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シュバルツシルト時空中の光の伝播

シュバルツシルト時空

曲がった時空を記述するのが計量テンソルであり,その計量テンソルアインシュタイン方程式によって決まる。

アインシュタイン方程式は,10個の独立な成分を持つ計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) を未知関数とした10元連立非線形2階偏微分方程式の形になっている。平たく言えば解析的に解くのがとても難しい。

その中で,球対称かつ真空 (\(T^{\mu\nu} = 0\)) を仮定して得られるアインシュタイン方程式の最も簡単な解が,以下のシュバルツシルト解である。導出については,以下も参照:

重力源である天体の外部重力場は(厳密には球対称ではないし,また自転していたりするが… )球対称真空なシュバルツシルト解で記述されてるとしてよいため,簡単かつ最も応用されている解である。本稿でも,着目している天体(太陽とか地球とか)の外部重力場がこの解で記述されるとして話をすすめる。

シュバルツシルト解で表される時空,シュバルツシルト時空計量テンソル,略してシュバルツシルト計量の成分は,線素の中に以下のようにあらわれる。

$$ ds^2 = -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) c^2 dt^2 + \frac{dr^2} {1-\frac{r_g}{r}} + r^2(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)$$ ここで \(\displaystyle r_g \equiv \frac{2 G M}{c^2} \) はシュバルツシルト半径または重力半径と呼ばれる長さであり,一般相対論的効果が顕著になる重力源からの距離を表している。以後は特に断らない限り,\(c = 1\) とする。

上記のように線素を書くことによって,座標系は以下のようにとっていること
$$x^{\nu} = (x^0, x^1, x^2, x^3) = (t, r, \theta, \phi)$$
および,計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) のゼロでない成分は
\begin{eqnarray}
g_{00} &=& -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) \\
g_{11} &=& \frac{1} {1-\frac{r_g}{r}}\\
g_{22} &=& r^2\\
g_{33} &=& r^2 \sin^2\theta
\end{eqnarray}
であり,それ以外の成分は全てゼロであることを一挙に表すことができるんだったね。

測地線方程式

球対称真空シュバルツシルト時空は,計量テンソルの成分が時間座標によらない静的な時空でもある。

このような高い対称性を利用するため,保存量がわかりやすいように変形した,以下の測地線方程式を使う。これは \(\nu = 0, 1, 2, 3\) であることから4本の微分方程式となっている。

$$\frac{d k_{\nu}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\lambda\mu, \nu} k^{\lambda} k^{\mu}$$

この式から,一般に計量テンソルの成分 \(g_{\lambda\mu} \) が \(x^{\nu} \) 依存性をもたない場合は,
$$ g_{\lambda\mu, \nu} = 0 \quad\Rightarrow\quad \frac{d k_{\nu}}{dv} = 0 \quad\Rightarrow\quad  k_{\nu} = \mbox{const.} $$となり \(k_{\nu} \) 成分が保存量となることがわかるのであった。

なお,念のために追記するが,上記のように書き換えた測地線方程式は,シュバルツシルト時空に限らず,一般の時空でも勿論使える。

\(k^0\) の解

シュバルツシルト計量の成分は \(x^0 = t\) を含まないので,\(k_0\) が保存量となる。この量を \(-\omega_c\) とすると,

\begin{eqnarray}
k_0 = g_{0\mu} k^{\mu} &=& \mbox{const.} \equiv -\omega_c \\
\therefore \ \ k^0 &=& \frac{-\omega_c}{g_{00}} = \frac{\omega_c}{1 – \frac{r_g}{r}}
\end{eqnarray}

\(k^3\) の解

また,シュバルツシルト計量の成分は \( x^3 = \phi\) も含まないので,\(k_3\) が保存量となる。この量を \(\ell\) とすると,

\begin{eqnarray}
k_3 = g_{3\mu} k^{\mu} &=& \mbox{const.} \equiv \ell \\
\therefore \ \ k^3 &=& \frac{\ell}{g_{33}} = \frac{\ell}{r^2 \sin^2\theta}
\end{eqnarray}

