Return to 重力場中のテスト粒子の運動

固有時間をアフィンパラメータとする測地線方程式

重力以外の力を受けずに運動するテスト粒子の経路は測地線であり,固有時間 \(\tau\) をアフィンパラメータとして以下のように書けることをまず示しておく。

$$ \frac{d\boldsymbol{u}}{d\tau} =  \frac{d}{d\tau} \left( \frac{dx^{\mu}}{d\tau}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \boldsymbol{0}$$

アフィンパラメータの変換

重力以外の力を受けずに運動するテスト粒子の経路は測地線であり,アフィンパラメータを \(v\) ,世界線を \(x^{\mu}(v)\),接ベクトルを \(\boldsymbol{u}\) と書くと
$$ \frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = \frac{d}{dv} \left( u^{\mu}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \frac{d}{dv} \left( \frac{dx^{\mu}}{dv}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \boldsymbol{0}$$

これがアフィンパラメータ \(v\) でパラメトライズされた測地線方程式であった。

アフィンパラメータ \(v\) のかわりに

$$ w = w(v), \quad \frac{d}{dv} = \frac{dw}{dv} \frac{d}{dw}$$ で定義される別のパラメータ \(w\) を使うと,

\begin{eqnarray}
\frac{d}{dv} \left( \frac{dx^{\mu}}{dv}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) &=&
\frac{dw}{dv} \frac{d}{dw} \left(\frac{dw}{dv} \frac{dx^{\mu}}{dw}\,\boldsymbol{e}_{\mu} \right) \\
&=& \left( \frac{dw}{dv}\right)^2 \frac{d}{dw} \left( \frac{dx^{\mu}}{dw}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) + \frac{dw}{dv}\frac{d^2w}{dv^2}\frac{dx^{\mu}}{dw}\,\boldsymbol{e}_{\mu} \\
&=& \boldsymbol{0}
\end{eqnarray}

したがって,\(w\) が$$w = a v + b \quad\mbox{(\(a, b\) は定数)}$$というアフィン変換で変換されるパラメータであれば,\(\displaystyle \frac{d^2w}{dv^2} = 0\) だから
$$ \frac{d}{dw} \left( \frac{dx^{\mu}}{dw}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \boldsymbol{0}$$
つまり,\(w\) もまた,この測地線アフィンパラメータであることがわかる。

固有時間がアフィンパラメータであること

固有時間 \(\tau\) (の微小変位 \(d\tau\))は以下のように定義される。

$$ds^2 = g_{\mu\nu} dx^{\mu} dx^{\nu} \equiv – c^2 d\tau^2$$

以下では \(c = 1\) として話を続ける。まずは一般に \(v\) をアフィンパラメータ,粒子の世界線の接ベクトルを \(\boldsymbol{u}\) とすると
$$ \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u} = g_{\mu\nu} \frac{dx^{\mu}}{dv} \frac{dx^{\nu}}{dv} = – \left( \frac{d\tau}{dv}\right)^2 $$

これを \(v\) で微分して
$$\frac{d}{dv} \left( \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u}\right) = 2 \boldsymbol{u}\cdot\frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = -2 \frac{d\tau}{dv} \frac{d^2\tau}{dv^2} $$

測地線方程式 \(\displaystyle \frac{d\boldsymbol{u}}{dv} = \boldsymbol{0}\) より,
$$\frac{d^2\tau}{dv^2} = 0$$ つまり,固有時間 \(\tau\) もまたアフィン変換によって関係づけられたアフィンパラメータであることがわかる。

というわけで,今後はテスト粒子の世界線のアフィンパラメータとしては,固有時間 \(\tau\) を使うことにする。

固有時間をアフィンパラメータとする測地線方程式

重力以外の力を受けずに運動するテスト粒子の経路は,以下のように固有時間 \(\tau\) をアフィンパラメータとした測地線方程式で表される。

$$ \frac{d\boldsymbol{u}}{d\tau} = \frac{d}{d\tau} \left( u^{\mu}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \frac{d}{d\tau} \left( \frac{dx^{\mu}}{d\tau}\,\boldsymbol{e}_{\mu}\right) = \boldsymbol{0}$$

別ページ「測地線と接続係数・クリストッフェル記号」にあるように,測地線方程式を成分で書くと,(アフィンパラメータを \(v\) から \(\tau\) にして)

\begin{eqnarray}
\frac{du^{\mu}}{d\tau} + \varGamma^{\mu}_{\ \ \alpha\beta} u^{\alpha}u^{\beta}
= 0
\end{eqnarray}

あるいは,\(\displaystyle u^{\mu} = \frac{dx^{\mu}}{d\tau}\) を使って,

\begin{eqnarray}
\frac{d^2 x^{\mu}}{d\tau^2} + \varGamma^{\mu}_{\ \ \alpha\beta} \frac{d x^{\alpha}}{d\tau} \frac{d x^{\beta}}{d\tau}
= 0
\end{eqnarray}

