遠いフィンランドのお話です。
クリスマスの前の晩、トナカイのひく二つのそりが雪原を走っていきます。
そりにはサーミ人の家族が乗っていました。きれいでしずかな夜でした。
――そんな彼らをオオカミの群れが追いかけてきました。
急いで逃げていくなか、母親の腕に抱かれていた女の子の赤ちゃんが雪の上に放り出されてしまいます。オオカミたちが赤ちゃんを囲みます。ところが、赤ちゃんに見つめられたオオカミたちは、何もしようとはせず、ふたたびトナカイのひくそりを追いかけていくのでした。
その後赤ちゃんは通りかかったフィンランド人の農夫に拾われます。農夫の家族が赤ちゃんを教会に連れて行くと、ぼくしさんはこの子に「星のひとみ」という名前をつけました。
実際、この子のひとみには不思議な力があったのです。――
「おばけシリーズ」や「めがねうさぎシリーズ」で人気のせなけいこによる切り絵が繊細な絵本。
静かな雪原、暖かく賑やかな家族の様子、見る者を惹きつけてやまない「星のひとみ」の印象的なまなざし。切り絵という手法がこんなにも表情豊かであることに驚きます。時に冷たく、残酷にも見える彼女の視線は、この物語の底流に垣間見える人間の愚かさや非情さ、そして非力さをうったえる力を持っています。