電位差計の測定値

基礎物理学実験の「電位差計」では,最初に乾電池の起電力を測定します.6台の電位差計でその測定値にどのくらいのバラツキが生じるかを確かめてみました.

測定結果

今回の測定対象は,平形乾電池です.形状は珍しいかもしれませんが,中身はよくあるマンガン電池で,公称電圧は 1.5 V です.同じ仕様のものを2つ用意して,それぞれについて測定しました.結果は表の通りです(単位 V を省略).

乾電池A 乾電池B 零点(後述)
1.5713 1.4860 0.0000
1.5706 1.4854 0.0000
1.5705 1.4853 0.0001
1.5697 1.4848 0.0003
1.5683 1.4831 0.0004
1.5677 1.4827 0.0001

1つの行は同じ電位差計での測定値を示しています.それぞれの乾電池について同じような分布をとっており,最小値と最大値の幅は 3 mV を上回っています.

考察

起電力の測定値に 3 mV 程度の幅が生じました.しかし,電位差計の本来の精度はこの程度ではないはずです.それでは何がこのバラツキを生んでいるのでしょう?

電位差計ごとの値の差が等しいことから,零点位置のズレを一応疑いました.しかし,零点での測定値(両端子を短絡した場合の測定値)の違いは最大でも 0.4 mV であり(起電力測定値の違いより1桁小さいということ),しかも乾電池の起電力測定値の大小とは無相関(負の相関?)なので,それが主要な要因ではないことは明白です.

考えられるのは,校正用の標準電池の劣化です.電位差計を使うにあたっては,内蔵されている標準電池を使って,電位差計内部の回路に流れる電流が所定の値になるように校正します.その校正の際には標準電池の起電力を設定する必要があるため,高精度で測定された値が与えられています.その値は私が担当する前から使われている実験テキストに記載があるので,電位差計の納入時に与えられた測定値であり,それ以降一度も更新されていないものと推測します.基礎物理学実験の電位差計は20年以上使用しているため,現実の起電力値がその与えられた値から離れてしまっているものと考えられます(本来は標準電池が劣化しないように最新細心の注意を払って使われるものなのですが,学生実験ですので必ずしもそうされていない現実があるのでしょう).

標準電池の起電力を設定するためのダイヤルは設定範囲がそれほど広くなく,可動範囲の端から端まで振っても上記乾電池の測定値はせいぜい 1 mV 程度しか変わりません.つまり,測定値が 3 mV も変化するのが標準電池の起電力に起因しているとすると,それはもはや標準電池と呼べるものではないと考えた方がいいのでしょう.