学術雑誌に掲載された論文を機関リポジトリに登録する

だいぶ前の話になりますが、ちょっとした論文を学術雑誌に投稿して掲載されました。それを、弘前大学の機関リポジトリである弘前大学学術情報リポジトリに登録しました。そのときの手続きの流れなどを紹介します。

(※2018年度の話ですので、現在は異なる部分があるかもしれません。)

動機

論文が掲載された雑誌は、日本物理教育学会の東北支部による「東北物理教育」誌です。共著者も私も、論文がより広くアクセスされるようになることを望んでいましたが、残念ながら同誌は論文等のWeb公開をしていません。そういう状況において、機関リポジトリに登録してもらうという方法があることを知ったので、試してみることにしました。

手続き

1. 投稿規定の確認

まずは、掲載誌の投稿規定を確認しましょう。一般的には投稿時に論文の著作権を出版者に譲渡することになります。したがって、著者といえども論文について勝手なことをすることはできません。以下では「東北物理教育」誌を例にとりますが、同誌の投稿規定にも次のような一項があります。

本誌に採録決定された論文等(以下,論文とする)の著作権は日本物理教育学会東北支部(以下,本支部とする)に帰属します。したがって,本支部ホームページへの論文の掲載等については本支部に権利があるとします。

そのため、機関リポジトリにおいて論文の公衆送信をするには、著作権者である雑誌の出版者の許諾を得る必要があります。近年では機関リポジトリも一般的になっていますので、投稿規定にもそれを想定した条項がある場合もあります。逆に掲載からWeb公開の間に(1年とか2年とかの)時間差(エンバーゴ?)を設けているような雑誌では、その期間を過ぎるまでは機関リポジトリへの登録も認められないケースもあります。 幸い、「東北物理教育」誌には以下のような一項がありました。

採録後の掲載論文について,著者の雇用機関による学術教育目的等での非営利利用(雇用機関の被雇用者の論文のみからなる論文集,紀要,本などへの掲載,WWW による公衆送信,複写して配布等を含む)を,本支部は無条件で許諾します。このとき,著者及び雇用機関は本支部に許諾申請をする必要はありませんが,出典(論文誌名,巻号ページ,出版年)を記載しなければなりません。ただし,営利目的の広告の場合等は許諾が必要です。

機関リポジトリへの登録というのは、まさに「著者の雇用機関による」「学術教育目的」での「非営利利用」になります。したがって、出版者に対しては特段の手続きをすることなく、機関リポジトリへの登録をすることができます。

極めて細かいことを言うと、弘前大学学術情報リポジトリには「在籍したことがある職員」の成果も登録することができます(弘前大学在籍中の成果を登録する、という趣旨でしょう)。一方で上記の投稿規定では、「著者の過去の雇用機関」を含んでいないように読み取れます。したがって、退職後の登録に際しては当該支部への明示的な許諾申請が必要になると考えられます。

2. 共著者の承諾

論文に共著者がいる場合は、共著者の承諾が必要な場合があります(というより、無用のトラブルを避けるためにも、ルールとして必要であるか否かにかかわらず、共著者の承諾を得ておくべきでしょう)。弘前大学学術情報リポジトリの場合は、根拠となる規則等はよくわかりませんでしたが、登録許諾書(後述)には注意事項として以下の記述があります。

共著者がいる場合は,共著者の許諾を得た上で,提出願います.

3. 登録許諾書の提出

ここまで明示していませんでしたが、「学術情報リポジトリに登録する」の主語は、管理者である附属図書館(もしくは附属図書館長?)ということになります。論文等の著者は、管理者がその論文を学術情報リポジトリに登録するのを「許諾する」という立場になるので、「登録許諾書」というものを提出するのです。

本学の場合は、附属図書館長宛に登録許諾書を提出します。論文ファイルの形式はいろいろ対応しているようですが、PDF形式が無難なのでしょう。

学術論文には出版までの段階に応じて、プレプリント(査読前の原稿)、ポストプリント(査読を受けての著者最終稿)、出版社版などがあります。どれを機関リポジトリに登録していいのかは、投稿規定で指定されている場合もありえますが、特に指定がない場合はポストプリント(著者最終稿)を登録してもらうのが無難だと思います。

4. 登録

あとは管理者側の作業となります。私のときは提出から2.5週ほどで、登録されたとの連絡が届きました。弘前大学学術情報リポジトリやIRDBで参照できるようになるのはもちろんですが、CiNiiの検索結果からも機関リポジトリに誘導されるようになりました(もともと出版社側でWeb公開している場合は、その効果はないかもしれません)

私どもの論文は登録から2年ほどになりますが、1日1件のペースでダウンロードされているようです。機関リポジトリに登録した目的はそれなりに達成されたと感じています。