文:セシリア・ダヴィッドソン、絵:セシリア・ヘイッキラ、訳:オスターグレン晴子『ムーミントロールと小さな竜』徳間書店

作:セシリア・ダヴィッドソン、絵:セシリア・ヘイッキラ、訳:オスターグレン晴子『ムーミントロールと小さな竜』徳間書店

 

原作はトーベ・ヤンソンです。

 おなじみのムーミンのお話です。8月のある木曜日の朝早く、ムーミントロールは庭の池で偶然にも小さな竜をつかまえました。池の底にいる生き物が後ろ向きに泳ぐかどうかを確かめたくて水に潜らせたガラスの瓶に入っていたのがその竜でした。

 

 金魚のヒレのような綺麗な形をした竜のつばさは、朝日をあびてキラキラと輝いていました。その小さな頭はきれいな緑色で、目は檸檬色をしています。ムーミントロールはこの素敵な生き物をすっかり気に入って、途中で同居人のミイに見つかりながらも、大事に部屋に持ち帰ります。そしてまずはじめにこの竜を見せるのはやっぱり友人のスナフキンだな、と思い巡らせるのでした。

 ところが竜はムーミントロールに腹を立てて、口から小さな炎をはいては寄せつけようとしません。そしてすごい勢いでハエに近づいては飲み込んで食べています。そんな竜にもムーミントロールは、「きみって、すごいなあ!」と言って感心してしまうのでした。

 

 ごはんの後、ムーミントロールはさっそくスナフキンを訪ねて、本物の小さな竜を見つけたことを告げます。スナフキンはにっこりして、「そいつはぜひ、見せてもらわなくちゃ」と、ムーミントロールの部屋に向かいました。部屋に入ると、ムーミントロールはカーテンのかげに潜んでいた竜をつかまえようとしますが、竜はそれから逃れて飛びまわります。そしてやさしく成り行きを見守っていたスナフキンのことをすっかり気に入って、彼の肩に止まるとそこから離れようとしなくなってしまいました。ムーミントロールはすっかり気落ちしてしまいますが、口に出して訴えることはしません。-さて、このあとの展開はどうなっていくのでしょうか。スナフキンのやさしさが切ないお話です。

 

 フィンランドの広大な森の中で繰り広げられるムーミントロールの物語では、ムーミンという架空のキャラクターがスナフキンやミイといった登場人物と自然に共存しており、そしてそこにはどこかほっとする温かい雰囲気が満ち満ちています。丸くやわらかな輪郭線でとらえられたムーミントロールのかわいくもユーモラスな独特の風貌は、一度見たら忘れられません。

 

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