ここでは,赤方偏移を統一的に理解する方法に従って,
I. 重力場中の光の伝播は,ヌル測地線で与えられる
II. 4元速度 $u^{\mu}$ の観測者が観測する光の振動数は $\omega = – k_{\mu} u^{\mu}$ で与えられる
という2つの原理原則から,シュバルツシルト時空中を円運動する観測者による横ドップラー効果の式を導く。
シュバルツシルト時空の赤道面上を伝播する光
シュバルツシルト時空は球対称であるので,一般性を失うことなく光の伝播を赤道面上 \(\displaystyle \theta = \frac{\pi}{2} \) に制限できる。
測地線方程式は別ページ「シュバルツシルト時空中の光の伝播」で解いているから,その結果を使うと,赤道面上を伝播する静止光源からの光の4元波動ベクトル $k_{\mu} = g_{\mu\nu} \,k^{\nu}$ について
$$k_{\mu} = \left(k_0, k_1, 0, k_3 \right) = \left(-\omega_c, \ \frac{\pm 1}{1 – \frac{r_g}{r}} \sqrt{\omega^2_c – \left(1-\frac{r_g}{r} \right)\frac{\ell^2}{r^2}}, \ 0, \ \ell \right)$$
複号 \(\pm\) は,動径方向外向きに伝播する光に対してプラス,内向きの光に対してマイナスをとる。
\(r = \mbox{const.}\) の円運動をしている観測者からみると,動径方向に伝播する光 \(k_{\mu} = (k_0, k_1, 0, 0)\) の入射角は,光行差によって $\frac{\pi}{2}$ にはならない。そのために,上記のように一般に $k_3$ 成分も考える必要がある。
シュバルツシルト時空中の静止観測者・静止光源
静止観測者の4元速度 $u^{\mu}$ は
$$u^{\mu} = \left(u^0, 0, 0, 0\right) = \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0\right)$$
静止光源からの光 \(k_{\mu}\) を,位置 $r$ で静止している観測者が観測したときの振動数 \(\omega\) は
$$\omega = – k_{\mu} u^{\mu} = \frac{\omega_c}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}$$
シュバルツシルト時空中を円運動する観測者
シュバルツシルト時空中を円運動する光源の4元速度 $\bar{u}^{\mu}$ は,別ページ「シュバルツシルト時空中を円運動する観測者」で計算したように,
$$\bar{u}^{\mu} = (\bar{u}^0, 0, 0, \bar{u}^3) = \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}, 0, 0,
\frac{1}{r}\frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}\right) $$
4元速度の合成則
静止観測者からみて,\(\theta = \frac{\pi}{2}\) の赤道面上を円運動している観測者の運動方向を表す空間的単位ベクトルは
$$e^{\mu} = \left(0, 0, 0, e^3\right) = \left(0, 0, 0, \frac{1}{r}\right)$$
であるから,4元速度の合成則は
$$\bar{u}^{\mu} = \frac{1}{\sqrt{1 – V^2}} u^{\mu} + \frac{V}{\sqrt{1 – V^2}} e^{\mu} $$
具体的な成分を使って書くと,
\begin{eqnarray}
\bar{u}^{\mu} &=& \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}, 0, 0,
\frac{1}{r}\frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}\right) \\
&=&
\frac{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}
\left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right) +
\frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}
\left(0, 0, 0, \frac{1}{r}\right)
\end{eqnarray}
したがって,
\begin{eqnarray}
V &=& \frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}
\end{eqnarray}
となるのであった。
また,運動観測者 \(\bar{u}^{\mu}\) からみた運動方向を表す空間的単位ベクトル \(\bar{e}^{\mu}\) は,
$$\bar{u}_{\mu}\bar{e}^{\mu} = 0, \quad \bar{e}_{\mu}\bar{e}^{\mu} = 1$$
であり,具体的な成分を使って書くと,
\begin{eqnarray}
\bar{e}^{\mu} &=& \frac{1}{\sqrt{1 – V^2}} e^{\mu} + \frac{V}{\sqrt{1 – V^2}} u^{\mu} \\
&=& \frac{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}
\left(0, 0, 0, \frac{1}{r} \right) +
\frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}} \left(\frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right) \\
&\equiv& \left(\bar{e}^0, 0, 0, \bar{e}^3 \right)