\(k^2\) は初期条件から

\( \displaystyle k^2 = \frac{d x^2}{dv} = \frac{d\theta}{dv} \) については,

$$ \frac{dk_{2}}{dv} =\frac{d}{dv} \left( g_{22} \frac{d\theta}{dv}\right)  = \frac{d}{dv} \left( r^2 \frac{d\theta}{dv}\right) = \frac{1}{2} g_{33, 2} k^3 k^3$$ より

$$ \frac{d}{dv}\frac{d\theta}{dv} + \frac{2}{r} \frac{dr}{dv} \frac{d\theta}{dv} = \frac{\ell^2 \cos\theta}{r^4 \sin^3\theta}$$を得る。

初期条件としてアフィンパラメータ \(v \) がある値 \(v=0\) のとき,
$$\displaystyle \theta(0) = \frac{\pi}{2}, \quad \frac{d\theta}{dv}\Biggr|_0 = 0 $$
とすると,\(\displaystyle \frac{d}{dv}\frac{d\theta}{dv}\Biggr|_{0} = 0 \) となり,常に \( \displaystyle \frac{d\theta}{dv} = 0 \) とすることができるので,この初期条件を採用し,
$$ \theta = \frac{\pi}{2}, \quad k^2 = \frac{d\theta}{dv} = 0$$とする。

このことは

球対称性により,一般性を失うことなく
赤道面上 \( \displaystyle \theta = \frac{\pi}{2}\) に運動を制限できる

ことを初期値問題として示したものである。

\(k^1\) はヌル条件から

さて,これまでのところ,わかったのは

$$ k^0 = \frac{\omega_c}{1 – \frac{r_g}{r}}, \quad k^2 = 0  \ \left( \theta =  \frac{\pi}{2}\right), \quad
k^3 = \frac{\ell}{r^2 \sin^2\theta} = \frac{\ell}{r^2}$$

残りの \(\displaystyle k^1 = \frac{dr}{dv} \) については,ヌル条件より

\begin{eqnarray}
0 = \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{k} &=& g_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\mu} \\
&=& g_{00} \left( k^0 \right)^2 + g_{11} \left(\frac{dr}{dv}\right)^2
+ g_{33} \left(k^3\right)^2 \\
&=& -\left( 1 – \frac{r_g}{r}\right)\left(\frac{\omega_c}{1 – \frac{r_g}{r}} \right)^2
+ \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} \left(\frac{dr}{dv}\right)^2
+ r^2 \left( \frac{\ell}{r^2}\right)^2
\end{eqnarray}

$$\therefore \ \ \left(\frac{dr}{dv}\right)^2 = \omega_c^2 – \left( 1 – \frac{r_g}{r}\right)\frac{\ell^2}{r^2}$$

\(r(v) \) と \(\phi(v) \) はアフィンパラメータ \(v\) を通して関係づけられているので,\( \displaystyle k^3 = \frac{d\phi}{dv} = \frac{\ell}{r^2} \) を使って

$$ \frac{dr}{dv} = \frac{d\phi}{dv} \frac{dr}{d\phi} = \frac{\ell}{r^2} \frac{dr}{d\phi}$$

$$\therefore \ \ \left(\frac{1}{r^2}\frac{dr}{d\phi}\right)^2 = \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 – \left( 1 – \frac{r_g}{r}\right)\frac{1}{r^2}$$

光の経路を決める式

求めたい変数 \(r\) が分母にばっかりあらわれるので,いっそのこと

$$ \frac{1}{r} \equiv u$$

と変数変換してやると,$$  -\frac{1}{r^2} \frac{dr}{d\phi} = \frac{du}{d\phi}$$であるから,

\begin{eqnarray}
\left(\frac{du}{d\phi}\right)^2 &=& \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 – (1 – r_g\,u) u^2 \\
&=& \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 – u^2 + r_g \,u^3
\end{eqnarray}

最終的に,これが光の経路を決める式である。