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一般相対論的なケプラーの法則

一般相対論的な重力場であるシュバルツシルト時空中の天体の運動について調べ,ニュートン理論におけるケプラーの法則がどのような修正を受けるかを示す。


ニュートン理論におけるケプラーの法則のおさらい

ニュートン理論におけるケプラーの法則については,以下のページにまとめている。

ケプラーの第0法則

惑星の運動は太陽を通る平面上に限られる。このことをケプラーは明言していないが,この,いわば第ゼロ法則というものが第1法則以降を述べる際にあらかじめ仮定されている。

ニュートン理論においては,(単位質量あたりの)角運動量ベクトル

$$\boldsymbol{\ell} \equiv \boldsymbol{r} \times \frac{d\boldsymbol{r}}{dt}$$

が一定であることから,運動が $\boldsymbol{\ell} $ に垂直な平面上に限られることが示される。以後 $\boldsymbol{\ell}$ を $z$ 軸の向きにとり,この平面を $xy$ 平面とか赤道面とかいったりする。

ケプラーの第1法則

惑星は太陽を焦点のひとつとする楕円軌道上を運動する。運動は $xy$ 平面上に限られることから,太陽の位置である焦点を原点とした極座標で惑星の位置 $(r, \phi)$ をあらわすと

$$r = \frac{a(1-e^2)}{1 + e \cos\phi}$$

ここで $a$ は楕円の軌道長半径,$e$ は離心率。

$r$ の最小値である近点距離 $r_{\rm min}$ と最大値である遠点距離 $r_{\rm max}$ は以下のように書かれる:

\begin{eqnarray}
r_{\rm min} &=& a (1 -e) \\
r_{\rm max} &=& a (1 + e)
\end{eqnarray}

逆に,$a$ および $e$ は

\begin{eqnarray}
a &\equiv& \frac{r_{\rm max} + r_{\rm min}}{2} \\
e &\equiv& \frac{r_{\rm max} -r_{\rm min}}{r_{\rm max} + r_{\rm min}}
\end{eqnarray}

ケプラーの第2法則

(1つの惑星に着目すると)面積速度は一定である。このことは,第ゼロ法則において

$$\boldsymbol{\ell} \Rightarrow (0, 0, \ell)$$

としているので,

\begin{eqnarray}
\left( \boldsymbol{r} \times \frac{d\boldsymbol{r}}{dt}\right)_z &=& x \frac{dy}{dt} -y \frac{dx}{dt} \\
&=& r^2 \frac{d\phi}{dt} = \ell
\end{eqnarray}

極座標であらわした領域 $D: 0 \leq r \leq r(\phi) , 0 \leq \phi \leq 2 \pi$ の面積 $S$ が

\begin{eqnarray}
S &=& \iint_D dx\, dy \\
&=& \iint_D \, r dr\, d\phi \\
&=& \int_0^{2 \pi} d\phi\ \int_0^{r(\phi)} r \, dr \\
&=& \int_0^{2 \pi} \frac{1}{2} r^2(\phi) \ d\phi \\
&\equiv& \int_0^{2 \pi} dS
\end{eqnarray}

であるから,微小面積要素 $\displaystyle dS \equiv \frac{1}{2} r^2 \, d\phi$ を使って角運動量保存則をあらわすと

\begin{eqnarray}
r^2 \frac{d\phi}{dt} &=& \ell \\
\therefore\ \ 2 \frac{dS}{dt} &=& \ell
\end{eqnarray}

となるので,$\displaystyle \frac{dS}{dt}$ を面積速度(単位時間あたりの面積の変化)とし,面積速度一定と呼んでいる。これはつまりは角運動量保存則そのもののことである。

なお,極座標のときの微小面積要素については,2年生でやっている。以下のページ:

ケプラーの第3法則

(軌道長半径 $a$ や公転周期 $T$ は惑星ごとに異なるが)軌道長半径の三乗 $a^3$ は公転周期の二乗 $T^2$ に比例する。言い換えれば,軌道長半径の三乗と公転周期の二乗の比 $\displaystyle \frac{a^3}{T^2}$ は惑星によらず一定である。

