です。

 

作:方軼羣、画:村山知義『しんせつなともだち』福音館書店

作:方軼羣、訳:君島久子、画:村山知義『しんせつなともだち』福音館書店

 

あたり一面が雪でまっ白な中、食べ物を探して外にでたこうさぎは、かぶを二つみつけます。

こうさぎはかぶを一つ食べ、もう一つはお腹を空かせているにちがいないろばさんにあげようと、友達のろばさんのもとに向かいます。ところがろばさんは外出中。こうさぎはろばさんの家にかぶを置いて帰りました。さてこのかぶは、友達から友達へと贈られていき・・・「しんせつなともだち」たちの思いやりが、暖かい読後感をもたらしてくれます。

 

挿絵はコラージュによるものではありませんが、この挿絵を担当した村山知義は1922年にドイツに滞在し、当時ヨーロッパ美術を牽引していたさまざまな運動の一つであるドイツ表現主義に接触しました。その折に、廃物などによるコラージュ作品(「メルツ絵画」)を手がけていた美術家クルト・シュヴィッタースに出会い、自身もいくつかのコラージュ作品を残しています。帰国後は前衛芸術家としてとくに演劇方面で活躍したほか、子供向け冊子の挿絵を手がけたりもしました。繊細なタッチで仕上げられた水彩による挿絵ながら、雪をかぶった野原や木々、そしてこうさぎのコートなどに見られるやや単純化されたフォルムの扱いのうちに、あるいはまた鮮やかな色調の対比のうちに、20世紀前半のモダニズムアートの雰囲気が漂います。