「カシオペイヤ、もう水仙がさきだすぞ おまえのガラスの水車 きっきとまわせ。」
雪童子はまっ青な空をみあげて、みえない星にさけびました。その空からは青びかりが波になってわくわくとふり、雪狼どもは、ずうっと遠くで、ほのおのように赤い舌をべろべろはいています。
「ひゅう、ひゅう、さあしっかりやるんだよ。なまけちゃいけないよ。ひゅう、ひゅう。さあしっかりやっておくれ。きょうはここらは水仙月の四日だよ。さあしっかりさ。ひゅう。」
雪婆んごの、ぼやぼやつめたい白髪は、雪と風とのなかで渦になりました。――
水仙が咲き出す二月。けれどもこの月の四日はまだまだ寒く、北国では強い風がひゅうひゅうとうなって吹雪くことも多い日です(今年は例外的に太陽が顔を出していますが)。
雪婆んごが雪童子を追い立てて、雪童子は雪狼をせきたてて、強い風が吹き、真白な雪を巻き上げて吹雪となります。ひとりの赤い毛糸にくるまった子どもが、大きなぞうのかたちをした雪丘のすそを家に向かって急いでいました。この子の頭の中は、赤砂糖とザラメと水でつくるカリメラのことでいっぱいです。
一方、二匹の雪狼が、まっ赤な舌をはきながら、ぞうの頭のかたちをした、雪丘の上の方を歩いていました。人の目には見えないこれらの狼は、風がくるいだすと、大地のはずれの雪の上から雪雲をふんで、空をかけまわります。
やがて子どもは、たった今西の山脈を越えた遠くから帰ってきた雪婆んごのおこす吹雪の中に倒れ込みます。この子を助けたのは、雪婆んごに追い立てられながらも、「毛布をかぶって、うつむけになっておいで」と語りかけて子どもを雪で包み込んだ、心やさしい雪童子でした。――
広大な雪原とぞうの頭のかたちをした雪丘、薄くグレーがかった青緑色の空を翔ける雪狼。赤羽末吉の挿絵の中でも、吹雪の夜の激しさと、凍てつく真冬のしんとした空の壮大な画面の数々が印象に残る絵本。濃紺の空に降る白い雪、青緑色の空に散る白い吹雪と細い線でふちどられた透明感ある雪狼や雪童子、白い大地に目立つ赤い毛布の小さな子ども――春の手前の吹雪の夜、その荒涼とした雪原の残酷な勇壮さが目に浮かびます。子どもを包む赤がやさしく暖かい。
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