光の経路を決める式は,一般には解析的な厳密解を求めることができない。ここでは,光の経路のいたるところで重力場が弱いという近似のもと,光の経路を摂動法により近似的に解く。
シュバルツシルト時空
$$ ds^2 = -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) c^2 dt^2 + \frac{dr^2} {1-\frac{r_g}{r}} + r^2(d\theta^2 + \sin^2\theta d\varphi^2)$$
ここで \(\displaystyle r_g \equiv \frac{2 G M}{c^2} \) は重力半径(またはシュバルツシルト半径)。以後は特に断らない限り,\(c = 1\) とする。
シュバルツシルト時空中の光の経路を決める式
$$ \frac{1}{r} \equiv u$$
と変数変換してやると,
\begin{eqnarray}
\left(\frac{du}{d\phi}\right)^2
&=& \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 -u^2 + r_g \,u^3
\end{eqnarray}
これが光の経路を決める式であった。(「シュバルツシルト時空中の光の伝播」を参照。)ここで,光の4元ベクトル \(\boldsymbol{k}\) の成分 \(k^{\mu}\) について
$$ k^0 = \frac{\omega_c}{1 -\frac{r_g}{r}}, \quad k^2 = 0 \ \left( \theta = \frac{\pi}{2}\right), \quad
k^3 = \frac{d\phi}{dv} = \frac{\ell}{r^2}$$
(\(\ell = 0\) の場合は \(\phi\) が一定となる経路であり,\(r=0\) という大変なところを通ることになりそうなので除外している。つまり,$\ell \neq 0$)
$r$ が最小値 $b$ をもつ場合には,$\displaystyle r = b$ すなわち $\displaystyle u = \frac{1}{b}$ で $\displaystyle \frac{du}{d\phi} = 0$ だから
\begin{eqnarray}
0 &=& \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 -\left(\frac{1}{b}\right)^2 + r_g \,\left(\frac{1}{b}\right)^3 \\
\therefore\ \ \left(\frac{\omega_c}{\ell}\right)^2 &=& \left(\frac{1}{b}\right)^2 -r_g \,\left(\frac{1}{b}\right)^3
\end{eqnarray}
したがって,最近接距離 $b$ を使ってあらためて書くと
$$\left(\frac{du}{d\phi}\right)^2
= \frac{1}{b^2} -u^2 + r_g \left(\,u^3 -\frac{1}{b^3}\right)$$
この式を近似的に解くことになる。
\(r_g\) のゼロ次解
光の経路のいたるところで重力場が弱い,すなわち光の経路 \(r\) は重力半径 $r_g$ の十分外側であるという状況では, \(\displaystyle 0 < \frac{r_g}{r} = r_g u \ll 1\) としてよい。また,最近接距離 \(b\) も重力半径の十分外側であるとして \(\displaystyle 0 < \frac{r_g}{b} \ll 1\) 。
そこで $r_g$ の項を無視した場合の解を $u_0$ とおくと
$$\left(\frac{du_0}{d\phi}\right)^2
= \frac{1}{b^2} -u_0^2$$
この微分方程式は2年生の時の授業「簡単な1階非線形微分方程式の例」でやってます。初期条件を $\displaystyle \phi = \frac{\pi}{2}$ のとき $\displaystyle u_0 = \frac{1}{b}$ とすると
$$ u_0 = \frac{\sin\phi}{b}$$
\(r_g\) の1次解
$r_g$ の1次の効果を取り入れた解を
$$ u = u_0 + \frac{r_g}{b} \,u_1(\phi) = \frac{\sin\phi}{b}+ \frac{r_g}{b}\,u_1(\phi)$$
とおいて微分方程式に代入し,\(r_g\) の1次の項を取り出すと,
\begin{eqnarray}
\left(\frac{\cos\phi}{b} + \frac{r_g}{b} \frac{du_1}{d\phi} \right)^2 &=&
\frac{1}{b^2} -\left( \frac{\sin\phi}{b} + \frac{r_g}{b} u_1\right)^2
+ r_g \left( u_0^3 -\frac{1}{b^3}\right) \\
2 \frac{\cos\phi}{b}\, \frac{r_g}{b}\, \frac{d u_1}{d\phi} &=&
-2 \frac{\sin\phi}{b} \, \frac{r_g}{b}\, u_1 + r_g \left(\frac{\sin^3\phi}{b^3} -\frac{1}{b^3}\right) \\
\therefore\ \ \cos\phi\cdot \frac{d u_1}{d\phi} + \sin\phi\cdot u_1 &=& \frac{\sin^3\phi -1}{2 b}
\end{eqnarray}
これは以下のようにして解ける。1年生の授業の「練習問題 4.」も参照。
\begin{eqnarray}
\cos\phi\cdot \frac{d u_1}{d\phi} + \sin\phi\cdot u_1 &=& \frac{\sin^3\phi -1}{2 b} \\
\cos^2\phi \cdot \frac{d}{d\phi} \left( \frac{u_1}{\cos\phi}\right) &=& \frac{\sin^3\phi -1}{2 b} \\
\therefore\ \ u_1 &=& \frac{\cos\phi}{2 b} \int \frac{\sin^3\phi -1}{\cos^2\phi }\, d\phi \\
&=& \frac{1}{2b} \left( 2 -\sin\phi -\sin^2\phi\right)
\end{eqnarray}
したがって,$r_g$ の1次までの解は
$$u = u_0 + \frac{r_g}{b} u_1 = \frac{\sin\phi}{b} + \frac{r_g}{2 b^2} \left( 2 -\sin\phi -\sin^2\phi\right)$$