最近,Google や Bing や DuckDuckGo で「横ドップラー効果」を検索すると,以下の私のページが出てくるようになったので,もう少し。
横ドップラー効果とは何か?
「横ドップラー効果(ヨコドップラーコウカ)とは? 意味や使い方 – コトバンク」には,以下のような記述がある。
特殊相対性理論的な効果によるドップラー効果。光の場合、光源の視線速度方向の運動とは別に、光源の時間の進み方が遅れることによって波長が伸び、赤方偏移した光が観測される現象を指す。横のドップラー効果。
ツッコミどころ
上記の記述は辞典的な説明として簡潔かつ要点を得たもので,本来とやかく言うものではないが,ウチの四年生向けに,このような模範的な説明のなかにも,いろいろとツッコミどころがあるのだよという話。(決してこの模範的な説明にいちゃもんをつけているわけではありません,念のため。この模範的説明が想定している状況を理解し,想定していない状況でも横ドップラー効果はおこるのだという指摘をする練習ですよ。)
「特殊相対論的効果」と限定するのは言い過ぎでは?
重力がある場合,特殊相対論ではなく,一般相対論が必要になる。過去の四年生の卒研で,以下のページにまとめているように,重力場中を運動する場合にも横ドップラー効果が起こることが示されている。したがって,重力がある一般相対論的状況でもおこる横ドップラー効果を「特殊相対論的効果」と限定するのは,いかがなものか。
「光源の時間の進み方が遅れることによる」と断定するのは言い過ぎでは?
光源が運動している場合,運動する時計はゆっくり進むという特殊相対論的効果により,光源の時間の進み方が遅れ,そのため,観測者に対する光源の視線方向の速度成分がゼロであっても波長が伸びる,という説明かと思うが,果たしてこれで十分か?
光源が静止し,観測者が運動する場合であっても横ドップラー効果はおこる。このことは以下のページにもまとめてある。光源が静止しつづけているのに「光源の時間の進み方が遅れるから」という説明では,横ドップラー効果の説明として十分であろうか?
「視線速度方向の運動とは別に」って?
おそらく,「運動する光源の,観測者からみた視線方向の速度成分がゼロであっても」ということを言いたいのだと思う。しかし,光の入射角は観測者の運動速度に依存して変化する。このことは「光行差」としてよく知られている。
つまり,観測者からみて「真横」 $\displaystyle \theta = \frac{\pi}{2}$ であっても,別の視点から見ると「真横」ではないということが大いにある。以下のページに書いたように,光源静止系からみると,観測者がみるところの「横ドップラー効果」というのは,光源から遠ざかる速度成分をもった観測者が観測しているのだから,定性的に振動数が小さくなり波長が伸びるのだ,という解釈も可能となる。なので真横だとかいう角度に基づいた説明は観測者依存の考えであるから,別の観測者では異なった角度になり,説明として十分であるのか,というツッコミである。
なので,横ドップラー効果とは何か?について,(未検証だが)以下のような言い方もできるのではないかと考えている。
観測者からみて,光源の相対速度がゼロの瞬間に観測された光は,相対速度がゼロの瞬間に放射された光ではないですよ。相対的に遠ざかっている速度成分がある時期に放射された光をみているのだから,振動数が小さくなるのは定性的に当たり前ですよ,とか。