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光の4元ベクトル

光の諸量をあらわす4元波数ベクトルについて。

ベクトルの表記

3次元ベクトルは \(\vec{k}\) で表し,アインシュタインの規約を使って
\(\vec{k} =  k^i \,\vec{e}_i, \ \   k^i = (k_x, k_y, k_z) \ \ \mbox{あるいは} \ \ \vec{k} = (k_x, k_y, k_z) \)

4元ベクトルは \(\boldsymbol{k}\) で表し,
\(\boldsymbol{k}= k^{\mu} \,\boldsymbol{e}_{\mu}, \ k^{\mu} =  (k^0, k^i) = (k^0, \vec{k}) \)

ベクトルの内積

3次元ベクトルの内積は
$$\vec{k}\cdot\vec{k} = k_x^2 + k_y^2 + k_z^2$$4元ベクトルの内積は(特殊相対論では)
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{k} &=& \left(k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\right) \cdot \left(k^{\nu} \boldsymbol{e}_{\nu}\right) \\
&=& \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}\,  k^{\mu} k^{\nu} \\
&=& \eta_{\mu\nu} \, k^{\mu} k^{\nu} \\
&=& – \left(k^0\right)^2 + \left(k^1\right)^2 + \left(k^2\right)^2 + \left(k^3\right)^2
\end{eqnarray}

光の諸量

光(一般に電磁波)の諸量のまとめ

  • 波長:\(\lambda\) 単位 \(\mbox{m}\) (メートル)。波1個分の長さを表す。
  • 周期:\(T\) 単位 \(\mbox{s}\)(秒)。一回振動するのにかかる時間を表す。
  • 波の速さ: 一般に \( \lambda / T \) が波の速さ。ここでは光だから光速を \(c\) として
    $$ \frac{\lambda}{T} = c$$
  • 振動数:\(\nu\) 単位 \(\mbox{Hz} = \mbox{s}^{-1}\)(ヘルツまたは毎秒)。周期 \(T\) の逆数で与えられ,単位時間に何回振動するかを表す。周波数とも。$$ \nu = \frac{1}{ T}, \quad\therefore \ \ \frac{\lambda}{T}\  = \lambda\,\nu = c$$
  • 角振動数:\(\omega\) 単位 \( \mbox{rad}/\mbox{s} \)(ラジアン毎秒)。振動数に \(2\pi\) ラジアンを乗じたもので,単位時間に何ラジアン位相が変化するかを表す。業界によっては,しばしば「角」を省略して単に「振動数」と言う傾向がある。(私のまわりだけ?かも。)
    $$ \omega = 2\pi \nu$$
  • 波数:\(\tilde{\nu}\) 単位 \( \mbox{m}^{-1} \)(毎メートル)。波長の逆数 \( 1/\lambda \) で与えられ,単位長さあたりの波の個数を表す。$$\tilde{\nu} = \frac{1}{\lambda}$$
  • 角波数:\(k\) 単位 \( \mbox{rad}/\mbox{m} \)(ラジアン毎メートル)。波数に \(2\pi\) ラジアンを乗じたもので,単位長さあたり何ラジアン位相が変化するかを表す。業界によっては,しばしば「角」を省略して単に「波数」と言う傾向がある。(私のまわりだけ?かも。)
    $$ k = 2\pi \tilde{\nu} = \frac{2\pi}{\lambda} $$
  • 角波数ベクトル:\(\vec{k}\) ベクトルの向きが光の伝播する向きを表し,その大きさは「角波数」\(k\) を表す。しばしば「角」を省略して単に「波数ベクトル」と言う傾向がある。
    (私のまわりだけ?かも。)
    $$ \sqrt{\vec{k} \cdot\vec{k}} = k = \frac{2 \pi}{\lambda}$$

諸量の間の関係をまとめると,

\begin{eqnarray}
\lambda\,\nu &=& c\\
\omega &=& 2\pi\nu = \frac{2\pi}{T} \\
k &=& \frac{2\pi}{\lambda} = \frac{\omega}{c}
\end{eqnarray}

光の伝播を表す4元波数ベクトル

光が伝播する世界線を \(x^{\mu}(v)\),その接ベクトルの成分を \(\displaystyle k^{\mu}\equiv \frac{dx^{\mu}}{dv}\) とする。ここで \(v\) はアフィンパラメータ

光は光速 \(c\)  で伝播することから,\(k^{\mu}\) を成分とする光の4元ベクトル \(\boldsymbol{k}\) はヌルベクトル
$$\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{k} = \eta_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu} = k_{\mu} k^{\mu} = 0 $$
であることがわかる。以下はその説明。

