ケプラー運動の真近点離角 $\phi$ と離心近点離角 $u$ との関係については,Memo「ケプラー運動の時間平均を真近点離角の積分で求める」にまとめた。木下宙著「天体と軌道の力学」によれば,
\begin{eqnarray}
\tan \phi
&=& \frac{\sqrt{1-e^2} \sin u}{\cos u – e}
\end{eqnarray}
あるいは,半角表示で
\begin{eqnarray}
\tan \frac{\phi}{2} &=& \sqrt{\frac{1+e}{1-e}} \tan \frac{u}{2}
\end{eqnarray}
これをもう少し別の角度から見てみようという話。
動径座標の表記による離心近点離角の定義
楕円の焦点を原点とした極座標 $r, \, \phi$ で表した楕円の式は
$$r(\phi) = \frac{a (1-e^2)}{1 + e \cos\phi}$$
この角度座標 $\phi$ をあらたまった言い方で真近点離角と呼ぶのであった。離心近点離角 $u$ の導入は Memo「ケプラー運動の時間平均を真近点離角の積分で求める」にまとめているのでそれを見ていただくとして,この $u$ を使うと動径座標 $r$ は以下のように書けることがわかっている。
$$r = a (1 -e \cos u)$$
であれば,いっそのこと,
$$ \frac{r}{a} = \frac{1-e^2}{1 + e \cos\phi} \equiv 1 -e \cos u$$
を真近点離角 $\phi$ と離心近点離角 $u$ の関係の定義であるとして,全てはこれから始めるとしたらどうか,という話。
真近点離角 $\phi$ と離心近点離角 $u$ の関係
この定義から,以下のように $\phi$ の関数を $u$ を使って表すことができる。
\begin{eqnarray}
\frac{1 -e^2}{1 + e \cos\phi} &\equiv& 1 -e \cos u \\
\cos \phi &=& \frac{\cos u -e}{1 -e \cos u} \\
\sin \phi &=&\frac{ \sqrt{1 -e^2} \,\sin u}{1 -e \cos u} \\
d\phi &=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{1 -e \cos u} \,du
\end{eqnarray}
最後の $d\phi = \dots$ の式は,Memo「ケプラー運動の時間平均を真近点離角の積分で求める」で求めた,時間積分と角度積分の間の関係
$$ \frac{dt}{T} = \frac{ r\, du}{2 \pi a} = \frac{r^2 \, d\phi}{2 \pi a^2 \sqrt{1 -e^2}}$$
からも直接求めることができる。
一応,計算をまとめておくと,$\cos\phi$ については,
\begin{eqnarray}
\frac{1 -e^2}{1 + e \cos\phi} &\equiv& 1 -e \cos u \\
1 + e \cos\phi &=& \frac{1 -e^2}{1 -e \cos u} \\
e \cos\phi &=& \frac{1 -e^2}{1 -e \cos u} -1 \\
&=& \frac{1 -e^2 – (1 -e \cos u)}{1 -e \cos u} \\
&=& \frac{e (\cos u -e)}{1 -e \cos u} \\
\therefore\ \ \cos\phi &=&\frac{\cos u -e}{1 -e \cos u}
\end{eqnarray}
$\cos\phi$ がわかると,$\sin \phi$ は
\begin{eqnarray}
\sin^2 \phi &=& 1 – \cos^2 \phi \\
&=& \frac{(1 -e\cos u)^2 – (\cos u -e)^2}{(1 -e\cos u)^2} \\
&=& \frac{1 -2 e \cos u + e^2 \cos^2 u – \cos^2 u + 2 e \cos u -e^2}{(1 -e\cos u)^2} \\
&=& \frac{(1 -e^2) (1 – \cos^2 u)}{(1 -e\cos u)^2} \\
&=& \frac{(1 -e^2) \sin^2 u}{(1 -e\cos u)^2} \\
\therefore\ \ \sin \phi &=& \frac{ \sqrt{1 -e^2} \,\sin u}{1 -e \cos u}
\end{eqnarray}
また,
\begin{eqnarray}
d\left(\frac{1 -e^2}{1 + e \cos\phi}\right) &=& d\left(1 -e \cos u\right) \\
\frac{1 -e^2}{(1 + e \cos\phi)^2} \, e \sin\phi\, d\phi &=& e \sin u \, du \\
\therefore \ \ d \phi &=& \frac{(1 + e \cos\phi)^2}{1 -e^2} \, \frac{\sin u}{\sin \phi} \, du \\
&=& (1 -e^2) \frac{1}{(1 -e\cos u)^2} \frac{1 -e \cos u}{\sqrt{1 -e^2}} \, du \\
&=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{1 -e \cos u} \,du
\end{eqnarray}
離心近点離角 $u$ を使った置換積分の例
なので,離心近点離角の導入経緯は一旦忘れて,置換積分の際の変数変換として $u$ を用いるという,道具としての意義だけでもけっこう便利である。以下はその例。
なんでこんな積分を書いておくかというと,卒論ネタとしてそのうちに必要になるからですよ,たぶん。
例 1.
