タイトルそのままの話。荒木田君への私信。Arakida & Kasai 2012 (AK) では,Kottler での曲がり角の計算の詳細を端折ったけど,ちゃんとやるとどうなるか,という話。
参考:
漸近的平坦性を仮定しない不変的な角度の定義でシュバルツシルトでの曲がり角をちゃんと計算している。
漸近的平坦性を仮定しない不変的な角度の定義
一般の時空内の任意の点における3次元的な角度の不変な定義についてまとめる。以下では,具体的な計算の際にはコトラー時空の計量テンソルの成分等を使っているが,定義自体は座標系によらない不変的な定義であり,任意の時空で使える。
AK では Eq. (12) のあとすぐに bending angle $\alpha$ を Eq. (13) で求めているが,この導出は漸近的平坦性を仮定した,$r \rightarrow \infty$ での振る舞いを使っている。しかし,Kottler は,漸近的平坦性がなく,$r \rightarrow \infty$ もできないので,この定義がキモとなる。
空間的ベクトルの内積から定義される角度
一般に,観測者の4元速度 \(\boldsymbol{u}\) に直交する空間的単位ベクトルを \(\boldsymbol{n}, \ \boldsymbol{\gamma}\) とすると,
$$\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{u} = 0, \ \boldsymbol{\gamma}\cdot\boldsymbol{u} = 0, \ \boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{n} = 1, \ \boldsymbol{\gamma}\cdot\boldsymbol{\gamma} = 1$$
この2つの空間的単位ベクトル \(\boldsymbol{\gamma}, \ \boldsymbol{n}\) のなす角を \(\varPsi\) は,以下の式から求めることができる。
$$\cos\varPsi \equiv \boldsymbol{\gamma}\cdot\boldsymbol{n}$$
4元ベクトル同士の内積から定義された \(\cos\varPsi\) したがって \(\varPsi\) は4次元スカラーであり,座標系によらない不変量である。
静止観測者の4元速度
まず,コトラー時空中の静止観測者の4元速度 \(\boldsymbol{u}\) の成分 \(u^{\mu}\) は
$$ u^{\mu} = \left(\frac{1}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}}, 0, 0, 0\right)$$
\(\boldsymbol{u}\) に直交する同時的3次元空間への射影演算子 \(P^{\mu}_{\ \ \ \nu}\) は
$$P_{\mu \nu} = g_{\mu\nu} + u_{\mu} u_{\nu}$$
動径方向の単位ベクトル
さて,\(\boldsymbol{n}\) をこの3次元空間における動径方向(中心向き)の単位ベクトル,その成分を \(n^{\mu}\) とすると,空間成分は動径成分のみであることから \(n^2 = n^3 = 0\)。また,\(\boldsymbol{u}\) に直交すること \( \boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{n} = u_{\mu} n^{\mu} = u_0 n^0 = 0 \) より \(n^0 = 0\),さらに規格化条件条件 \(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{n} = g_{11} (n^1)^2 = 1\) より最終的に
$$ n^{\mu} =\left( 0, – \sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}, 0, 0\right)$$
光の進む向きを表す単位ベクトル
\(\boldsymbol{\gamma}\) を \(\boldsymbol{k}\) で表される光の進む向きを表す空間的単位ベクトルとすると,その成分は
$$ \gamma_{\mu} \equiv \frac{P_{\mu\nu} k^{\nu}}{\sqrt{P_{\mu\nu} k^{\mu} k^{\nu}}} = \frac{P_{\mu\nu} k^{\nu}}{\omega}$$ となる。ここで \(\omega \) は4元速度 \(\boldsymbol{u}\) の観測者が観測する光の振動数をあらわし,コトラー時空では
\begin{eqnarray}
\omega = – \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{u} &=& -k_0\, u^0 \\
&=& \frac{\omega_c}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}}
\end{eqnarray}
これから \(\boldsymbol{\gamma}\) の成分 \(\gamma_{\mu} = g_{\mu\nu} \gamma^{\nu}\) のうち,実際に計算に使う \(\gamma_1\) は
\begin{eqnarray}
\gamma_1 &=& \frac{1}{\omega} P_{1\mu} k^{\mu} \\
&=& \frac{1}{\omega} g_{11} k^1 \\
&=& \frac{1}{\omega} g_{11} \frac{dr}{dv} \\
&=& \frac{1}{\omega} g_{11} \frac{d\phi}{dv}\frac{dr}{d\phi} \\
&=& \frac{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}}{\omega_c} \ \frac{1}{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2} \ \frac{\ell}{r^2} \frac{dr}{d\phi} \\
&=& \frac{\ell}{\omega_c} \frac{-1}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}} \frac{d}{d\phi}\left(\frac{1}{r}\right)\\
&=& -\frac{b}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}- \frac{\Lambda}{3} r^2}} \frac{d}{d\phi}\left(\frac{1}{r}\right)
\end{eqnarray}
となる。
ここで \(\displaystyle b \equiv \frac{\ell}{\omega_c} \) はシュバルツシルト時空の際の衝突バラメータであり,コトラー時空の場合の
$$\frac{1}{B} \equiv \sqrt{\left(\frac{\omega_c}{\ell} \right)^2 + \frac{\Lambda}{3}} = \sqrt{\left(\frac{1}{b}\right)^2 + \frac{\Lambda}{3} }$$
で定義される \(B\) とは異なることに注意。(AK の Eq. (11))
内積で定義される角度
2つの空間的単位ベクトル \(\boldsymbol{n}\) と \(\boldsymbol{\gamma}\) のなす角 \(\varPsi\) は,光の伝播方向と動径方向のとのなす角であり,その \(\cos\) は以下の式から求められる。
$$ \cos\varPsi \equiv \boldsymbol{\gamma}\cdot\boldsymbol{n} = \gamma_1 n^1 = \frac{b}{B} \frac{d}{d\phi}\left(\frac{B}{r}\right)$$
この角度 \(\varPsi\) が,シュバルツシルト時空の赤道面上(\(\theta = \pi/2\))の任意の点 \(\displaystyle \left( r(\phi), \phi\right)\) における光が動径方向となす角である。4元ベクトルの内積で定義される \(\varPsi\) は4元スカラーであり,座標系によらない不変量である。
ここに,\(r_g\) の1次までの解
$$\frac{1}{r} = \frac{\sin\phi}{B} + \frac{r_g}{B^2} \left(1 – \frac{1}{2} \sin^2\phi\right)$$ をいれると
$$\cos\varPsi = \frac{b}{B}\cos\phi \left( 1 – \frac{r_g}{B} \sin\phi\right)$$ となる。これから \(\sin\varPsi\) を求めると,\(r_g\) の1次までの近似で
\begin{eqnarray}
\sin\varPsi &=& \sqrt{1 – \cos^2\varPsi} \\
&\simeq& \sqrt{1 – \left( 1+ \frac{\Lambda}{3} b^2\right) \cos^2\phi \left( 1 – 2 \frac{r_g}{B} \sin\phi \right) } \end{eqnarray}
これだと,$\phi = 0$ のときルートの中が負になってしまう!つまり,Kottler では $\phi = 0$ の $x$ 軸を横切らないことになってしまうが… ?