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重力場中の測地線方程式

重力場中であっても,光が伝播する経路はヌル測地線で与えられる。これを以下のように表現する。

光の4元ベクトル

まず,光の経路を表す世界線  \(x^{\mu}(v)\) を考える。ここで \(v\) はアフィンパラメータである。

この世界線の接ベクトルが,光の伝播を表す4元ベクトルであり,
$$ \boldsymbol{k} = k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu} \equiv \frac{dx^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}$$
と書く。特殊相対論においては \(\boldsymbol{k} \) の空間成分が3次元ベクトルとしての(角)波数ベクトルの成分であることから,\(\boldsymbol{k} \) を4元波数ベクトルと呼んだりする。

ヌル測地線

測地線方程式は,
\begin{eqnarray}\frac{d\boldsymbol{k}}{dv} =
\frac{d}{dv} \left( k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\right)
&=& \frac{dk^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu} + k^{\mu} \, \boldsymbol{e}_{\mu , \nu} \, k^{\nu}\\
&=& \left(\frac{dk^{\lambda}}{dv} + \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \mu\nu} k^{\mu} k^{\nu} \right) \boldsymbol{e}_{\lambda} = 0
\end{eqnarray}
となる。

共変成分に対する測地線方程式

また,実際の計算の際には,以下のようにして,保存量がわかりやすいように変形した測地線方程式を使うことが便利な場合がある。

測地線方程式と基本ベクトル \(\boldsymbol{e}_{\nu} \) との内積をとって

\begin{eqnarray}
0 = \boldsymbol{e}_{\nu}\cdot \frac{d\boldsymbol{k}}{dv} &=&
\frac{d}{dv} \left( \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} \right) –
\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \lambda}\frac{dx^{\lambda}}{dv} \\
&=& \frac{d}{dv} \left( k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} \right) – \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot \boldsymbol{e}_{\lambda, \nu} k^{\mu} k^{\lambda} \\
&=& \frac{d}{dv} \left( g_{\nu\mu} k^{\mu}  \right) – \frac{1}{2} g_{\mu\lambda, \nu} k^{\mu} k^{\lambda}
\end{eqnarray}

\( k_{\nu} \equiv g_{\nu\mu} k^{\mu} \) とすると,「共変成分」 \(k_{\nu} \) (歴史的には上付添字成分  \(k^{\mu} \)  を反変成分とか反変ベクトルなどと呼び,下付添字成分 \(k_{\nu} \) を共変成分とか共変ベクトルなどと呼んでいた)に対する測地線方程式は(添字を書き換えて)

$$\frac{d k_{\mu}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} k^{\alpha} k^{\beta}$$ となる。

このことから,計量テンソルの成分  \(g_{\alpha\beta} \) がある特定の座標 \(x^{\mu} \) 依存性をもたない場合は,ただちに
$$\displaystyle g_{\alpha\beta, \mu} = 0\quad\Rightarrow\quad \frac{d k_{\mu}}{dv} = 0 \quad\Rightarrow\quad k_{\mu} = \mbox{const.} $$
となり \(k_{\mu} \) 成分が保存量となることがわかる。

以上のことからわかるように,この「共変成分」に対する測地線方程式は,解析力学におけるラグランジュ方程式に相当し,計量テンソル \(g_{\alpha\beta}\),したがってラグランジアンが特定の座標 \(x^{\mu}\) 依存性をもたない場合は,\(x^{\mu}\) は循環座標と呼ばれ,この循環座標に共役な一般化運動量である \(k_{\mu} \) が保存するということを表している。(解析力学を学んだ学生さんには,このような説明がウケるかもしれないが,うちの学科は物理学科ではないので解析力学の授業がなく,ラグランジアンありきの説明は封印。)

また,重力場中においても,光の4元ベクトルがヌルベクトルであることは変わらない。

$$ \boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{k} = g_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu} = 0$$

(証明は,\( \boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{k} \) は座標系によらない不変スカラーであること,および任意の時空中の1点で局所慣性系をとることができ,そこでは特殊相対論と同じ計算ができることから明らかであろう。)

 

参考:4元波数ベクトルの共変成分に対する測地線方程式の導出方法

4元波数ベクトルの下付添字成分である「共変成分」 \(k_{\mu} \equiv g_{\mu\nu} k^{\nu}\) に対する測地線方程式

$$\frac{d k_{\mu}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} k^{\alpha} k^{\beta}$$

の導出方法のおさらい。