\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 + e \cos \phi}\, d \phi
&=& \frac{1}{1 -e^2} \int_0^{2 \pi} (1 -e \cos u) \cdot \frac{\sqrt{1 -e^2}}{1 -e \cos u} du \\
&=& \frac{2 \pi}{\sqrt{1 -e^2}}
\end{eqnarray}
あっちでもこの積分を計算していたが,やたら大変なことになっていた。
ちなみに,被積分関数の分母の $e$ の前の符号をマイナスに変えても答えは同じになる。
\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 -e \cos \phi}\,d \phi
&=& \frac{2 \pi}{\sqrt{1 -e^2}}
\end{eqnarray}
このことは,$e \rightarrow -e $ として計算を追っていけば理解できるだろう。また,$\phi = \pi -x$ という変数変換をして,被積分関数が周期 $2 \pi$ の周期関数であることを使えば,
\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 + e \cos \phi}\,d \phi
&=& \int_0^{ \pi} \frac{d \phi}{1 + e \cos \phi} + \int_{\pi}^{2 \pi} \frac{d \phi}{1 + e \cos \phi} \\
&=& \int^0_{ \pi} \frac{-dx}{1 -e \cos x} + \int_{0}^{- \pi} \frac{-dx}{1 -e \cos x} \\
&=& \int_0^{ \pi} \frac{dx}{1 -e \cos x} + \int^{0+2\pi}_{- \pi+2\pi} \frac{dx}{1 -e \cos x} \\
&=& \int_0^{ 2 \pi} \frac{dx}{1 -e \cos x}
\end{eqnarray}
としても証明できるであろう。この結果は以下の例 4. で使う。
例 2.
\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{(1 + e \cos \phi)^2}\,d \phi
&=& \frac{1}{(1 -e^2)^2} \int_0^{2 \pi} (1 -e \cos u)^2 \cdot \frac{\sqrt{1 -e^2}}{1 -e \cos u} \,du \\
&=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \int_0^{2 \pi} (1 -e \cos u)\, du \\
&=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \Bigl[ u -e \sin u \Bigr]_0^{2 \pi} \\
&=& \frac{2 \pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2}
\end{eqnarray}
この積分は楕円の面積を求める際に現れる。
\begin{eqnarray}
S &=& \int dS \\
&=& \frac{1}{2} \int_0^{2 \pi} r^2 \, d\phi \\
&=& \frac{1}{2} a^2 (1 -e^2)^2 \int_0^{2 \pi} \frac{1}{(1 + e \cos \phi)^2} \, d \phi \\
&=& \frac{1}{2} a^2 (1 -e^2)^2 \cdot \frac{2 \pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \\
&=& \pi a^2 \sqrt{1 -e^2}
\end{eqnarray}
例 3.
\begin{eqnarray}
\int_0^{2 \pi} \frac{\sin^2 \phi}{(1 + e \cos \phi)^3} \,d \phi
&=& \frac{1}{(1 -e^2)^3} \int_0^{2 \pi} (1 -e \cos u)^3 \cdot \frac{(1 -e^2) \sin^2 u}{(1 -e \cos u)^2}
\cdot \frac{\sqrt{1 -e^2}}{1 -e \cos u} du \\
&=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \int_0^{2 \pi} \sin^2 u\, du \\
&=& \frac{\sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2} \int_0^{2 \pi} \frac{1 – \cos 2 u}{2}\, du \\
&=& \frac{\pi \sqrt{1 -e^2}}{(1 -e^2)^2}
\end{eqnarray}
例 4.
