前回の続きになります.常時微動を計測する学生実験において,常時微動とは言えない地震を観測したという話です.今度は海外の大地震の事例になります.
2015年5月12日
この日の4カ所目の測定において,写真1のような長周期の振動が検出されました.
紙の送り速度が毎秒1cmですので,周期15~20秒程度の振動が観測されています(測定に使っている地震計は,固有周期5秒の速度型です.それゆえ,長周期成分の振幅は実際より小さく出力されています).このような長周期の振動は,普段は見られないものです.たとえばこの数分前の計測波形を写真2に示しますが,少なくとも写真1で見られたような顕著な長周期成分は見当たりません.
測定時は(というかその日のうちは)なぜそのような振動が見られたのかがわかりませんでした.しかし後になって,その日にネパールでM7.3(7.2?)の地震(リンク先は気象庁の地震・火山月報)が発生していたことがわかりました(同年4月25日に発生した地震の最大の余震です).担当教員に尋ねたところ,観測された長周期の振動は確かにその地震によるもので,その表面波が観察されているのだろうということでした.
表面波が何なのかをよくわかっていませんでしたが,地球内部を伝わるP波やS波など(それらを実体波と呼ぶ)と違い,文字通り地球の表面を伝わる波です.それが生じるメカニズムについて説明する力は私にはありませんので,よく知られている性質をいくつか列挙するにとどめます.
- 震源が浅い地震において顕著に見られる.
- 距離に対する減衰が実体波に比べて小さい.
- 上下動成分を含むレイリー波と,上下動成分を含まないラブ波がある.
- 伝播速度はS波よりやや遅く,3 km/s 程度である.
- 周波数によって速さが異なる(長周期の方が速い).この性質を分散と言う.
それではこれらの性質を確認してみましょう.その地震が発生したのは,日本時間で16:05です.16:28頃には表面波が見えておらず(写真2),16:34頃には観測できているので(写真1),震源から30分近くかけて弘前大学に届いたということになります.ネパールから日本までの地球表面上の距離がだいたい5000 km (有効数字1桁)ですので,確かに 3 km/s 程度で伝播してきた計算になります.
写真1の数分後(16:38頃?)の記録も残っていました.
同じように長周期成分が見えますが,周期が10秒程度と、写真1のそれより短くなっています.これはまさに表面波の分散によるものと考えられます.時間が経って,より短周期の表面波が届いたことにより,観測される周期が短くなったということです.
またこの地震では,日本国内では震度1以上が観測された地点はなかったようです.実体波は日本に至るまでにほとんど減衰してしまっていると考えられますが,表面波は相対的に減衰が小さいので,こうして観測できたということなのでしょう.さらにこの地震の震源の深さが15kmと比較的浅かったことも,表面波を観測できた要因と言えるのかもしれません.
以下余談
以下は余談になりますが,これまで挙げたデータの測定点はいずれも2号館3階エレベータ前の防火扉付近だったようです.その次に2号館1階の同じような場所で測定していますが,写真4,写真5のようなデータが得られました.
この地点で測定することは毎年何回かありますが,普段とは違う波形が見えているような気がします(普段は写真2に近い波形が観察されます).しかも16:55と16:59で波形がずいぶん違うのも気になります.これらも地震の影響を受けているのかもしれません.