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シュバルツシルト時空中を運動する時計が示す時間の遅れ:その統一的な理解のまとめ

結局,シュバルツシルト時空中を運動する時計が示す時間の遅れは全て,以下のように統一的に理解できる。楕円軌道上を運動する場合の時間の遅れについてもまとめてみた。

線素

アインシュタイン方程式の球対称真空解であるシュバルツシルト時空の線素は

$$ds^2 = -c^2 d\tau^2 = -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) c^2 dt^2 + \frac{dr^2}{1-\frac{r_g}{r}}
+ r^2 \left( d\theta^2 + \sin^2 \theta\,d\phi^2\right)$$

ここで,$\tau$ は固有時間,したがって $d\tau$ は経過固有時間,$\displaystyle r_g \equiv \frac{2GM}{c^2}$ は重力半径(またはシュバルツシルト半径)。シュバルツシルト解がどのようにして求められるかは,以下のページを参照:

世の中の教科書で説明されている時間の遅れ

世にあまたある教科書で説明されている時間の遅れについては,以下のページにも書いている。(円軌道の場合のみ。)

かいつまんでまとめると,$d\tau$ が重力場中を運動している時計の経過固有時間であり,これと経過座標時間 $dt$ (これはまた遠方観測者の経過時間と呼んでもよい)との関係は $dr = 0, \theta = \frac{\pi}{2}, d\theta = 0$ の場合に

$$d\tau = dt\, \sqrt{1 -\frac{r_g}{r} -\frac{1}{c^2} \left(r \frac{d\phi}{dt}\right)^2}$$

となる。時計が静止している場合には $d\phi = 0$ だから

$$d\tau = dt \sqrt{1 -\frac{r_g}{r} }$$

また,円軌道上を運動している場合には,ニュートン力学における万有引力と遠心力との釣り合いの式

\begin{eqnarray}
v &\equiv& r \frac{d\phi}{dt} \\
m \frac{v^2}{r} &=& \frac{G M m}{r^2} \\
\therefore\ \  \left(r \frac{d\phi}{dt} \right)^2 &=& \frac{G M}{r}
\end{eqnarray}

を使って,

\begin{eqnarray}
d\tau &=& dt\, \sqrt{1 -\frac{r_g}{r} -\frac{1}{c^2} \left(r \frac{d\phi}{dt}\right)^2} \\
&=& dt\, \sqrt{1 -\frac{2 G M}{c^2 r} -\frac{1}{c^2}\frac{G M}{r} } \\
&=& dt \, \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{r}}
\end{eqnarray}

となる。しかし,この説明方法は簡単ではあるが,より一般的な運動をしている場合,例えば楕円軌道の場合にはそのままでは使えない(厳密には一般相対論的には閉じた楕円軌道とはならないのであるが… )。そこで,以下のように重力場中の測地線方程式を解いて任意の軌道運動の場合にも時間の遅れを求めることができるような統一的な方法を以下にまとめる。

測地線方程式

重力以外の力を受けずに重力場中を運動する物体の軌道(世界線)は,測地線方程式で与えられる。物体の世界線を $x^{\mu}(\tau)$,その接ベクトルである4元速度を $u^{\mu}$ とすると,

\begin{eqnarray}
u^{\mu} = \frac{dx^{\mu}}{d\tau} &=&
\left(\frac{\,dx^{0}}{d\tau}, \frac{dx^{1}}{d\tau}, \frac{dx^{2}}{d\tau}, \frac{dx^{3}}{d\tau} \right) \\
&=& \left(\frac{c\, dt}{d\tau}, \frac{dr}{d\tau}, \frac{d\theta}{d\tau}, \frac{d\phi}{d\tau} \right)
\end{eqnarray}

測地線方程式は

$$\frac{d u^{\lambda}}{d\tau} + \varGamma^{\lambda}_{\ \ \ \mu\nu} u^{\mu} u^{\nu} = 0$$