光の4元ベクトルがヌルベクトルであること

時刻 \(t\) に点 \(P (x^i)\) から出た光が,時刻 \(t+dt\) に点 \(Q (x^i + dx^i) \) に到達する。光速は \(c\)  であるから,
$$\left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dz}{dt}\right)^2 =
\delta_{ij} \frac{dx^i}{dt} \frac{dx^j}{dt} = c^2 $$
$$\therefore -c^2 \,dt^2 + \delta_{ij} dx^i dx^j = 0$$
$$\eta_{\mu\nu} dx^{\mu} dx^{\nu} = 0$$
$$\eta_{\mu\nu} \frac{dx^{\mu}}{dv} \frac{dx^{\nu}}{dv} = 0$$
$$\therefore\ \   \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{k} = \eta_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu} = k_{\mu} k^{\mu} = 0$$
ここで,\( k_{\mu} = \eta_{\mu\nu} k^{\nu}\) とした。

\(\boldsymbol{k}\) のように,

  • 自分自身との内積がゼロとなるようなベクトルヌルベクトルという。

ちなみに,MTW 流の sign convention \((-, +, +, +) \) では

  • 自分自身との内積が負の値になるベクトル時間的ベクトル
  • 自分自身との内積が正の値になるベクトル空間的ベクトルという。

光の4元波数ベクトルの成分

特殊相対論的状況では,静止している観測者にとっては, \(k^0\) が光の角振動数 \(\omega\) を光速 \(c\) でわったもの, \(k^i\) が光の波数ベクトル \(\vec{k}\) を表す。

さすがに面倒になってきたので,以後は \(c = 1\) とする。

$$ k^{\mu} = \left(k^0,k^i \right) = \left(\frac{\omega}{c}, \ \vec{k} \right) \Rightarrow \left(\omega, \ \vec{k} \right)\quad (\because c = 1)$$

角振動数 \(\omega\) の単位は \(\mbox{rad}/\mbox{s}\)(ラジアン毎秒)。
波数ベクトル \(\vec{k}\) の大きさである波数 \(k \equiv \sqrt{\vec{k}\cdot\vec{k}}\) の単位は rad/m(ラジアン毎メートル)。
振動数 \(\nu\),周期 \(T\),波長 \(\lambda\) との関係は,
\begin{eqnarray}
\omega &=& 2\pi\nu = \frac{2\pi}{T}\\ \ \\
k &=& \frac{2\pi}{\lambda} = \frac{\omega}{c} \Rightarrow \omega \quad (\because c = 1)
\end{eqnarray}

したがって,波数ベクトル \(\vec{k}\) をその大きさ \(k\) と向きを表す単位ベクトル \(\vec{\gamma}, \ \ \vec{\gamma}\cdot\vec{\gamma}=1\) で表すと
$$ k^{\mu} = (k^0, \vec{k}) = (\omega, \omega \vec{\gamma}) = \omega (u^{\mu} + \gamma^{\mu})$$

ここで,
$$u^{\mu} \equiv (1, 0, 0, 0)$$
は静止観測者の4元速度,
$$\gamma^{\mu} = (0, \ \vec{\gamma})$$
は \(u^{\mu}\) に直交する(つまり \(\eta_{\mu\nu} u^{\mu} k^{\nu} = 0\))空間的単位ベクトル(つまり \( \eta_{\mu\nu} \gamma^{\mu} \gamma^{\nu} = 1 > 0\))であり,光の伝播する向きをあらわす。

観測者の4元速度に基づいた \( \boldsymbol{k}\) の \(3+1\) 分解

上記のようにして導いた4元ベクトルで表した関係は,観測者の静止座標系だけでなく,一般的に成り立つ。

つまり,光の伝播を表す4元波数ベクトル \(\boldsymbol{k} \) は,時間的単位ベクトルである観測者の4元速度 \(\boldsymbol{u}\) と,\(\boldsymbol{u}\) に直交する空間的単位ベクトル \(\boldsymbol{\gamma}\) を使って,一般的に以下のようにかける。
$$ \boldsymbol{k}  = \omega (\boldsymbol{u} + \boldsymbol{\gamma})$$
$$\boldsymbol{u} \cdot\boldsymbol{u} =-1, \ \boldsymbol{u} \cdot\boldsymbol{\gamma} = 0, \ \boldsymbol{\gamma} \cdot\boldsymbol{\gamma} =1$$
ここで \(\omega\) は4元速度 \(\boldsymbol{u}\) の観測者が測定する光の角振動数であり,
$$\omega = – \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{u}$$
なお,以下では簡単のために \(\omega\) を単に(「角」振動数の「角」を省略して)「振動数」と呼ぶ。