このことは第2法則に $\ell = \sqrt{GM a (1-e^2)}$ を代入して(なぜそうなるかは「参考:ニュートン力学における万有引力の2体問題」を参照)両辺を1周期($0 \leq t \leq T$)積分すると

\begin{eqnarray}
2 \frac{dS}{dt} &=& \ell = \sqrt{GM a (1-e^2)} \\
2 \int dS &=& \sqrt{GM a (1-e^2)} \int_0^T\, dt \\
2 S = 2 \pi a^2 \sqrt{1-e^2} &=& \sqrt{GM a (1-e^2)}\ T \\
4 \pi^2 a^4 (1 -e^2) &=& G M a (1 -e^2)\ T^2 \\
\therefore\ \ \frac{a^3}{T^2} &=& \frac{GM}{4 \pi^2} = \mbox{const.}
\end{eqnarray}

となることから示される。

一般相対論的な天体の運動

シュバルツシルト時空中の天体の運動をまとめると以下のようになる。

一般相対論的なケプラーの第0法則

シュバルツシルト時空中の天体の運動は,原点を通る平面上に限られる。このことは「シュバルツシルト時空中の粒子(観測者)の運動」において,「球対称性により一般性を失うことなく赤道面上に運動を制限できる」という標語で説明している。

一般相対論的なケプラーの第1法則

天体の運動は,一般に閉じた楕円軌道とはならない。測地線方程式は厳密には解くことができないが,軌道のいたるところで重力がそれほど強くない(言い換えると,軌道の動径座標 $r$ は重力半径 $r_g$ に比べて十分大きい)として重力半径 $r_g$ の1次までの近似解は以下のようになる。

$$r = \frac{a(1-e^2)} {1 + e\cos (\gamma \phi)} \left\{ 1 -\frac{{\color{red}{r_g e^2}}}{2 a (1-e^2)} \frac{\sin^2 ({\color{black}{\gamma}} \phi)}{1+e\cos(\gamma\phi)}\right\}$$

ここで,

$$\gamma \equiv \sqrt{1 -\frac{3 r_g}{a(1-e^2)}} \simeq 1 -\frac{3 r_g}{2a(1-e^2)}$$

ともすれば言及されない ${\color{red}{r_g e^2}}$ の項まで真面目に求めたのが我々のこだわりで,以下のページにまとめている。

なお,軌道はもはや閉じた楕円軌道ではないので,「軌道長半径」や「離心率」という言葉は意味を成さないが,一般相対論的軌道の場合でも有界な軌道であれば $r_{\rm min} \leq r \leq r_{\rm max}$ であるので,$a$ と $e$ は以下の式で定義することができる:

\begin{eqnarray}
a &\equiv& \frac{r_{\rm max} + r_{\rm min}}{2} \\
e &\equiv& \frac{r_{\rm max} -r_{\rm min}}{r_{\rm max} + r_{\rm min}}
\end{eqnarray}

一般相対論的なケプラーの第2法則

ニュートン理論において,ケプラーの第2法則とは角運動量保存則のことであった。一般相対論においても同様のことが成り立つ。(一般相対論においては閉じた楕円軌道とはならないため,「面積」という意味づけはない。)

$$r^2 \frac{d\phi}{d\tau} = \mbox{const.} \equiv \ell$$

また,

$$\frac{dt}{d\tau} = \frac{\epsilon}{1 – \frac{r_g}{r}}$$

を使って,固有時間 $\tau$ の微分ではなく座標時間 $t$ (これは十分遠方の観測者の時間といってもよい)の微分であらわすと

$$\frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} \frac{d\phi}{dt} = \frac{\ell}{\epsilon}$$

このへんの事情や $\ell, \epsilon$ の具体的な表示については以下のページにまとめている。

一般相対論的なケプラーの第3法則

ニュートン理論と同様にケプラーの第2法則の両辺を1周期分,積分するのであるが,一般相対論では軌道が閉じた楕円軌道とならないため,どこからどこまでを1周期とするか,定義しておく必要がある。