4元速度の「共変」成分 $u_{\mu} \equiv g_{\mu\nu} u^{\nu}$ に対しては,測地線方程式は以下のように書ける。

$$\frac{d u_{\mu}}{d\tau} = \frac{1}{2} \frac{\partial g_{\alpha\beta}}{\partial x^{\mu}} u^{\alpha} u^{\beta}
\equiv\frac{1}{2}g_{\alpha\beta, \mu} u^{\alpha} u^{\beta} $$

このへんの事情は以下のページにまとめてある。

測地線方程式の解

時空の対称性により,一般性を失うことなく軌道を「赤道面」上,すなわち $\displaystyle \theta = \frac{\pi}{2}$ に制限できるので,以後は

$$\theta = \frac{\pi}{2}, \quad u^2 = \frac{d\theta}{d\tau} = 0$$

とする。なんでそうなるか,どうしても知りたいのなら以下のページを参照:

 

メトリックは $x^0 = c t$ を含まないので,ただちに

\begin{eqnarray}
\frac{d u_0}{d\tau} &=& 0 \\
\therefore\ \ u_0 &=& g_{00} u^0 \\
&=& -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) \frac{c\,dt}{d\tau} = \mbox{const.} \equiv -\epsilon \,c \\
\therefore\ \ d\tau &=& dt \,\frac{1-\frac{r_g}{r}}{\epsilon} \tag{1}
\end{eqnarray}

この $(1)$ 式が,重力場中の時計の固有時間の経過 $d\tau$ と,座標時間の経過 $dt$ との関係を与える。

メトリックからわかるように,十分遠方 $r \gg r_g$ では

$$ds^2 \simeq -c^2 dt^2 + dr^2 + r^2 \left( d\theta^2 + \sin^2 \theta\,d\phi^2\right)$$

なので,座標時間の経過 $dt$ は遠方観測者にとっての経過時間と呼んでもよい。

次に,メトリックは $x^3 = \phi$ も含まないので

\begin{eqnarray}
\frac{d u_3}{d\tau} &=& 0 \\
\therefore\ \ u_3 &=& g_{33} u^3 \\
&=& r^2 \frac{d\phi}{d\tau} = \mbox{const.} \equiv \ell \tag{2}
\end{eqnarray}

ここで $\displaystyle \theta = \frac{\pi}{2}$ であるから $g_{33} = r^2 \sin^2\theta = r^2$ とした。

最後に,4元速度の規格化条件から

\begin{eqnarray}
-c^2 &=& g_{\mu\nu} u^{\mu} u^{\nu} \\
&=& g_{00} \left(u^0\right)^2 + g_{11} \left(u^1\right)^2 + g_{33} \left( u^3 \right)^2 \\
&=& \frac{1}{g_{00} }\left(u_0\right)^2 + g_{11} \left(u^1\right)^2 + \frac{1}{g_{33}}\left( u_3 \right)^2\\
&=& -\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}} \left( -\epsilon \,c\right)^2 + \frac{1}{1-\frac{r_g}{r}} \left(\frac{dr}{d\tau}\right)^2 + \frac{\ell^2}{r^2} \\
\therefore\ \  \left(\frac{dr}{d\tau}\right)^2 &=& \epsilon^2 c^2 -\left( 1-\frac{r_g}{r}\right)\left(c^2 + \frac{\ell^2}{r^2} \right) \tag{3}
\end{eqnarray}

まとめ

以上の結果をあらためてまとめると,エネルギー保存・角運動量保存をあらわす運動の定数 $\epsilon, \ \ell$ を使って,

\begin{eqnarray}
d\tau &=& dt \,\frac{1 -\frac{r_g}{r}}{\epsilon} \tag{1} \\
r^2 \frac{d\phi}{d\tau} &=& \ell  \tag{2} \\
\left(\frac{dr}{d\tau}\right)^2 &=& \epsilon^2 c^2 -\left( 1 -\frac{r_g}{r}\right)\left(c^2 + \frac{\ell^2}{r^2} \right) \tag{3}
\end{eqnarray}

