電子の比電荷

概要

均一な磁場内では,その磁場に対して垂直な方向に運動する電子は,速度に対して垂直(かつ磁場に対して垂直)な向きのローレンツ力を受け,それによって円運動をします.その運動の軌道から電子の比電荷(e/m;電荷と質量の比)を求めることができます.

電子の比電荷を測定する実験としては,トムソンの実験と呼ばれる方法(運動する電子に磁場と電場を同時に印加する)もありますが,ここでは電子のサイクロトロン運動を利用しています.大学の学生実験として電子の比電荷を測定する場合は,だいたいがサイクロトロン運動を利用していると思います.

装置と方法

ある種の気体を低真空程度の圧力で満たした管球の中で電子が運動すると,電子がその気体と衝突することで可視光を放出します.それによって,運動する電子の軌道を肉眼で捉えることができます.
真空度が高すぎる(=気体分子が少なすぎる)と衝突が起こりにくく軌道が見えにくくなります.真空度が低すぎる(=気体分子が多すぎる)と衝突が頻繁に起こりすぎて電子が満足に運動できなくなります.その中間にちょうどいい真空度というのがあるのでしょう.

また空間的に均一な磁場を発生させるために,ヘルムホルツコイルを使用します.ヘルムホルツコイルというのは,巻き数,半径ともに等しい2つのコイルをその半径だけ隔てて配置し,同じ向きに電流が流れるようにしたものです.

装置は,島津理化の比電荷測定器EM-30Nを使用しています.この測定を行うための(学生実験用の)装置としては高いシェアを占めているという印象があります.電子銃とヘリウムを内蔵した管球,電子銃用の電源回路,ヘルムホルツコイル,そして軌道半径測定用のスケールが組み合わさっています.定電流の電源(最大電流1.5A~2.0A),電圧計(300Vレンジ),電流計(2A~3Aレンジ)を別に用意する必要があります.

コメント

物理学実験の科目では,物理学のいろいろな領域に対応した題目が用意されますが,この「電子の比電荷」は原子物理学の入り口になる「電子」を比較的簡単な測定で意識することができるということもあって,採用されていることが多い題目だと思います.
一方で単純に測定しただけでは真値に近い値を得ることは難しく,誤差の原因やそれらを取り除くための工夫などが議論されています.また誤差の主要な原因(ここではあえて具体的には触れません)が,管球の使用状況に依存するものであるような実感があります.受講者にもそれを意識してもらうために,本実験室では装置の使用時間を記録してもらい,管球の累計の使用時間を参照できるようにしています.

EM-30Nについては,スケールが管球の手前にあります.そのため軌道の直径を読み取るには左右端に合わせて眼を動かす必要がありますが,それを怠り直径を過小に測定するというイージーミスが起こりがちではあります.(ちなみに世の中には,スケールが管球に内蔵されている装置もあります.ナリカのEM-6Nとか.)

EM-30N用の管球は消耗品となります.消耗が進むと,高い電圧をかけないと電子軌道が円軌道を描かなくなります(新品は100Vで円軌道を描くのに対して,酷いときは200V以上必要になる).本実験室では3年ほどの周期で交換しています.