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参考:光の曲がり角をニュートン理論で計算する

重力場中の光の経路をニュートン理論ニュートン力学の運動方程式万有引力の法則)で計算し,光の曲がり角が一般相対論の予言の半分であることを示す。

光の粒子説

光の粒子説の立場では,光は「光子」(みつこではなくこうし)という粒子からなるとする。

現在までのところ,光子に有限の質量があるということは確認されていないが,ニュートン理論で計算するためには,光子には,実験的に確認されないほどわずかであっても,それでもゼロでない有限の質量 m があると仮定しなければならない。(万有引力は質量をもった物体間に働く引力であるから。)

万有引力の1体問題

ニュートン力学における万有引力を受ける物体の運動については,「参考:ニュートン力学における万有引力の2体問題」にまとめているが,ここでは1体問題としてあらためておさらいしておく。

光子に対する運動方程式

光子が有限の質量 m をもつとすると,原点にある質量 M の天体がつくる重力場中を運動する質量 m の質点の運動方程式は

md2rdt2=GMmr3r(1)  d2rdt2=GMr3r

ここでは光子を想定しているが,m がキャンセルされた以上,木星とか地球とかの惑星であってもこの方程式に従って運動することになり,重力場中の運動は質点の質量によらないことがわかるんだったね。これを4字熟語で等価原理といったりする。

運動方程式から導かれる保存量(運動の定数)

万有引力は「中心力」(重力源を原点としたときの位置ベクトル r に比例する力)であるため,角運動量が保存される。また,「保存力」(ポテンシャルの勾配 grad で書ける力)でもあるため,力学的エネルギー(全エネルギーともいう)も保存される。先に角運動量保存から示しておくと,一般性を失うことなく軌道を xy 平面上に制限できるので話が簡単になり,吉。

角運動量保存

(1) 式に位置ベクトル r を左から外積してやると,

r×d2rdt2=GMr3r×r=0 r×d2rdt2=ddt(r×drdt)=0 r×drdt=const.

ベクトル は単位質量あたりの角運動量に相当するベクトルであり,一定であるその向きを(一般性を失うことなく)z 軸にとることができる。すると,z 成分のみとなり,

=(0,0,)

次に,位置ベクトル r がこの に直交することを以下のようにして示す。ベクトルのスカラー三重積(ベクトルなのかスカラーなのかまぎらわしい)の性質を使って,

r=r(r×drdt)=drdt(r×r)=0, r

したがって,これも一般性を失うことなく rxy 平面(「赤道面」とも言ったりする)内にとることができて,

r=(x,y,0)=(rcosϕ,rsinϕ,0)

大きさ(あるいは z 成分) を極座標 r,ϕ で表すと(ドット (  ˙ ) は時間微分),

=||=xy˙yx˙=r2ϕ˙(2)  dϕdt=r2

学生諸君は,以下のようにして xy˙yx˙=r2ϕ˙ となることを確認しておくこと。

x=rcosϕ,y=rsinϕ,x˙=r˙cosϕ+r(cosϕ)˙=r˙cosϕ+r(sinϕϕ˙)=r˙cosϕrsinϕϕ˙y˙=  xy˙yx˙=

エネルギー保存

(1) 式に速度ベクトル vdrdt を内積してやると,

drdtd2rdt2=GMr3rdrdt=drdt(GMr)=ddt(GMr)ddt(12drdtdrdt)=ddt(GMr)

  ddt(12drdtdrdtGMr)=0
  12vvGMr=const.ε

ε は単位質量あたりの力学的エネルギー(運動エネルギーと重力ポテンシャルエネルギーの和)に相当する定数であり,極座標であらわすと

(3)ε=12v2GMr=12{(dxdt)2+(dydt)2}GMr=12{(drdt)2+r2(dϕdt)2}GMr(4)=12{(drdt)2+2r2}GMr  (drdt)2=2ε+2GMr2r2 ところでdrdt=drdϕdϕdt=r2drdϕであるから (5)  (r2drdϕ)2=2ε+2GMr2r2

学生諸君は x˙2+y˙2=r˙2+r2ϕ˙2 となることを確認しておくこと。

(5) 式を r について解きたいのであるが,r がことごとく分母にきているものだから,いっそのこと s1r として変数変換してやると

s1rdsdϕ=1r2drdϕ

(5) 式の両辺を 2 で割って,s で書き直してやると

(dsdϕ)2=2ε2+2GM2ss2(6)=2ε2+(GM2)2(sGM2)2

光子軌道に対する境界条件

光は r から速さ c でやってきて,ϕ=π2 で最近接距離 r=b をとり,また r へ去っていくとする。

最近接距離 r=b すなわち s=1rdsdϕ=0 であるから (6) 式より

0=2ε2+(GM2)2(1bGM2)2  2ε2+(GM2)2=(1bGM2)2

b を使って,あたらめて (6) 式を書きなおすと,

(dsdϕ)2=(1bGM2)2(sGM2)2

この微分方程式は何度も出ている形であり,ϕ=π2s が極値をとることから積分定数が決まり,以下のように解くことができる。

(7)s=1r=GM2+(1bGM2)sinϕ

微分方程式の解の詳細

念のため,解を求める詳細をかいつまんでまとめると,

a1bGM2,ysGM2

とおくと,解くべき微分方程式は

(dydϕ)2=a2y2dydϕ=±a2y2dya2y2=±dϕdya2y2=±dϕsin1ya=±ϕ+C  y=asin(±ϕ+C)

ϕ=π2dydϕ=0, y=a という条件から

y=asinϕsGM2=(1bGM2)sinϕ  s=1r=GM2+(1bGM2)sinϕ

漸近的振る舞い

解 (7) 式から,r となるのは

GM2+(1bGM2)sinϕ=0  sinϕ=GM21bGM2(8)=GMb21GMb2

を満たす角度 ϕ のときである。

r  で vc という条件から (3) 式より

ε=12c2

また,最近接距離 r=b では(r が極値をとることから)drdt=0 となり,(4) 式から

ε=12c2=12v2GMb=122b2GMb

最近接点 r=b においても光の速さはほぼ光速であるとすると vc ,運動エネルギーのほうが重力ポテンシャルエネルギーよりも圧倒的に大きいことになり,

12v2GMb  12c2GMb  2GMbc21

この状況では

ε=12c2122b2  bc

つまり

GMb2GMbc21

これを使うと,r となる角度 ϕ を求める (8) 式は

sinϕGMbc2

これは |sinϕ|1 のもとで以下のように解ける。

ϕGMbc2,π+GMbc2

光の曲がり角

つまり,この光の経路の漸近的振る舞いは,

  • ϕGMbc2r からやってきて,
  • ϕ=π2 で最近接距離 r=b をとり,
  • ϕ+π+GMbc2r へと去っていく。

角度差は

Δϕ=ϕ+ϕ=π+2GMbc2

角度差から直線分 π を引いたものが(直線軌道からの)曲がり角 α となり,

αΔϕπ=2GMbc2=rgb

ここで rg2GMc2重力半径(シュバルツシルト半径ともいう)であった。

結論

ニュートン理論による光の曲がり角は rgb であり,一般相対性理論による値 2rgb の半分である。