ここでは,$x \equiv \gamma\,\phi$ とすると,

$$r = \frac{a(1-e^2)} {1 + e\cos x} \left\{ 1 -\frac{{\color{black}{r_g e^2}}}{2 a (1-e^2)} \frac{\sin^2 x}{1+e\cos x}\right\}$$

であるから,$t = 0$ のとき $x = 0$ で最小値 $r=r_{\rm min}$ をとる $r$ が $x = 2 \pi$ で再び最小値になるまでの経過座標時間(遠方観測者の経過時間)$t = T$ を「周期」とする。

すると,

\begin{eqnarray}
\frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} \frac{d\phi}{dt} &=& \frac{\ell}{\epsilon} \\
\therefore\ \ \frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} \frac{dx}{dt} &=& \gamma \frac{\ell}{\epsilon} \\
\therefore\ \ \int_0^{2 \pi} \frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} \, dx &=& \gamma \frac{\ell}{\epsilon}\, \int_0^T\, dt = \gamma \frac{\ell}{\epsilon}\, T
\end{eqnarray}

まず,右辺を $r_g$ の1次までの近似で求めると(「弱重力場中の粒子の軌道の近似解:近点移動」参照)

\begin{eqnarray}
\epsilon &\simeq& \sqrt{1 -\frac{r_g}{2 a}} \\
&\simeq& 1  -\frac{r_g}{4 a} \\
\ell &\simeq& \sqrt{G M a (1 -e^2)} \sqrt{1 + \frac{3 +e^2}{2 a (1 -e^2)} r_g} \\
&\simeq& \sqrt{G M a (1 -e^2)} \left(1 + \frac{3 +e^2}{4 a (1 -e^2)} r_g\right) \\
\therefore\ \ \gamma \frac{\ell}{\epsilon}\, T &\simeq& T \,
\left( 1 -\frac{3 r_g}{2a(1-e^2)}\right) \sqrt{G M a (1 -e^2)} \left(1 + \frac{3 +e^2}{4 a (1 -e^2)} r_g\right) \left(1  + \frac{r_g}{4 a}\right) \\
&\simeq&T\, \sqrt{G M a (1 -e^2)} \,\left( 1 – \frac{r_g}{2 a (1 -e^2)}\right)
\end{eqnarray}

次に,左辺の被積分関数を同じく$r_g$ の1次までの近似で求めると

\begin{eqnarray}
\frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} &\simeq& r^2 + r_g r \\
&\simeq& \frac{a^2 (1-e^2)^2} {(1 + e\cos x)^2 } \left\{ 1 -\frac{{\color{black}{r_g e^2}}}{a (1-e^2)} \frac{\sin^2 x}{1+e\cos x}\right\} + \frac{a(1-e^2)} {1 + e\cos x} r_g \\
&=& a^2 (1-e^2)^2 \frac{1} {(1 + e\cos x)^2 } \\
&& \quad -a (1 -e^2) e^2 r_g \frac{\sin^2 x}{(1 + e\cos x)^3} \\
&& \quad + a (1 -e^2) r_g \frac{1}{1 + e\cos x}
\end{eqnarray}

積分については「真近点離角と離心近点離角との関係についてもう少し」の例 1. ~ 3. にまとめているので,あらためて書き写すと,

\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{(1 + e \cos x)^2}\,dx &=& \frac{2 \pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \\
\int_0^{2 \pi} \frac{\sin^2 x}{(1 + e \cos x)^3} \,dx &=& \frac{\pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \\
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 + e \cos x}\,dx &=& \frac{2 \pi}{\sqrt{1 -e^2}}
\end{eqnarray}

したがって

\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{r^2}{1 -\frac{r_g}{r}} \, dx
&=& a^2 (1-e^2)^2 \int_0^{2 \pi}\frac{1} {(1 + e\cos x)^2 } \, dx \\
&& \quad -a (1 -e^2) e^2 r_g \int_0^{2 \pi} \frac{\sin^2 x}{(1 + e\cos x)^3} \, dx \\
&& \quad + a (1 -e^2) r_g \int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 + e\cos x} \, dx \\
&=& a^2 (1-e^2)^2 \ \frac{2 \pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \\
&& \quad -a (1 -e^2) e^2 r_g \ \frac{\pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2}  \\
&& \quad + a (1 -e^2) r_g \ \frac{2 \pi}{\sqrt{1 -e^2}} \\
&=& 2 \pi a^2 \sqrt{1 -e^2} \left\{1 + \frac{2 -3 e^2}{ 2 a (1 -e^2)} r_g \right\}
\end{eqnarray}