静止している時計の遅れ

ある瞬間に重力場中に静止している時計を考えると,その時刻には

$$\frac{dr}{d\tau} = 0, \quad \frac{d\phi}{d\tau} = 0, \ \therefore\ \ \ell = 0$$

したがって $(3)$ 式より

\begin{eqnarray}
0 &=& \epsilon^2 c^2 -\left( 1 -\frac{r_g}{r}\right) c^2 \\
\therefore\ \ \epsilon &=& \sqrt{1 -\frac{r_g}{r}}
\end{eqnarray}

これを $(1)$ 式に代入すると,

$$d\tau = dt\, \sqrt{1 -\frac{r_g}{r}}$$

これが,重力場中の動径座標 $r$ の位置に静止している時計の経過固有時間 $d\tau$ と遠方観測者の経過時間 $dt$ との関係をあらわす。この式は重力赤方偏移としてよく引用される。

したがって,異なる地点 $r = r_1$ と $r = r_2$ に静止している時計の進みの比は

$$\frac{d\tau_2}{d\tau_1} = \frac{\sqrt{1 -\frac{r_g}{r_2}}}{\sqrt{1 -\frac{r_g}{r_1}}}$$

となり,「重力場中の異なる地点での時間の進み方」の結果を再現している。

動径方向に自由落下運動する時計の遅れ

動径方向の運動に限るので

$$\frac{d\phi}{d\tau} = 0, \quad \therefore\ \ \ell = 0$$

これを代入し,初期条件を $r=r_i$ で初速度をゼロとすると,$(3)$ 式から

\begin{eqnarray}
0 &=& \epsilon^2 c^2 -\left( 1 -\frac{r_g}{r_i}\right) c^2 \\
\therefore\ \ \epsilon &=& \sqrt{1 -\frac{r_g}{r_i}} \\
\therefore\ \ d\tau &=& dt\, \frac{1 -\frac{r_g}{r}}{\sqrt{1 -\frac{r_g}{r_i}} }
\end{eqnarray}

$r=r_i$ に静止している時計の経過固有時間 $d\tau_i$ は

$$d\tau_i = dt\,\sqrt{1 -\frac{r_g}{r_i}}$$

であるから,比を取ると

$$\frac{d\tau}{\, d\tau_i} = \frac{1 -\frac{r_g}{r}}{1 -\frac{r_g}{r_i} }$$

となり,「動径方向に自由落下する観測者の時間の進み方」の結果を再現している。

有界な束縛軌道上を運動する時計の遅れ

有界な運動であることから

$$r_g < r_{\rm min} \leq r \leq r_{\rm max}$$

$r=r_{\rm min}$ および $r=r_{\rm max}$ で $r$ が極値をとることから,$(3)$ 式より

\begin{eqnarray}
0 &=& \epsilon^2 c^2 -\left(1 –\frac{r_g}{r_{\rm min}} \right) \left( c^2+ \frac{\ell^2}{r_{\rm min}^2}\right) \\
0 &=& \epsilon^2 c^2 -\left(1 -\frac{r_g}{r_{\rm max}} \right) \left( c^2+ \frac{\ell^2}{r_{\rm max}^2}\right) \end{eqnarray}

この連立方程式を $\epsilon^2$ と $\ell^2$ について解くと

\begin{eqnarray}
\epsilon^2&=& \frac{ (r_{\rm min} + r_{\rm max}) (r_{\rm min} -r_g) (r_{\rm max} -r_g)}
{r_{\rm min} r_{\rm max} (r_{\rm min} + r_{\rm max}) -(r_{\rm min}^2 + r_{\rm min}r_{\rm max}+r_{\rm max}^2) r_g}\\
\ell^2&=& \frac{c^2 r_{\rm min}^2  r_{\rm max}^2  r_g}
{r_{\rm min} r_{\rm max} (r_{\rm min} + r_{\rm max}) -(r_{\rm min}^2 + r_{\rm min}r_{\rm max}+r_{\rm max}^2) r_g}
\end{eqnarray}