\end{eqnarray}
4元波数ベクトルの $3+1$ 分解
$$k_{\mu} = \bar{\omega} \left(\bar{u}_{\mu} + \bar{\gamma}_{\mu} \right) $$
ここで,$\bar{\omega} \equiv – k_{\mu} \bar{u}^{\mu}$ は運動観測者 \(\bar{u}^{\mu}\) が観測する振動数であり,$\bar{\gamma}_{\mu}$ は運動観測者 \(\bar{u}^{\mu}\) が観測する光の進行方向を表す空間的単位ベクトルであり,
$$\bar{\gamma}_{\mu} \bar{u}^{\mu} = 0, \quad \bar{\gamma}_{\mu} \bar{\gamma}^{\mu} = 1$$
特に,運動観測者にとって,進行方向と光の入射方向が直交するということは
$$\bar{\gamma}_{\mu} \bar{e}^{\mu} = 0$$
ということである。または,$\bar{u}_{\mu} \bar{e}^{\mu} = 0$ であることを思い起こせば
\begin{eqnarray}
k_{\mu} \bar{e}^{\mu} &=& k_0 \bar{e}^0 + k_3 \bar{e}^3 \\
&=& -\omega_c \bar{e}^0 + \ell\, \bar{e}^3= 0 \\ \ \\
\therefore\ \ \ell &=& \omega_c \frac{\bar{e}^0}{ \bar{e}^3} \\
&=& \omega_c r \frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{1 – \frac{r_g}{r}}
\end{eqnarray}
としてもよい。このときの \(\bar{\omega}\) は
\begin{eqnarray}
\bar{\omega} &=& – k_{\mu} \bar{u}^{\mu} \\
&=& – k_0 \bar{u}^0 – k_3 \bar{u}^3 \\
&=& \omega_c \bar{u}^0 – \ell \bar{u}^3 \\
&=& \omega_c \frac{1}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}} – \omega_c r \frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{1 – \frac{r_g}{r}} \frac{1}{r}\frac{\sqrt{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}\\
&=& \frac{\omega_c}{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}
\left(1 – \frac{\frac{1}{2}\frac{r_g}{r}}{1 – \frac{r_g}{r}} \right) \\
&=& \frac{\omega_c}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}} \frac{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}} \\
&=& \omega \frac{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}}
\end{eqnarray}
重力場中を円運動する観測者による横ドップラー効果
位置 $r$ で静止観測者が観測する振動数 \(\omega\) と,円運動する観測者が観測する入射角 $\frac{\pi}{2}$ の光の振動数 \(\bar{\omega}\) との比は,
\begin{eqnarray}
\frac{\bar{\omega}}{\omega}
&=& \frac{\sqrt{1 – \frac{3}{2}\frac{r_g}{r}}}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r}}} < 1
\end{eqnarray}
となる。この効果は観測者が運動する場合の重力場中の横ドップラー効果である。
横ドップラー効果の式との整合性
さて,本サイトでは別ページ「光のドップラー効果」において,横ドップラー効果の式は,(特殊相対論でのみ有効な)ローレンツ変換を使わずに求めることができることを示している。
横ドップラー効果の式
特に,静止光源からの振動数を \(\omega\),運動する光源からの振動数を \(\bar{\omega}\) と表記すると,横ドップラー効果の式
$$ \bar{\omega} = \omega \sqrt{1 – V^2} $$
は,特殊相対論的状況のみならず,その導出方法の一般性から,重力がある一般相対論的な状況においても同様に有効である。
円運動する光源の3次元的速さ $V$
動径座標 $r$ の静止光源からみると,目の前を通過する瞬間の円運動する観測者の速さ $V$ は,
\begin{eqnarray}
V &=& \frac{ \sqrt{\frac{1}{2} \frac{r_g}{r} } }{ \sqrt{1-\frac{r_g}{r}} }
\end{eqnarray}
となる。
ドップラー効果の式に代入して…
上記の $V$ をドップラー効果の式に代入すると,
\begin{eqnarray}
\frac{\bar{\omega}}{ \omega} &=& \sqrt{1-V^2} \\
&=& \sqrt{1 – \frac{ {\frac{1}{2} \frac{r_g}{r} } }{ {1-\frac{r_g}{r}} }}
&=& \sqrt{\frac{ 1-{\frac{3}{2} \frac{r_g}{r} } }{ {1-\frac{r_g}{r}} }}\end{eqnarray}
となり,(当然の結果ではあるが)上記で求めた $\displaystyle \frac{\bar{\omega}}{\omega}$ と一致している。