$\displaystyle I = \int_0^{2 \pi} \frac{a -b \cos\phi}{a^2 + b^2 -2 a b \cos\phi}\,d\phi$
この積分は,電磁気学で出てくるので理工系の数学 B でも話をしている。
$\cos \phi$ の有理関数なので,$t = \tan \frac{\phi}{2}$ とおいて置換積分というのがセオリーだが,離心近点離角を使った置換積分に帰着することを使って,あらためて計算してみよう。
$a > 0, b > 0$ として $a = b$ の場合は,
\begin{eqnarray}
I &=& \int_0^{2 \pi} \frac{a -a \cos\phi}{a^2 + a^2 -2 a^2 \cos\phi}\,d\phi \\
&=& \frac{1}{2 a} \int_0^{2 \pi}\,d\phi \\
&=& \frac{\pi}{a}
\end{eqnarray}
なので,以下では $a \neq b$ とする。
$$e \equiv \frac{2 a b}{a^2 + b^2}$$
とおくと,相加平均・相乗平均の関係から
$$ 0 < e < 1$$
であることがわかる。まさに楕円軌道の離心率 $e$ とみなすことができるよね。
\begin{eqnarray}
I &=& \int_0^{2 \pi} \frac{\frac{a^2 -b^2}{2 a} + \frac{a^2 + b^2}{2 a} \left(1 -e \cos\phi\right)}
{\left(a^2 + b^2\right) \left(1 -e \cos\phi\right)} \, d\phi \\
&=& \frac{a^2 -b^2}{2 a (a^2 + b^2)}
\int_0^{2 \pi} \frac{1}{1 -e \cos\phi}\, d\phi + \frac{1}{2a} \int_0^{2 \pi}\, d\phi \\
&=& \frac{a^2 -b^2}{2 a (a^2 + b^2)} \cdot \frac{2 \pi}{\sqrt{1 -e^2}} + \frac{1}{2a} \cdot 2 \pi \\
&=& \frac{\pi}{a} \left( 1 + \frac{a^2 -b^2}{a^2 + b^2} \cdot \frac{1}{\sqrt{1 -e^2}}\right)
\end{eqnarray}
さて,
\begin{eqnarray}
e &\equiv& \frac{2 a b}{a^2 + b^2} \\
\therefore\ \ 1 -e^2 &=& 1 -\frac{4 a^2 b^2}{\left(a^2 + b^2\right)^2} \\
&=& \frac{\left(a^2 -b^2\right)^2}{\left(a^2 + b^2\right)^2} \\
\therefore\ \ \sqrt{1 -e^2} &=& \frac{|a^2 -b^2|}{a^2 + b^2}
\end{eqnarray}
$\sqrt{x^2} = |x|$ であり,一般には $\sqrt{x^2} \neq x$ ということも忘れずに。したがって
\begin{eqnarray}
I &=&\frac{\pi}{a} \left( 1 + \frac{a^2 -b^2}{a^2 + b^2} \cdot \frac{1}{\sqrt{1 -e^2}}\right) \\
&=& \frac{\pi}{a} \left( 1 + \frac{a^2 -b^2}{|a^2 -b^2|}\right) \\
&=& \frac{\pi}{a} \left( 1 + \frac{(a+b)(a -b)}{|(a+b)(a -b)|}\right) \\
&=& \frac{\pi}{a} \left( 1 + \frac{a -b}{|a -b|}\right) \\
&=& \left\{
\begin{array}{ll}
\frac{\pi}{a} (1+1) = \frac{2 \pi}{a} & (a > b)\\
\frac{\pi}{a} (1 -1) =0 & (a < b)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$a=b$ の場合も一緒にしてまとめると,$a > 0, \, b > 0$ として
$$I = \int_0^{2 \pi} \frac{a -b \cos\phi}{a^2 + b^2 -2 a b \cos\phi}\,d\phi =
\left\{
\begin{array}{ll}
\frac{2 \pi}{a} & (a > b)\\
\frac{\pi}{a} & (a = b) \\
0 & (a < b)
\end{array}
\right.$$