$r_{\rm min}, \ r_{\rm max}$ のかわりに,

$$r_{\rm max} \equiv a (1+e), \quad r_{\rm min}\equiv a (1-e)$$

すなわち

$$ a \equiv \frac{1}{2} \left( r_{\rm max} + r_{\rm min}\right) , \quad
e \equiv \frac{ r_{\rm max} -r_{\rm min}}{ r_{\rm max} +r_{\rm min}}$$

で定義される $a, \ e$ を使ってあらわすと

\begin{eqnarray}
\epsilon^2&=& \frac{2a^2(1 -e^2) –4 a r_g + 2r_g^2}{2a^2(1 -e^2) –a(3+e^2) r_g} \\
&=&1  –\frac{r_g}{2 a} + \frac{ (1 -e^2) r_g^2 }{4a^2(1 -e^2)  –2a(3+e^2) r_g} \\
\ell^2&=&c^2  \frac{a^2 (1 -e^2)^2 r_g}{2 a (1 -e^2) –(3+e^2) r_g} \\
&=& GM a (1 -e^2) \left( 1 + \frac{(3+e^2) r_g}{2a(1 -e^2) –(3+e^2) r_g}\right)
\end{eqnarray}

ニュートン理論の楕円軌道の場合には,$a$ は軌道長半径,$e$ は離心率と呼ばれる。一般相対論では,軌道は閉じた楕円軌道とならないので,$a$ や $e$ は軌道長半径や離心率と呼ぶことはない(が,ついそう呼んでしまうかもしれない)。

特に円軌道の場合

$e=0, \ a \Rightarrow r$ とすると,半径 $r$ の円軌道上を運動する時計の経過固有時間 $d\tau$ は

\begin{eqnarray}
\epsilon^2 &=& \frac{2 r^2  –4 r r_g + 2r_g^2}{2 r^2  –3 r r_g} \\
&=& \frac{\left(1 -\frac{r_g}{r}\right)^2}{1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{r}}\\
\therefore\ \ \epsilon &=& \frac{1 -\frac{r_g}{r}}{\sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{r}}} \\ \ \\
\therefore\ \ d\tau &=& dt\, \frac{1 -\frac{r_g}{r}}{\epsilon} \\
&=& dt\, \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{r}}
\end{eqnarray}

$r = r_1$ に静止している観測者の経過固有時間 $d\tau_1$ は

$$d\tau_1 = dt\, \sqrt{1 -\frac{r_g}{r_1}}$$

であるから,比をとると

$$\frac{d\tau}{d\tau_1} = \frac{\sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 -\frac{r_g}{r_1}}}$$

となり,「円運動する観測者の時間の進み方」の結果を再現している。

円軌道でない場合にも一般に近似なしで

円軌道でない一般的な束縛軌道上を運動している場合でも,時間の遅れは近似無しの厳密解として

\begin{eqnarray}
d\tau &=& dt\, \frac{1 -\frac{r_g}{r}}{\epsilon} \\
\epsilon &=& \sqrt{1  –\frac{r_g}{2 a} + \frac{(1 -e^2) r_g^2  }{4a^2(1 -e^2) –2a(3+e^2) r_g}}
\end{eqnarray}

と書ける。重力場中を運動している時計の遅れ $d\tau$ は時々刻々変化する $r$ という場所の関数となる。また,楕円軌道でいうところの軌道長半径 $a$ だけでなく,離心率に相当する $e$ にも一般に依存することがわかる。

$r_g \ll a$ の場合の近似解

上記のように,近似することなく厳密解が求まるのは結構なことだが,$\displaystyle 0 < \frac{r_g}{a} \ll 1$ として $\epsilon$ をテイラー展開すると

\begin{eqnarray}
\epsilon &\simeq& \sqrt{1  –\frac{r_g}{2 a} + \frac{ r_g^2  }{4a^2}} \\
&\simeq& 1 -\frac{1}{4} \frac{\,r_g}{a} + \frac{3}{32} \left(\frac{\,r_g}{a}\right)^2+ \cdots
\end{eqnarray}

$\displaystyle \left(\frac{\,r_g}{a}\right)^2$ までの近似では,$\epsilon$ は $e$ によらず $a$ だけで書けることは実に興味深い。

