シュバルツシルト時空中を動径方向に自由落下運動する観測者の4元速度について。
このページでは \(c = 1\) とする。
シュバルツシルト時空
線素は,
$$ ds^2 = -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) dt^2 + \frac{dr^2} {1-\frac{r_g}{r}} + r^2(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)$$
計量テンソルのゼロでない税分は
\begin{eqnarray}
g_{00} &=& -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) \\
g_{11} &=& \frac{1} {1-\frac{r_g}{r}}\\
g_{22} &=& r^2\\
g_{33} &=& r^2 \sin^2\theta
\end{eqnarray}
動径方向に自由落下運動する観測者 \(B\) の4元速度
\(r = r_i\) のとき \(\bar{u}^1 = 0\) という初期条件のもと,動径方向に自由落下(\(\bar{u}^1 < 0\))していく観測者 \(B\) の4元速度の成分を$$\bar{u}^{\mu} = (\bar{u}^0, \bar{u}^1, 0, 0)$$とする。
\(\bar{u}_{\mu} \equiv g_{\mu\nu} \bar{u}^{\nu}\) に対する測地線方程式
$$\frac{d\bar{u}_{\mu}}{d\tau} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} \bar{u}^{\alpha}\bar{u}^{\beta}$$
から,\(g_{\alpha\beta}\) は \(x^0 = t\) を含まないので \(g_{\alpha\beta, 0} = 0\) となり,
$$\frac{d\bar{u}_{0}}{d\tau}= 0, \quad\therefore\ \ \bar{u}_{0} = \mbox{const.} \equiv – \epsilon, \quad \bar{u}^0 = g^{00} \bar{u}_{0} = \frac{\epsilon}{1-\frac{r_g}{r}}$$
また,4元速度の規格化条件 \(g_{\mu\nu} \bar{u}^{\mu} \bar{u}^{\nu} = -1\) から
$$g_{00} \left(\bar{u}^0\right)^2 + g_{11} \left(\bar{u}^1\right)^2 = -1, \quad \therefore\ \ \left(\bar{u}^1\right)^2 = \epsilon^2 – \left( 1 – \frac{r_g}{r}\right)$$
\(\epsilon\) は \(r = r_i\) のとき \(\bar{u}^1 = 0\) という初期条件から
$$0 = \epsilon^2 – \left( 1 – \frac{r_g}{r_i}\right), \quad \therefore\ \ \epsilon = \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_i}}$$
最終的に
$$\bar{u}^1 = – \sqrt{\left(1 – \frac{r_g}{r_i}\right) – \left(1 – \frac{r_g}{r}\right)} = -\sqrt{\frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i}}$$
$$\bar{u}^{\mu} = \left(\frac{ \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_i}}}{1 – \frac{r_g}{r}}, -\sqrt{\frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i}}, 0, 0\right) $$
静止観測者 \(A\) の4元速度
一方,動径座標 \(r\) の地点に静止している観測者 \(A\) の4元速度の成分を \(u^{\mu}\) とすると
$$u^{\mu} = \left(u^0, 0, 0, 0 \right) = \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right)$$
運動方向の単位ベクトル
静止観測者 \(A\) からみて,動径方向(中心向き)に運動している観測者 \(B\) の運動方向を表す空間的単位ベクトルを \(e^{\mu}\) とすると,\(u_{\mu} e^{\mu} = 0, \ e_{\mu}e^{\mu} = 1\) より,
$$e^{\mu} = \left(0, e^{1}, 0, 0\right) = \left(0, – \sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}, 0, 0\right)$$
4元速度の合成則
静止観測者 \(A\) からみると,動径座標 \(r\) の地点を通過する瞬間の観測者 \(B\) は,動径方向へ速さ \(V\) で運動している。したがって,特殊相対論のときに紹介した4元速度の合成則がここでも成り立ち,以下のように書ける。
$$\bar{u}^{\mu} = \frac{1}{\sqrt{1 – V^2}} u^{\mu} + \frac{V}{\sqrt{1 – V^2}} e^{\mu} $$
具体的な成分を使って書くと,
\begin{eqnarray}
\bar{u}^{\mu} &=& \left(\frac{ \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_i}}}{1 – \frac{r_g}{r}}, -\sqrt{\frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i}}, 0, 0\right) \\
&=& \frac{1}{\sqrt{1 – V^2}} \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right) +
\frac{V}{\sqrt{1 – V^2}} \left(0, – \sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}, 0, 0\right) \\
&=& \frac{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r_i}} }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r}} } \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right) +
\frac{ \sqrt{ \frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i} } }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r}} } \left(0, – \sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}, 0, 0\right)
\end{eqnarray}
したがって,
\begin{eqnarray}
\frac{1}{\sqrt{1 – V^2}} &=& \frac{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r_i}} }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r}} } \\
\frac{V}{\sqrt{1 – V^2}} &=& \frac{ \sqrt{ \frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i} } }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r}} } \\
\therefore\ \ V &=& \frac{ \sqrt{ \frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i} } }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r_i}} }
\end{eqnarray}
と \(V\) を求めることができる。
これが静止観測者 \(A\) が測定する,目の前を通過する瞬間の自由落下運動する観測者 \(B\) の3元的速さである!と思いますが,いかがでしょうか。
ニュートン力学的類推
ちなみに,自由落下する速さをニュートン力学的類推から求めてみると,力学的エネルギー保存則から
$$\frac{1}{2} m v^2 – \frac{GMm}{r} = \mbox{const.}$$
\(r = r_i\) で \(v = 0\) とするなら
\begin{eqnarray}
v^2 – \frac{2GM}{r} &=& – \frac{2GM}{r_i} \\
\therefore\ \ v &=& \sqrt{ \frac{r_g}{r} – \frac{r_g}{r_i} }\quad (r_g \equiv 2GM)
\end{eqnarray}
と評価される。このようにニュートン力学的類推で評価した \(v\) は上記で求めた \(V\) と分母の部分だけ異なっていることに注意。
ただし,初期位置が十分遠方である \( r_i \gg r\) とすると,\(r_i \rightarrow \infty\) として,ニュートン力学的類推で評価した \(v\) は
$$v \simeq \sqrt{ \frac{r_g}{r} }$$
上記で求めた \(V\)も
$$V \simeq \sqrt{ \frac{r_g}{r} }$$
となり,\( v \simeq V\) としてよい。