むかしむかし、宇宙のまんなかに地球という星と火星という星がありました。
地球に住む人々は火星に行ってみたいと思っていました。でも遠すぎました。
しかし時が経つと、人々は火星に行くためのロケットを開発します。そしてとうとう宇宙飛行士になりたいという人たちが出てきました。
地球に人があふれ、毎日毎日増え続けたので、宇宙飛行士たちはほかの星を征服したいと思うようになります。そんななか、アメリカとロシアと中国の宇宙飛行士がそれぞれ火星へと向かうことになりました。彼らはそれぞれに別の言語をもち、お互いに「変なやつだ」と思っていました。
三人はほぼ同時に火星に着陸します。そこで三人が出会うことになるのは、見たこともない奇妙な姿の火星人でした。ーー
お互いに「変なやつだ」と思っていた三人の気もちの変化、そして火星人に対する気持ちの変化が、他者を理解することの困難さを、しかしながらそれがとても大切なことだということを、包み込むように伝えてきます。社会の仕組み、他者理解について考えさせる寓話。
挿絵は20世紀後半に活躍したイタリアの美術家エウジェニオ・カルミによるものです。
それぞれに異なる文脈で固有の意味を持っていたモチーフが、切り抜かれ、そしてこの絵本のページ上に並べられることで、新たな意味を獲得していくーーモダンアートにおけるコラージュ技法の本質が示されています。
とはいえ、難しいことは抜きにしても、それぞれのモチーフの配列や色彩の妙、少しコミカルな火星人の姿の意外性など、これらの挿絵には、多くの世代の読者の目を惹きつけてやまない魅力が満ちあふれています。