世の中の教科書では,測地線方程式は固有時間 \(\tau\) 決め打ちで上記のようになるという説明をし,しかし光の場合は \(d\tau = 0\) だから別のパラメータ(これをアフィンパラメータと呼ぶ),たとえば \(v\) とかを使って測地線方程式を書く,などというショートカットな説明がなされることが多い。本稿での立場はそうではなくて,すべからく測地線方程式というものは,テスト粒子についてであれ光についてであれ,アフィンパラメータを使って書かれるんですよ,特にテスト粒子の場合は固有時間をアフィンパラメータにとることができますよ,という立場で書いてみました。アフィンパラメータでないパラメータでは測地線方程式はどのような形になるか,という練習問題も大学院の授業では出したりします。

共変成分に対する測地線方程式

また,実際の計算の際には,以下のようにして,保存量がわかりやすいように変形した測地線方程式を使うことが便利な場合がある。

測地線方程式基本ベクトル \(\boldsymbol{e}_{\nu} \) との内積をとって

\begin{eqnarray}
0 = \boldsymbol{e}_{\nu}\cdot \frac{d\boldsymbol{u}}{d\tau} &=&
\frac{d}{d\tau} \left( \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} \right) –
\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu, \lambda}\frac{dx^{\lambda}}{d\tau} \\
&=& \frac{d}{d\tau} \left( u^{\mu} \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu} \right) – \boldsymbol{e}_{\mu}\cdot \boldsymbol{e}_{\lambda, \nu} u^{\mu} u^{\lambda} \\
&=& \frac{d}{d\tau} \left( g_{\nu\mu} u^{\mu}  \right) – \frac{1}{2} g_{\mu\lambda, \nu} u^{\mu} u^{\lambda}
\end{eqnarray}

\( u_{\nu} \equiv g_{\nu\mu} u^{\mu} \) とすると, 「共変成分」\(u_{\nu} \) (歴史的には上付添字成分 \(u^{\mu}\) を反変成分とか反変ベクトルなどと呼び,下付添字成分 \(u_{\mu}\) を共変成分とか共変ベクトルなどと呼んでいた)に対する測地線方程式は(添字を書き換えて)

$$\frac{d u_{\mu}}{d\tau} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} u^{\alpha} u^{\beta}$$ となる。

このことから,計量テンソルの成分 \(g_{\alpha\beta} \) がある特定の座標 \(x^{\mu} \) 依存性をもたない場合は,ただちに
$$\displaystyle g_{\alpha\beta, \mu} = 0\quad\Rightarrow\quad \frac{d u_{\mu}}{d\tau} = 0 \quad\Rightarrow\quad u_{\mu} = \mbox{const.} $$
となり下付添字の \(u_{\mu} \) 成分が保存量となることがわかる。

以上のことからわかるように,この「共変成分」に対する測地線方程式は,解析力学におけるラグランジュ方程式に相当し,計量テンソル \(g_{\alpha\beta} \) ,したがってラグランジアンが特定の座標 \(x^{\mu} \) 依存性をもたない場合は, \(x^{\mu} \) は循環座標と呼ばれ,この循環座標に共役な一般化運動量である \(u_{\mu} \) が保存するということを表している。(解析力学を学んだ学生さんには,このような説明がウケるかもしれないが,うちの学科は物理学科ではないので解析力学の授業がなく,ラグランジアンありきの説明は封印。)

4元速度

固有時間 \(\tau\) をアフィンパラメータとするテスト粒子の世界線 \(x^{\mu}(\tau)\) の接ベクトル
$$\displaystyle  \boldsymbol{u} = \frac{dx^{\mu}}{d\tau} \, \boldsymbol{e}_{\mu} $$
4元速度と呼ぶ。4元速度は以下のように規格化されている。

$$ \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{u} = g_{\mu\nu} \frac{dx^{\mu}}{d\tau} \frac{dx^{\nu}}{d\tau} = \frac{ds^2}{d\tau^2} = -c^2 (=-1\quad \because c = 1)$$

参考:テスト粒子とは

ちなみに,テスト粒子とは質量は持つが,その質量が作るあらたな重力場は無視できるような状況をさす。(重力源からの「作用」は受けるが,「反作用」は及ぼさない,という理解でもよい。)
重力源となる天体(質点)が1体のみの場合,これはニュートン力学では1体問題と呼ばれる状況で,テスト粒子の運動は一般的に(楕円軌道などとして)解析的に解けてしまう。

また,ニュートン力学では2つの天体(質点)が互いに重力を及ぼし合って運動する2体問題も1体問題に帰着して厳密に解けるが,3体問題(以上)は(特殊な場合を除き)一般には解析的に解けない。

相対論においては,2体問題はもちろんのこと,1体問題さえも(円軌道動径方向の自由落下等の特殊な場合を除き)一般には解析的な厳密解を求めることができないので,光の経路の場合と同様に,何らかの近似的手法による近似解を求めることになる。

参考:4元速度の共変成分に対する測地線方程式の導出方法

4元速度の下付添字成分である「共変成分」\(u_{\mu} = g_{\mu\nu} u^{\nu}\)  に対する測地線方程式

$$\frac{d u_{\mu}}{d\tau} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} u^{\alpha} u^{\beta}$$

の導出方法のおさらい。