EPMAでZnの状態を判別する

試料中のZnがメタルの状態で存在するのかそれとも酸化物として存在するのかをEPMAで知るためには、Lα線とLβ線の強度比を見るのが簡単です。

「電子線マイクロアナリシス」[1]の9.4.1節「簡単な状態分析と判定法」において、以下の記述があります。
本当のことを言うと、その引用である電子線マイクロプローブを扱う方向け(Webサイト「第一原理計算入門」内のページ)で知りました。

Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znが金属か酸化物か?
RAPまたはTAP結晶を用いて 10~15 kVでLαとLβを測定する.Lβの強度がLαの1/5程度以下なら金属,1/3程度以上あれば酸化物である.

さっそく標準試料を用いて確認してみましょう。加速電圧 15 kV、照射電流 3 nAで測定した結果が図1になります。

図1: ZnとZnOの標準試料を定性分析した結果

はい、Lβ線についてはZnもZnOも同じ程度の強度ですが、Lα線についてはZnがLαの5倍程度なのに対して、ZnOについては3倍程度となっています。すなわちLαとLβの強度比が、Znでは5:1、ZnOでは3:1となっており、文献[1]のとおりであることが確認できました。

以下余談。

このことを調べようと思い立ったのは、あるユーザからそのような依頼を受けたことがきっかけでした。そのユーザはオージェ電子分光装置で測りたいということでしたが、もともとの試料が絶縁物の粉末であり(=オージェ電子分光用に加工するのが困難である)、さらに以前EPMAで分析していた試料であったため、私からEPMAでの分析を提案したものです。

そのときは、なんとなくピーク位置のシフトで状態を判別できるものを考えていました。しかし標準試料を実際に測定してみると、思い込んでいたほどの変化がなかったため、改めて調査したところ文献[1]に巡り会った、という経緯をたどっています。(そして依頼者の試料ではZnが酸化物として存在していることを判別できました。)

また測定時は気が付きませんでしたが、図1を見ると酸化物については金属よりもピークが右にシフトしているように見えます。今回の測定のピッチが 0.05 mmで、シフト量もそれと同程度なので、有意かどうかはわかりません。

参照文献

  1. 副島啓義「電子線マイクロアナリシス」,日刊工業新聞社