熱の仕事当量

概要

熱量計内で電熱線からのジュール熱で水を加熱して,熱の仕事当量を求めます(水熱量計法).熱の仕事当量とは,かつて熱量の単位として使われていた cal (カロリー)が,どのようなレートで仕事の単位である J (ジュール)と変換されるかを表したものです.

装置と方法

ここで使っているのは,島津理化製の熱量計JK-100です.銅製容器が発泡スチロールで覆われており,プラスチック製の蓋がついています.蓋に取り付けられた端子は,容器中の水を加熱するための電熱線につながっています.撹拌棒もついており,容器中の水の温度を均一に保つことができます.現在(2025年時点)販売されているJK-100にはデジタル温度計が付属しているようですが,本実験室ではアナログなアルコール温度計を使っています.2000年代初頭までは水銀温度計が用いられていました.

電熱線に供給する電力は,直流安定化電源から供給します.直列に可変抵抗を挟んでいます.本質的には不要なものですが,安全性を高めるための配慮であると推測しています.電熱線にかかる電圧と流れる電流を,デジタルマルチメータ(もしくは可動コイル型の電圧計と電流計)で測定します.

電熱線で発生するジュール熱(仕事!)と水温の上昇速度,あとは水の質量がわかれば熱の仕事当量を求められそうですが,発生したジュール熱は水だけではなく銅製容器等の温度上昇にも寄与すると考え,予め銅製容器等の熱容量を求めます.熱容量の測定は,混合法で行います.すなわち水が半分ほど入った熱量計に湯を加え,温度変化を測定します.

コメント

実験の原理は,比熱,熱容量,ジュール熱といった高校物理の概念で理解できるものです.また使用する装置も基本的なものが多く,熱量計はやや特殊ですがそれでも構造はわかりやすいものです.したがって,物理を専門としない学生にも適当な実験テーマであると考えられます.

ただ,calという単位が(一部分野を除いて)表舞台から姿を消した(=熱の仕事当量という概念も死んだ?)今となっては,熱の仕事当量を測定するというお題目は必ずしもいいものとは思えません.calという単位の定義が水の比熱に直結したものであったことを鑑みると,これを水の比熱を求める実験として捉えるのが現代的であると言えそうです(たとえば電気通信大学の「基礎科学実験A」でそのような扱いをしています).

(多くの学科の)実験テキストでは,電流を 1.5 A に設定するように指示しています.熱量計の電熱線の抵抗が 2 Ω ないし 3 Ω ですので,電熱線が消費する電力としてはせいぜい 7 W です.また,昇温速度を測定する温度範囲として,室温から 5~7 ℃ 上昇するまでと指示されています.他の大学の実験テキスト[2]と比較すると,熱の散逸が目立ちやすい条件設定であると考えられます.それが意図的なものなのか,装置の限界(用意されている電源の最大出力電流が 2 A であること,室温以下の水を用意するのが意外と面倒なことなど)によるものなのかは不明です.

一部科目では,電流や電圧の測定にはデジタルマルチメータを導入しています(可動コイル型の計器を使用している科目もあります).積極的な希望があってそうなったのではなく,高精度なアナログ計器が生産終了になり[1]調達も困難になることが予測されたため,アナログ計器であることが要求されないこの題目の計器をデジタル化した,という事情がありました.

参考文献・Webサイト

  1. たとえば 小型携帯用電流計、電圧計 | 横河計測株式会社 は2019年末に販売終了となっている.初等教育で使われるような低精度(JIS2.5級)のものは,2025年時点でも教材販売会社で取り扱っているのを見かけることができる.
  2. たとえば岩手大学工学部マテリアル工学科の「物理学実験」(2014年当時)では,15 W あるいは 20 W のジュール熱が発生するような設定が指示されている.「…Vが10ボルト位ならばAは2アンペア、Vが5ボルト位ならばAは3アンペア位を示すようにして…