2020年度の基礎物理学実験(1)~地球環境防災学科

2020年は新型感染症が世の中の物事を大きく変えた1年でした。当然ながらその影響は大学教育にも及び、私がかかわっている「基礎物理学実験」においても、従来とは違った形で実施することを余儀なくされました。

本連載では、「基礎物理学実験」の各科目がどのように行われたのかを後生に残すことを目指します。第1回は、前期に開講された地球環境防災学科の「基礎物理学実験」を取り上げます。

従来(対面授業)の実施形態

  • 10題目を実施。
  • 各題目を、教員、Teaching Assistant(TA)、技術職員のいずれか1名が担当する。
  • 各受講者は、7題目(年によって6題目)の実験を行う。
  • 1題目を2週で行う。
  • 受講者は2週目の時間内に、担当者による実験レポートの確認、ならびに口頭試問を受ける。それをパスすることで実験レポートが受理される。

2020年度(メディア授業)の実施形態

本学では前期は原則として全ての科目をメディア授業(オンライン授業)として行うことになりました。そのため、本科目を後期に開講、あるいは集中講義として開講することが検討されたようですが、結局6月からメディア授業として実施することになりました(本学の授業開始は5月だったが、5月中の本科目は全て休講となっていた)。

  • 6題目のみを実施。
  • 各受講者は6題目全ての実験を、ローテーションで行う。
  • 1題目を2週で行う。
  • 第1週は、各担当者(もしくは教員)が用意した動画、資料により実験の内容を理解し、与えられた測定データ等を用いてその処理を行う。測定データは全受講者に対して共通のものである。
  • 各受講者は、第2週の開始時までに、レポートをオンラインで提出する。レポートの設問は、実験課題や考察課題に対応するものである。
  • 第2週は、各受講者に対して提出されたレポートをもとに個別指導を行う。内容は従来の口頭試問と同様であるが、必ずしも口頭でなくてよいというニュアンスで、各受講者の環境に応じて、オンライン通話、もしくは文字チャットで行う。それをパスすることでレポートが(正式に)受理される。

所感

個別指導の実施

対面授業の場合は、私は2題目を担当しており、受講者としては8~12名になります。今年は各題目に9名ほどの受講者を割り当てる形になったので、口頭試問(個別指導)の担当人数としては大差がありませんでした。

メディア授業の場合は、提出されたレポートを2週目の授業より前に確認し、フィードバックを返すことができます。そのため、ある程度”仕込みを済ませた”状態で2週目の授業を迎えることができます(ただしそれは私の状況だから可能だったのであり、多忙な教員や勤務時間が決まっているTAは、そういうことをやりにくいとは思います)

またメディア授業でのレポートは、実験レポートから「原理」や「手順」を省いたものになり、さらに測定データの妥当性もある程度は保証されています。

以上の2点から考えると、メディア授業における個別指導は対面授業における口頭試問よりもスムーズにできそうですが、オンラインならではの対話のやりにくさや、接続のためのタイムロスなどがあったことを考えると、結局対面授業の場合と同じくらいの時間がかかっていたというのが実感です。

9割程度の受講者は通話により口頭で対応することができましたが、1割程度の受講者が文字チャットでの対応となりました。文字チャットでは口頭に比べて、やりとりの情報量が減ってしまいますが、実験の内容に関して最低限の理解度を確認することは達成できたと考えています。

オンライン用の素材について

私が担当したのは「スペクトル」という、各種の光源に対して分光器での出力を観察する題目でした。分光器の出力を直接目視で見るのと、(デジタルな素子で)撮影した結果を見るのとでは、色や強度についてギャップがあることがわかりました(RGBの各信号の合成が、自然光に対して最適化されているためなのでしょう)。そういう意味では、この題目はぜひライブで体験して欲しいものであるということを実感することができました。

測定データが共通であること

(本節は2021-3-11に追加しました。)測定データを共通にすると手抜きに走る受講者が現れる可能性があり、それを嫌って複数セットの測定データを用意するということが、この形態の授業ではしばしば行われます。本科目ではそれを行っていませんが、レポートをチェックしたときの感触では、大部分の受講者はきちんと自力で取り組んでいたように感じました。ただし、通常重複すると考えにくいようなミステイクを、同じ週の受講者2人について見つけたことがありました。

(余談)動機

このような記事を投稿しようと思いついたのは、総合技術研究会2021東北大学の交流企画に参加(聴講?)して、東北大学を中心とした各大学の学生実験科目について情報を得たのがきっかけです。交流企画では貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。