特殊相対性理論と一般相対性理論の違い

「特殊相対論と一般相対論の違いを教えてください」などという質問は,何とか知恵袋とかでの定番の質問であろう。検索するとたくさんの Web ページがひっかかる。たとえばこことか。模範解答であるベストアンサーもそこに書いてある。ここでは,授業で万が一,こんな質問をされた場合の私の回答案をメモしておく。

(最近は「相対性理論」の授業を担当しなくなって久しいので,こんな質問を受けることはないけど。ちなみに言えば,ここの大学は50年以上の前の理学部時代から発展改組した理工学部の現在にいたるまで,独立した「相対性理論」の授業を開講しつづけている,地方大学としてはきわめてユニークと思われる大学なんですよ。)

特殊相対論とは

特殊相対論は,

  • 重力が無い場合,あるいは重力が十分に弱くて無視できる場合に
  • 着目する物体が光速に近いような速さで運動する場合

の現象を扱うときに必要となる理論。

また,

  • 全ての電磁気学現象も本質的に特殊相対論的現象である

といって差し支えない。たとえ荷電粒子が光速に近いような速さで運動していなくてもだ。

電磁気学の基礎方程式であるマクスウェル方程式からの帰結の1つに電磁波の存在がある。光もまた電磁波の一種であり,一定の速さ $c$ で伝播する。

では,光の速さ $c$  とはいったい何に対する速さか。この問いに答えることから特殊相対論がはじまったと言ってよい。

特殊相対論は,

  • 特殊相対性原理(全ての慣性系で物理法則は同じ形で書かれるべし)
  • 光速不変の原理(全ての慣性系で光の速さは一定であるべし:「光速度」不変と書くと,光の速さも向きも不変という意味になってしまいそうだが,「光行差」という現象で光の進む向きは変わるので。)

という2つの原理にもとづいている。これを業界用語的に言うと,特殊相対論の要請とは,

  • 全ての物理法則は,4次元(スカラー・ベクトルを含んだ)テンソルを使って,ローレンツ変換に対して不変な形に書かれるべし

ということになる。

19世紀,電磁気学の集大成として確立したマクスウェル方程式は,最初から特殊相対論の要請を満たしていたため,20世紀初めに特殊相対論が確立した後も,その形を変えることはなかった。電磁気学は最初から特殊相対論的であったわけだ。

一方,ニュートン力学の運動方程式や,ニュートン重力の理論である万有引力の法則などは,この特殊相対論の要請を満たしていなかった。そこで,運動方程式については特殊相対論の要請を満たすように修正がおこなわれることになる。

また,物質のミクロな物理現象を記述する理論である量子力学もまた,特殊相対論の要請を満たすように,相対論的量子力学・相対論的場の量子論といった分野が発展していく。

このように特殊相対論は,電磁気学,力学,量子力学などをはじめとして現代物理学の広範な分野に広く影響を与えている。その意味で,特殊相対論は極めて「一般的」であると言えるかもしれない。(時間の遅れとローレンツ収縮だけが特殊相対論ではない。あっ,それと $E=m c^2$ があった。)

ではなぜ特殊相対論は「特殊」なのか。それは,特殊相対性原理すなわち互いに等速度運動している慣性系でのみ物理法則は同じであるという制限があるから,というのが模範解答的であろうが,もっと簡単に言うと…

特殊相対論が「特殊」なのは,重力が無いときにしか使えないから。

また,たまに特殊相対論は等速度運動している現象のみ扱い,加速度運動している現象は扱えない,などという意味の解説が見られるが,そんなことはない。「運動する物体の電気力学」はそもそも特殊相対論のはじまりとなる論文であり,電磁場によるローレンツ力(「か」ではなく「りょく」)を受けた荷電粒子は加速度運動するし,等加速度運動するリンドラー座標や,相対論的粒子の加速(減速)による制動放射など,特殊相対論が扱う加速度運動は多岐にわたる。

この誤解はたぶん,等速度運動する慣性系間にのみ成り立つローレンツ変換と特殊相対論を同一視したことにあると思う。

特殊相対論=ローレンツ変換,ではない。こんな誤解を招かないために,「ローレンツ変換によらない特殊相対論の統一的理解」を書いていたりします。

一般相対論とは

簡潔に言えば,一般相対論とは重力の理論である

一般相対論は,

  • 非常に強い重力がある場合

の現象を扱う際に有効な理論である。

(逆に言えば,非常に強い重力があるときにしか有効でない理論であり,一般相対論は極めて「特殊」な状況でしか必要とされない理論である… などと以前は言っていたが,今や東京スカイツリー展望台の時計の進みを記述するためにも一般相対論が顔を出すようになった訳で… )

一般相対論は,

  • 一般相対性原理(互いに等速度運動している慣性系に限らず加速度運動をしている系も含めた全ての座標系で物理法則は同じ形で書かれるべし)
  • 等価原理(格言的には「慣性質量と重力質量は等価である」帰結として「局所的には重力加速度と運動の加速度は区別できない」ということが成り立つべし,と無理に「べし」終わりにしてみた)

という原理にもとづいている。これを業界用語的に言うと

  • 重力は(いわゆる他の「力」とは異なり)いれものとしての時空そのものの(曲率という)性質である
  • エネルギーや運動量をもった物質が存在すると時空が曲がる。いかに曲がるかを決めるのがアインシュタイン方程式である
  • 物理法則は(差し当たり重力法則くらいだけだけど)4次元テンソルを使って一般座標変換に対して不変な形に書かれるべし
    (そもそも,スカラー・ベクトル・テンソル自体が座標系に依存しない不変な幾何学的オブジェクトであるわけだけと… )
    (4次元じゃぁなくて,昔懐かしカルツァ・クラインや最近の高次元理論についてはここでは割愛… )

ということになる。

… って,こんなにぐだぐだと書いちゃうと,とてもじゃないが何とか知恵袋とかのベストアンサーには到底なれないですね… orz