\( k^{\mu} = \omega (u^{\mu} + \gamma^{\mu})\) の別の導出法

\( k^{\mu} = \omega (u^{\mu} + \gamma^{\mu})\) という関係は,何も \(u^{\mu} = (1, 0, 0, 0)\) となるような観測者の静止座標系を持ち出さなくても,以下のようにして一般的に求められる。

光の伝播を表す4元波数ベクトル \(k^{\mu}\) を観測者の4元速度 \(u^{\mu}\) に平行な成分と垂直な成分に分解する。
\begin{eqnarray} k^{\mu} &=& \delta^{\mu}_{\ \ \nu} k^{\nu} \\
&=& \left\{ -u^{\mu} u_{\nu} + \left( \delta^{\mu}_{\ \ \nu} + u^{\mu} u_{\nu}\right) \right\}k^{\nu} \\
&=& (-k_{\nu} u^{\nu}) u^{\mu} + P^{\mu}_{\ \ \, \nu} \,k^{\nu} \\
&=& \omega \, u^{\mu} + k^{\mu}_{\perp}
\end{eqnarray}
ここで,\(\omega \equiv -k_{\nu} u^{\nu} \) は観測者 \(u^{\mu}\) が測定する振動数, \(k^{\mu}_{\perp}\) は \(u^{\mu}\) に垂直な空間的成分であり,その大きさは,
\begin{eqnarray}
\sqrt{g_{\mu\nu} k^{\mu}_{\perp} k^{\nu}_{\perp}} &=& \sqrt{P_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu}} \\
&=& \sqrt{(g_{\mu\nu} + u_{\mu} u_{\nu}) k^{\mu} k^{\nu}}\\
&=& \sqrt{0 + (u_{\mu} k^{\mu})^2} = \omega
\end{eqnarray}
したがって,\(k^{\mu}_{\perp}\) はその大きさ \(\omega\) と,向きを表す空間的単位ベクトル \(\gamma^{\mu}\) を使って,
$$ k^{\mu}_{\perp} = \omega\, \gamma^{\mu}, \quad \gamma_{\mu} u^{\mu} = 0, \ \ \gamma_{\mu} \gamma^{\mu} = 1$$
と書ける。最終的に,
$$ k^{\mu} = \omega\, u^{\mu} + k^{\mu}_{\perp} = \omega (u^{\mu} + \gamma^{\mu})$$
4元ベクトル表記では,
$$ \boldsymbol{k}  = \omega (\boldsymbol{u} + \boldsymbol{\gamma})$$

追記

このサイトでは当初,$\boldsymbol{k} = k^{\mu} \,\boldsymbol{e}_{\mu}$ を「光の4元ベクトル」と呼んでいたかもしれないが,その空間成分が3次元の波数ベクトルの成分に相当することから,「光の4元波数ベクトル」と呼んだ方が,よりはっきりとわかるかと。

なお,一部の教科書では,光のドップラー効果を説明する際に,「光子」の4元運動量 $\boldsymbol{P}$ に対するローレンツ変換を使う場合がある。量子論的知見により,「光子」の4元運動量 $\boldsymbol{P}$ と「光の4元ベクトル」$\boldsymbol{k} $ の間には以下のような比例関係がある。

$$\boldsymbol{P} = \hbar\, \boldsymbol{k} $$

ここで $\displaystyle \hbar\equiv \frac{h}{2\pi}$ は「エイチ・バー」と読み,「換算プランク定数」などと呼ばれる。$h$ が「プランク定数」そのもの。

光子と $h$ にまつわる余談

「光子」で思い出すのは20世紀の昔の高校時代。高3の同じクラスには,物理選択クラスだけあって「光子」さんも「陽子」さんもいた。(さすがに電子さんとか中性子さんとはいなかったが。)

「プランク定数」で思い出すのは,D論審査時の発表会。指導教員を含む全ての物理学専攻教授の前で発表したときの質問:「君,その $h$ はプランク定数かね?」その心は…

ハッブル定数を $H_0 = 100\, h \,\mbox{km/s/Mpc}$ と書いたときの $h$ (規格化したハッブル定数)でした,というオチ。