左辺と右辺を等しいとおいて

\begin{eqnarray}
2 \pi a^2 \sqrt{1 -e^2} \left\{1 + \frac{2 -3 e^2}{ 2 a (1 -e^2)} r_g \right\} &=&
T\, \sqrt{G M a (1 -e^2)} \,\left\{ 1 – \frac{r_g}{2 a (1 -e^2)}\right\} \\
\therefore\ \ \frac{2 \pi}{\sqrt{GM}}a^{\frac{3}{2}} &=& T\, \frac{1 – \frac{r_g}{2 a (1 -e^2)}} {1 + \frac{2 -3 e^2}{ 2 a (1 -e^2)} r_g} \\
&\simeq& T\, \left( 1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{a}\right) \\
\therefore\ \ \frac{a^3}{T^2} &\simeq& \frac{GM}{4 \pi^2}\left( 1 -3 \frac{r_g}{a}\right)
\end{eqnarray}

$\displaystyle \frac{a^3}{T^2}$ は惑星によらず一定というわけではなく,一般相対論的な補正 $\displaystyle \left( 1 -3 \frac{r_g}{a}\right)$ がつく,という結果になった。

経過固有時間を周期とした場合についてもまとめておく。

$\tau = 0$ のとき $x = 0$ で最小値 $r=r_{\rm min}$ をとる $r$ が $x = 2 \pi$ で再び最小値になるまでの経過固有時間$\tau$ を「周期」とする。

すると,

\begin{eqnarray}
r^2 \frac{d\phi}{d\tau} &=& \ell \\
\therefore\ \ r^2 \frac{dx}{d\tau} &=& \gamma \ell \\
\therefore\ \ \int_0^{2 \pi} r^2 \, dx &=& \gamma \ell\, \int_0^{\tau}\, d\tau = \gamma \ell \tau
\end{eqnarray}

まず右辺を $r_g$ の1次まで求めると,

\begin{eqnarray}
\gamma \ell \tau &\simeq& \tau\, \left( 1 -\frac{3 r_g}{2a(1-e^2)}\right) \, \sqrt{G M a (1 -e^2)} \left(1 + \frac{3 +e^2}{4 a (1 -e^2)} r_g\right) \\
&\simeq& \tau\, \sqrt{G M a (1 -e^2)} \,\left( 1 + \frac{e^2 -3}{4 a (1 -e^2)} r_g\right)
\end{eqnarray}

一方,左辺は

\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} r^2 \, dx &=& 2 \pi a^2 \sqrt{1-e^2} \left(1 – \frac{e^2}{2 a (1 -e^2)} r_g \right)
\end{eqnarray}

よって

\begin{eqnarray}
2 \pi a^2 \sqrt{1-e^2} \left(1 – \frac{e^2}{2 a (1 -e^2)} r_g \right) &=&
\tau\, \sqrt{G M a (1 -e^2)}\,\left( 1 + \frac{e^2 -3}{4 a (1 -e^2)} r_g\right) \\
\therefore\ \ \frac{a^3}{\tau^2} &=& \frac{GM}{4 \pi^2} \left(1 – \frac{3}{2} \frac{r_g}{a} \right)
\end{eqnarray}

固有時間での周期 $\tau$ と座標時間(遠方観測者時間)での周期 $T$ との関係は

\begin{eqnarray}
\tau^2 \left(1 – \frac{3}{2} \frac{r_g}{a} \right) &=& T^2 \left(1 – 3 \frac{r_g}{a} \right) \\
\therefore\ \ \tau &\simeq& T \, \sqrt{1 – \frac{3}{2} \frac{r_g}{a}}
\end{eqnarray}

シュバルツシルト時空中を運動する時計が示す時間の遅れ:その統一的な理解のまとめ」の「(ほぼ)楕円軌道の場合の時間の遅れ」の項も参照。