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特殊相対論における光の伝播

特殊相対論では,光は真空中を座標系によらない速度である光速 \(c\) で直進する。言い換えると,光の経路はヌル測地線で与えられることになる。

光の4元ベクトル

まず,ミンコフスキー時空中の光の経路を表す世界線  \(x^{\mu}(v)\) を考える。ここで \(v\) はアフィンパラメータである。

この世界線の接ベクトル \(\boldsymbol{k} \) が,光の伝播を表す4元ベクトルであり,その成分 \(k^{\mu}\) と基本ベクトル \(\boldsymbol{e}_{\mu}\) を使って
$$ \boldsymbol{k} = k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu} \equiv \frac{dx^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu}$$
と書く。

ヌル測地線

まっすぐな線」とは,世界線にそって接ベクトルが一定であるような線のことであり,光に対しては
$$\frac{d\boldsymbol{k}}{dv} = \boldsymbol{0}$$
となる。特殊相対論に限らず一般相対論においても,このように世界線にそって接ベクトルが一定である線を測地線と呼ぶ。接ベクトルをアフィンパラメータで微分してゼロというこの式を(アフィンパラメータ \(v\) でパラメトライズされた)測地線方程式と呼ぶ。

また,光の4元ベクトル \( \boldsymbol{k} \) はその「大きさ」の2乗,つまり(自分自身との内積)がゼロとなるヌルベクトルであり,このことは光速不変性からきているのであった。(光の4元ベクトルのページを参照。)

$$ \boldsymbol{k}\cdot \boldsymbol{k} = \eta_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu} = 0$$

特殊相対論における光の振動数・波数の一定性

測地線方程式は,
\begin{eqnarray}\frac{d\boldsymbol{k}}{dv} =
\frac{d}{dv} \left( k^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\right)
&=& \frac{dk^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu} + k^{\mu}\frac{d\boldsymbol{e}_{\mu}}{dv} \\
&=& \frac{dk^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu} + k^{\mu}\frac{\partial\boldsymbol{e}_{\mu}}{\partial x^{\nu}} \frac{dx^{\nu}}{dv}\\
&=& \frac{dk^{\mu}}{dv} \boldsymbol{e}_{\mu} + k^{\mu} \, \boldsymbol{e}_{\mu , \nu} \, k^{\nu} = 0
\end{eqnarray}
となる。 \( x^{\nu}\) に関する偏微分を \( \boldsymbol{e}_{\mu , \nu}\) と書くのは簡略的表記法である。偏微分の簡略表記法の項を参照。

特殊相対論においては,ミンコフスキー計量を使って,
$$\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} = \eta_{\mu\nu} = \mbox{diag}(-1, 1, 1, 1)$$ であるから,座標基底 \(\boldsymbol{e}_{\mu}\) は座標依存性を持たず,一定であり
$$\boldsymbol{e}_{\mu , \nu} = \boldsymbol{0}$$
結局,
$$\frac{dk^{\mu}}{dv} = 0, \ \ \mbox{i.e.}, \ \ k^{\mu} = \mbox{const.}$$
が導かれる。一般的には,ベクトルを微分する際,ベクトルの成分の微分だけでなく,基本ベクトルの微分も考慮する必要があるのだが,この場合のように,特殊相対論においてミンコフスキー座標系の場合には,基本ベクトル(座標基底)は一定であるので,ベクトルの成分の微分のみを考えればよいことになる。

4元速度が \(\boldsymbol{u} = u^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\), \(u^{\mu} = (1, 0, 0, 0)\) である観測者(この場合は特に静止観測者である)が観測する光の振動数 \(\omega\) は

$$\omega \equiv – \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{u} = – \eta_{\mu\nu}k^{\mu} u^{\nu} = k^0 = \mbox{const.}$$
となり,振動数  \(\omega\) が一定であることがわかる。

静止観測者に限らず,一般に4元速度 \(\boldsymbol{u}\) であらわされる観測者が4元波数ベクトル $\boldsymbol{k}$ であらわされる光を観測した場合に測定される光の振動数を
$$\omega = – \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{u}$$
と書くのは,一般相対論的状況でも有効である。この式によって,ローレンツ変換によらずに特殊相対論的効果である光のドップラー効果を理解できるだけでなく,重力が存在してローレンツ変換が使えない場合にも,一般相対論的な振動数の変化である重力赤方偏移が理解できるようになる。

また,この静止観測者が観測する光の進行方向を表す単位ベクトル \(\gamma^{\mu}\) は,\(\boldsymbol{u} \) に直交する3次元超曲面へ射影する \(P^{\mu}_{\ \ \nu} = \delta^{\mu}_{\ \ \nu} + u^{\mu} u_{\nu}\) を使って

$$\gamma^{\mu} \equiv \frac{P^{\mu}_{\ \ \nu} k^{\nu}}{\omega} = (0, \vec{\gamma})$$
$$\vec{\gamma} = \left( \frac{k^1}{\omega}, \frac{k^2}{\omega}, \frac{k^3}{\omega}\right) = \mbox{const.}$$
となり,$\vec{\gamma}$ も一定であることから,進行方向(したがって,波数ベクトルの向き)も一定,つまり光は直進するということになる。