球対称・真空ならば必ず静的で漸近的に平坦か?


上記の Wikipedia によれば,バーコフの定理(バーコフの2年前にイェブセンが発見してたらしい)とは「一般相対性理論において,真空場の方程式の球対称解必ず静的で漸近的平坦である」という定理である。この定理についておさらいし,ほんとに「必ず静的で漸近的平坦になるの?」という問いかけをしてみる。

ランダウ・リフシッツ「場の古典論」§100. 中心対称な重力場,の項などを参考にしてまとめる。

球対称時空の計量

球対称時空の計量は,時間依存性も最初は排除しないとすれば,一般に

$$ds^2 = – N^2(r,t) dt^2 + A^2(r,t) dr^2 + B^2(r, t) (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)$$

球対称時空の計量:$\dot{B} = 0$ の場合

以上のように書けると思うのだが,「場の古典論」をはじめとしたほとんどのテキストでは,一般性を失うことなくさらに
$$\frac{\partial B}{\partial t} = \dot{B} = 0 \quad\Rightarrow B = B(r) \equiv r$$

とし,以下の計量から計算をはじめている。

$$ds^2 = – N^2(r,t) dt^2 + A^2(r,t) dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)$$

この計量が真空のアインシュタイン方程式を満たすためには,時空が「静的」つまり $\dot{N} = \dot{A} = 0$ でなければならない,ということは,以下のようにアインシュタイン方程式の $3+1$ 定式化を使って示すことができる。

3+1 定式化による静的であることの証明

真空 $T_{\mu\nu} = 0$ の場合のアインシュタイン方程式の $3+1$ 表示は,

$$G_{00} = \frac{N^2}{2} \left( \left(K^i_{\ \ i} \right)^2 – K^i_{\ \ j} K^j_{\ \ i} + {}^{(3)}\!R^i_{\ \ i}\right) = 0 \tag{1}$$

$$G_{0i} = N \left(K^j_{\ \ i|j} – K^j_{\ \ j|i} \right) = 0 \tag{2}$$

$$R^i_{\ \ j} = \frac{1}{N} \dot{K}^i_{\ \ j} + K^k_{\ \ k} K^i_{\ \ j} – \frac{1}{N} N^{|i}_{\ \ |j} + {}^{(3)}\!R^i_{\ \ j} = 0 \tag{3}$$

ここで,

$$K^i_{\ \ j}  \equiv \frac{1}{2N} g^{ik} \dot{g}_{kj}$$

だが,上記の球対称計量を使うと $K^i_{\ \ j}$ のうちゼロでない成分は
$$K^1_{\ \ 1} = \frac{\dot{A}}{NA}$$

だけであり,他のすべての成分はゼロである。すると,$(2)$ 式の $i=1$ 成分から

\begin{eqnarray}
K^j_{\ \ 1|j} – K^j_{\ \ j|1} &=& K^1_{\ \ 1,1}
+ {}^{(3)}\!\varGamma^j_{\ \ j 1} K^1_{\ \ 1} – {}^{(3)}\!\varGamma^1_{\ \ 1 1} K^1_{\ \ 1} – K^1_{\ \ 1,1} \\
&=& \frac{2}{r} K^1_{\ \ 1} \\
&=& 0
\end{eqnarray}

より,ただちに

$$K^1_{\ \ 1} = 0, \quad\therefore\ \ \dot{A} = 0$$

これより,3次元計量 $g_{ij}$ は全ての成分が時間に依存しなくなるので,${}^{(3)}\!R^i_{\ \ j}$ も時間に依存しなくなり,$(3)$ 式から $N$ も時間に依存しないことがわかる。

このようにして,
$$K^1_{\ \ 1} = 0 \quad\Rightarrow \frac{\partial g_{\mu\nu}}{\partial t} = 0$$

となり,この計量は時間座標に依存しない「静的」な計量となる。

あとは,実際に詳細を解いていくと

$$ N^2 = \frac{1}{A^2} = 1 + \frac{\mbox{const.}}{r}$$

となり,漸近的に平坦なシュバルツシルト時空が得られる… というのが証明の流れ。

バーコフの定理の証明には,\(\dot{B} = 0\) という設定がキモとなる

球対称時空の計量:$\dot{B} \neq 0$ の場合は?

$$ds^2 = – N^2(r,t) dt^2 + A^2(r,t) dr^2 + B^2(r, t) (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)$$

この形のまま,$B(r,t)$ の時間依存性も認めてみると,例えば以下のような真空解が存在することがよく知られている。

$$ds^2 = -d\tau^2 + \frac{dR^2}{\left(\frac{3}{2}(R-\tau)\right)^{2/3}}
+ \left(\frac{3}{2}(R-\tau)\right)^{4/3} (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2) \tag{4}$$

\begin{eqnarray}
ds^2 &=& -dt^2 + t^2 \left(\frac{dr^2}{1 + r^2} + r^2(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2) \right) \tag{5}
\end{eqnarray}

何を言いたいのかというと,「球対称真空という条件からただちに \(\dot{B}=0\) が導かれるというものではない」ということ。

$(4)$ 式は座標変換によって静的なシュバルツシルト計量になることがわかっているので,まぁよしとしよう。(実際にはルメートル座標で表したシュバルツシルト計量で \(r_g = 1\) としたものです。)

しかし,$(5)$ 式は FLRW 計量を使ったフリードマン方程式で,$\Omega_{\rm m} = \Omega_{\Lambda} = 0$ としたときの解で,ミルン宇宙と呼ばれている。

球対称真空という条件だけでは,ミルン宇宙の存在を排除できないと思われる。それとも,ミルン宇宙の計量も適当な座標変換でシュバルツシルト計量になるのであろうか?

誰か,エライ人,教えてください。


… としばらく悩んでいたが,MTW の 27.11 にちゃんと書いてありました。ミルン宇宙は簡単な座標変換で(シュバルツシルト計量どころではなく)ミンコフスキー計量になってしまいます。

なので,すわ!バーコフの定理,破れたり!? などと早合点しないように。(私は思わず早合点してしまうところでした。)

このへんに追記。