一方,円軌道の場合の厳密解も同様にテイラー展開すると,

\begin{eqnarray}
\epsilon_{\rm circ} = \frac{1 -\frac{\,r_g}{r}}{\sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{r}}} &\simeq&
1 -\frac{1}{4} \frac{\,r_g}{r} + \frac{3}{32} \left(\frac{\,r_g}{r}\right)^2+ \cdots \\
\end{eqnarray}

であるから,$\displaystyle 0 < \frac{r_g}{a} \ll 1$ の場合には,$\displaystyle \left(\frac{\,r_g}{a}\right)^2$ までの近似で

$$\epsilon \simeq \frac{1 -\frac{\,r_g}{a}}{\sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}}}$$

としてよいことになる。

ということで,円軌道でない場合の時間の遅れは,$\displaystyle 0 < \frac{r_g}{a} \ll 1$ であれば

$$d\tau = \frac{1 -\frac{\,r_g}{r}}{\epsilon} \simeq dt\,  \frac{1 -\frac{\,r_g}{r}}{1 -\frac{\,r_g}{a}}\ \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}} $$

としてよいことになる。この式は $\displaystyle \left(\frac{\,r_g}{a}\right)^2$ までの精度で正しい。

(ほぼ)楕円軌道の場合の時間の遅れ

円軌道の場合と異なり,一般に円軌道でない場合は $r$ は時々刻々と変化するため,時間の遅れも時々刻々と変化する。しかし,$r_g$ の1次までの近似でよいのであれば,時間の遅れの式には $r_g/r$ の形で既に $r_g$ の1次の項からはじまっているので,$r$ はニュートン理論の楕円軌道

$$r_{\scriptscriptstyle\rm N} = \frac{a\, (1 -e^2)}{1 + e\,\cos\phi}$$

としてよい。この場合は,$\displaystyle \frac{1}{\ r_{\scriptscriptstyle\rm N}}$ の1周期 $T$ あたりの時間平均が

\begin{eqnarray}
\left\langle \frac{1}{\ r_{\scriptscriptstyle\rm N}} \right\rangle &\equiv&
\frac{1}{T} \int_0^T \, \frac{1}{\ r_{\scriptscriptstyle\rm N}}\, dt \\
&=& \frac{1}{a}
\end{eqnarray}

となることを使うことができる。なんで平均がこうなるかは以下のページを参照:

そうすると,楕円軌道の場合の時間の遅れの1周期あたりの時間平均 $\left\langle d\tau\right\rangle$ は,$r_g$ の1次までの近似で

\begin{eqnarray}
\left\langle d\tau\right\rangle &=&
dt\  \frac{\left\langle 1 -\frac{\,r_g}{r}\right\rangle}{1 -\frac{\,r_g}{a}}\ \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}} \\
&\simeq& dt\  \frac{\left\langle 1 -\frac{\,r_g}{\ r_{\scriptscriptstyle\rm N}}\right\rangle}{1 -\frac{\,r_g}{a}}\ \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}} \\
&=& dt\  \frac{1 -\frac{\,r_g}{a}}{1 -\frac{\,r_g}{a}}\ \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}} \\
&=& dt\  \sqrt{1 -\frac{3}{2} \frac{\,r_g}{a}}
\end{eqnarray}

となる。円軌道の場合の厳密解において半径 $r$ を軌道長半径 $a$ で置き換えた形になっていることは,実に興味深い。また,$\left\langle d\tau\right\rangle$ が軌道長半径 $a$ のみに依存し,離心率 $e$ によらないこともまた,注目すべき結果である。

楕円軌道の場合の時間の遅れは位置 $r$ によって時々刻々と変わるが,楕円軌道を1周したときの時間の遅れは,軌道長半径 $a$ を半径とした円軌道を1周した場合の時間の遅れと同じであり,軌道長半径 $a$ が同じであれば離心率 $e$ にはよらない。これはわかりやすいと思いますが,いかがでしょうか。